辺境の村での日々が少しずつ慣れてきた頃、リラは村人たちと徐々に関わりを持つようになっていた。宿屋の女主人や薬草店の主人との会話を通じて、村の暮らしを知り、また、王都では想像もつかなかった人々の素朴な優しさに触れ始めていた。そんな中で、彼女は自分にできることを探し、少しずつ行動を起こし始めた。
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薬草店での仕事
薬草店の主人、ガイドン老人は、リラが薬草学の知識を持っていると聞いて最初は半信半疑だったが、彼女が調合を見事にやってのけるのを目にすると、信頼を寄せるようになった。
「お嬢さん、本当に薬草の扱いに慣れているんだな。この村の人間よりもずっと腕がいい。」
そう言いながら、ガイドンは彼女にさらに多くの調合を任せるようになった。リラは一心不乱に働きながらも、この仕事にやりがいを感じていた。
薬草店に訪れる人々の中には、重い病に苦しむ者もいれば、軽い風邪で薬を求める者もいた。リラはそれぞれに合った薬を丁寧に調合し、笑顔で手渡した。感謝の言葉を受け取るたびに、彼女の胸にはかすかな誇りが芽生えていった。
「私は誰かの役に立てる。小さなことかもしれないけど、これが私にできることなんだわ。」
リラはそう自分に言い聞かせ、さらに知識を深めるためにガイドンの蔵書を読み漁った。そこには、これまで宮廷では学べなかった実践的な知識が詰まっており、リラにとって新しい発見の連続だった。
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村人とのつながり
薬草店での働きぶりが評判となり、リラの名前は村中に広まった。初めは「王都から来た気位の高そうなお嬢様」という印象を抱いていた村人たちも、リラの真摯な態度を見て考えを改めた。
ある日、幼い少年が薬草店に駆け込んできた。
「姉ちゃん、助けて! 母ちゃんが倒れたんだ!」
少年の顔は涙でぐしゃぐしゃだった。リラはその言葉を聞くなり、すぐに必要な薬を袋に詰め、少年と一緒に家まで駆けつけた。
母親は高熱を出しており、リラは彼女を診察すると、すぐに薬を調合し、飲ませた。村には医者がいないため、彼女の知識が唯一の頼りだった。リラは母親を看病しながら、少年を安心させるように優しく語りかけた。
「大丈夫よ。お母さんはすぐによくなるわ。」
その言葉通り、翌朝には母親の熱が下がり、容態が安定した。少年と母親は涙ながらに感謝を伝え、リラも笑顔でそれを受け取った。
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セリウスとの再会
村での生活に忙殺される中、リラは再びセリウスと顔を合わせた。彼は村を行商として訪れるようになり、時折薬草店にも顔を出すようになった。
「君がここで頑張っていると聞いたから、様子を見に来たんだ。」
そう言って笑う彼の姿は、リラにとって心の支えになりつつあった。セリウスはただ彼女を見守るだけでなく、時には彼女の話に耳を傾け、アドバイスをくれる存在だった。
「リラ、君はもっと自信を持つべきだよ。君の知識と努力は、誰にでもできることじゃない。」
その言葉に、リラはふと自分の中に芽生えた変化を感じた。追放され、何もかもを失った自分に価値があるのか疑問だったが、セリウスや村人たちとの関わりを通じて、少しずつ肯定できるようになっていた。
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新たな決意
ある夜、リラは再び丘に登り、満天の星空を見上げた。風に揺れる草の音が心地よく、どこか穏やかな気持ちになる。
「私は、ここで新しい自分を見つけられるのかもしれない。」
そうつぶやいた声は、夜空に吸い込まれていった。かつての自分に縛られ、追放の痛みに囚われていた心は、少しずつ未来へと向き始めていた。
「アルトールやヴィヴィアンに復讐なんて考えない。それよりも、私はこの村で生きる道を見つける。ここで得た知識と経験を糧に、もっと強くなりたい。」
リラの目には、かすかな決意の光が宿っていた。星空が静かにその光を照らしているように感じられた。
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次なる一歩
翌日、リラは薬草店のガイドンに提案を持ちかけた。
「私、この村だけでなく、周辺の村にも薬を届けたいんです。少しでも多くの人を助けられればと思って。」
ガイドンはその提案を聞き、しばらく黙っていたが、やがて大きく頷いた。
「お嬢さん……いや、リラ。お前さんならできるだろう。協力するよ。」
こうして、リラの活動範囲は村を越えて広がり始めた。新しい挑戦に向けて動き出す彼女の姿は、村人たちにとっても希望の象徴となりつつあった。
リラは、王都での苦しい日々を振り返りながらも、そこに戻ることではなく、ここで築く未来に目を向け始めていた。
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