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第10話 トラブル



 初めて手を繋げたのは十九の時。男性が苦手だった私は、彼の華奢な手と骨格の違いを肌で感じた。ビクリとする私に、微笑みながら『どうした?るい』なんて甘く名前を呼んでくれるの。


 私はアタフタしながら、たどたどしい日本語でパニックになってる。免疫ないのよ、それもホストの仕事をしている人なんて、特に。


 女性の扱いにたけている彼は、簡単に、無意識にエスコートをする。私はお客じゃなくて『彼女』なのに、そんな事しなくていいから。


 (他の女性にも同じ事するのかな?)


 そう思うと不安で不安でたまらない。でもね、彼の微笑みを見ていると、彼がしたいようにしたらいいかな?って思ってしまうの。


 ――これが、惚れた・・・弱みってやつかな?


 実際、告白したのも、好きになったのも私からじゃなかったんだけどね。最初職業とか関係なく、いつも通りに関わってたら、急に笑いだしてさ。なんでこの人、笑ってんのかな?って嫌悪感さえ感じていた。


 え?それなのに、なんで付き合っているのかって?


 チラリと彼の横顔を見ながら、私はあの時に戻っていく……。



 ◇◇◇◇◇


 私の得意な事は『迷子』なの。スキルに近いのかもしれないね。道は繋がっているから、絶対たどり着ける自信があるんだ。友達に『その自信、どこから来てるの?』とよく呆れられるけど、私は、いつも通りに『大丈夫、大丈夫、どうにかなるから~』なんて危機感なんて一切感じない。


 確か、彼と出会ったのは、私が一人で隣の県をドライブしてた時だったっけ。うん……そうだと……思う・・


 ――違うからね、大切な彼との出会いの瞬間を忘れる訳ないから。


 私そこまで抜けてないし、こう見えてかなり・・・のしっかり者。そう言うとね、周りの友人達は笑い出すのよ。その度にどんよりな気持ちになるけど、皆が笑顔になってくれるのならいいかな?って幸せだよね~って思うんだ。


 いつも通り、冒険に来た私はグルングルンと色々な道を走り続けてる。窓を開けているとさ自然に囲まれているからかな?綺麗な空気が流れてて、心まで潤う感覚がするんだ。


 「うーん。凄く気持ちいいなぁ」


 このまま風に流れて消えてしまってもいい位、心地よくて……寝てしまいそう。家に帰宅したら縁側えんがわでおばあちゃんと温かいお茶でも飲もうかな。なんだか懐かしいというか、自分に馴染んでいる感じて好きだな、この感覚。


 楽しい時間はつかの間なのは、いつもの事。どうしてだろう?道を走っていたはずなのに、いつの間にか狭い道へと……。


 (大丈夫。道は繋がってるもの)


 先に進む選択肢しか私にはないから、どんどん進んでいく。するとね、軽自動車一台分しか通れないトンネルが現れた。正直『ラスボス』並だよね。私の感覚でだけど。


 「これ……進むしか……ないよね?」


 チラリと助手席を確認しても、いつも隣で座っている友人はいない。一緒にドライブに行こうって言ったのに『ろくな事ないから無理!』って断られたから……今更、不安になってきちゃった。


 「行こう。後戻りできないし!」


 そしてトンネルの中に入った瞬間だった。運転をミスして前に進む事が出来なくなっちゃったの。


 「どう……しょう」


 フルフル震えながら、大好きな愛車に何度もごめんね、ごめんね、と泣きじゃくる自分がいる。こんな時『救世主』がいればなぁ……。


 『どうしたの?』


 「え?」


 『ここ……歩行者用・・・・トンネルだよ?』


 「えぇえぇぇぇえぇ」


 『こんな所に突っ込む人、初めて見た……』


 「ごめんなさい、ごめんなさい」


 『いやいや謝らなくていいから』


 慌てて泣きじゃくる私に、きとんと指示して不安を安定へと導いてくれる。


 『ギリギリ隙間あるけど、出てくるの厳しいと思うからトランクを開けてくれないかな?』


 「トランク?」


 『そう。そしたら僕がトランクから入って、運転を変わるよ。それとサイドミラーを閉じて』


 「ん?」


 『歩行者専用トンネルだからさ。ミラーが引っかかっているのもあると思うからね。てか……強引に突っ込んだね』


 「すみません」


 『いやいや謝らなくていいから。その謝る癖やめたほうがいいよ?』


 「……はい」


 私は彼の言う通りにして、身を任せた。どうしたらいいのか分からず、見ず知らずの人を信用したって後で友人に伝えると『あんたって……』と溜息を吐けられちゃったっけ。


 私の車は古いタイプだし、何の不安もなかった。トンネルに勢い余って破損もないからさ。ゆっくり開いたトランクから『お邪魔するよ』と忍者のように、スルリと入り込む彼を見て、なんて綺麗な人だろうと見とれてしまった。


 ――彼には内緒だけどね。


 ◇◇◇◇◇


 あの後は色々な人に迷惑をかけてしまった。そして両親も駆けつけて大騒動。それがきっかけで、現在・・があるから結果オーライかな?



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