目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第5話 薬屋の評判



リラの新しい生活が本格的に始まった辺境の村。彼女は薬草店での仕事を続ける中で、その評判を徐々に広薬屋の評判めつつあった。村人たちは最初こそ、追放者であるリラに冷たい視線を向ける者もいたが、彼女の真摯な働きぶりと、的確な薬の調合による治療効果に心を動かされるようになっていった。



---


村人たちの信頼


薬草店を訪れる人々の間で、リラの評判は徐々に高まっていた。風邪や頭痛といった軽い症状だけでなく、慢性的な病に苦しむ人々にまで、彼女の調合した薬が効果を発揮したのだ。ある日、リラのもとに高齢の女性が訪れた。


「この足の痛み、もう何十年も続いているんだよ。どんな薬を飲んでも効かなくてねぇ……」


リラは女性の話をじっくり聞き、症状に合う薬を調合するために慎重に考えた。薬草店にある本を読み直し、さらに村の周囲に自生している薬草を採取しながら、一つ一つの成分を確認する。


「この薬をお試しください。即効性はありませんが、続けて使えば痛みが和らぐはずです。」

リラはそう言って、小さな瓶に詰めた薬を女性に手渡した。その数日後、彼女は再び薬草店を訪れ、涙ながらに感謝の言葉を述べた。


「本当に効いたよ! こんなに楽になったのは何十年ぶりか……ありがとう、お嬢さん!」


その言葉に、リラの胸は温かく満たされた。こうして彼女は村人たちの信頼を得ていき、薬草店は以前よりもずっと賑わうようになった。



---


周辺地域への広がり


評判はやがてこの村だけにとどまらず、周辺の村々にも広まった。ある日、隣村から農夫の男性が訪れた。彼は妻が高熱を出しているが、どの薬を使っても効果がないと困り果てていた。


「お願いします! 噂を聞いてここまで来ました。どうか妻を助けてください!」


リラはその切実な訴えに心を動かされ、すぐに必要な薬を調合した。だが、ただ薬を渡すだけでなく、男性に具体的な看病の方法や注意点を丁寧に説明する。


「水分をしっかり摂らせてください。食事が摂れないときは、この薬草を煎じたお湯を飲ませて、体力を維持しましょう。」


男性は深く頭を下げ、感謝の言葉を口にしながら帰っていった。数日後、彼は笑顔で再び訪れ、妻が回復したことを伝えた。


「本当に助かりました! あなたはこの村だけでなく、もっと多くの人を救える方です!」


この出来事がきっかけとなり、リラの薬草の知識と技術は隣村やその先の地域にも知られるようになった。彼女のもとには、村々を超えて訪れる人々が増えていった。



---


薬草店の変化


店主のガイドン老人も、リラの働きぶりに感嘆していた。彼はリラの提案により、店に新しい薬草を取り入れることを決めた。これまでの定番の薬草だけでなく、リラが提案した複数の新しい薬草を使った調合薬が販売されるようになったのだ。


「リラ、お前さんのおかげで店がこんなに繁盛するとは思わなかったよ。若いのに大したもんだ。」

ガイドンはそう言いながら、嬉しそうに笑った。だがリラは、それが自分ひとりの力ではないことをよく分かっていた。


「いいえ、ガイドンさんの経験と知識があるからこそです。私はほんの少しお手伝いをしているだけです。」

リラは謙虚に答えたが、ガイドンは「そんなことはない」と首を振った。


「お前さんは、自分をもっと誇っていいんだぞ。王都の貴族がどうだとか関係ない。今ここで、俺たちと一緒に村の人々を助けている、それが一番大事なことだ。」


その言葉に、リラの心はじんわりと温かくなった。自分の存在がここで必要とされている。それは、これまで失ったすべてを埋めるほどの大きな安心感だった。



---


心の変化


こうして忙しい日々を過ごすうちに、リラの心は少しずつ変わり始めていた。王都での生活を振り返ると、そこには確かに華やかさがあったが、本当の幸せはなかったように思える。


「ここでの生活は大変だけれど、確かに充実しているわ。」

リラは薬草の調合をしながら、そう独りごちた。王太子アルトールに追放され、すべてを失ったと思っていたが、この村での暮らしを通じて、失ったもの以上の大切なものを手に入れつつあった。


それでも時折、リラの胸には疑問がよぎる。彼女を陥れたアルトールとヴィヴィアンは、いまも王都で自分たちの罪を棚に上げ、のうのうと生きているのだろうか、と。


「……でも、復讐なんて意味がないわ。」

リラはそう自分に言い聞かせた。過去に囚われるのではなく、目の前にある幸せを大切にしたい。そう心に決めた。



---


次の課題


だが、リラには新しい課題が見えていた。薬草の需要が増え、村周辺で採れる薬草だけでは足りなくなり始めていたのだ。さらに遠くまで採取に行く必要があるが、リラひとりでは対応しきれない。


「もっと効率的な方法を見つけなきゃ……」


リラは夜遅くまで本を読みながら、新しい調合法や保存技術を学び始めた。自分が救える人の数を増やすために、できることはすべてやるつもりだった。


こうしてリラは、村の中だけでなく、広い地域にとっても欠かせない存在へと成長していく。その評判は、やがて彼女を再び王都と関わらせることになる――それを、彼女自身はまだ知らなかった。






この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?