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第9話 待ちぼうけ


 駅のホームに私は立ってる。ガタンゴトンと電車が何本も過ぎ去っていくのに、私の心の時間はずっと止まったままだ。私服に着替えもせずに学校の制服のまま、こんな時間までずっと待ってるなんて、本当バカだよね。


 ――来るなんて見込みないのに、本当私、何してんだろ。


 イライラはしないの。学校ではさ、何故か分からないけど感情を表に出さないから『怖い』とか『何考えているのか分からない』なんて言われて敬遠されるの。子供の頃からの事だから、慣れてるっちゃ慣れてるんだけどね。


 (少しお腹空いたな……)


 指定の鞄なんて守らない私は、背負っている『リュック』から、何かないかな、とガサゴソ手を入れてみる。そんな時、スカートのポケットからスマホのバイブレーションが鳴り響いて、へばりついて違和感を感じる。


 (今、それどころじゃないから)


 私は今忙しいのよ。ええ、確か朝コンビニで買った飴があるから、それが欲しいの。ほら、よく言うじゃん?疲れた時には『糖分』って……。


 心の中で呟きながら、ふと思った事があるんだ。私イライラはしてないけど、疲れてるんだなって……改めて自覚しちゃった。


 そりゃそうよね。来るかどうかも分からない待ち人を待ってるんだからさ。ああ、これで何度目な訳?まぁ、付き合っている恋人同士じゃないから、別にいいんだけど。


 少し考えてみた妄想があるの。あいつ・・・と恋人同士ならどうなるのかって、自分で考えて、なんだけど、少しムカつくんだよね。


 (まぁ遅刻常習犯だし。今回は四時間か……もう帰っていいかな)


 いつもならとっくに帰宅しているけど、今日は特別だから、帰ってもいいのかどうか悩むのよね。


 『ぜってー待っとけよ!俺が行くまで。帰ったら二度と口きかねぇからな』


 どうして私、あいつ・・・の言う事聞いてるんだろ……。


 ◇◇◇◇◇


  駅のホームには屋根がある。だから濡れる事はないの。ポタポタと少しずつ、それでも確実に振ってくる雨は、私に涙をうながしていく。


 右目からツツツッと雫が涙に変わり、流れを出して地面へと堕ちて・・・いく。まるで私自身の心が『闇堕ち』するかのように……。


 ――期待なんてしてないからさ。私達は幼馴染だもん。


 どうしてかな?右目から左目へと浸食していく『苦しみ』が形になり、両目から溢れんばかりの涙を流していた。


 「止ま……らない」


 私は、何でこんな時間まで待っているの?今日は私の誕生日・・・なのに。一人でこんな雨の中……濡れてないのが不幸中の幸いね。


 俯きながら、誰にも気付かれないように、ひっそりと泣いている私がいる。


 ――惨めだ。


 体と心がシンクロしていて、いつの間にか両手で顔を隠しながら、震えながら、崩れかけている私がいた。弱くて、脆いるいの姿が……。


 『……遅くなってごめん』


 ギュと私の表情を見ないように、私のねじ曲がってプライドを隠してくれるように抱きしめながら、あいつ・・・が囁くの。


 『誕生日おめでとう』


 プレゼントは貴方・・からの指輪だったわね……。



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