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第5話 冒険者ギルドの受付嬢二人は今日も明日も推しを推す。

 またまたまたまたある日の皇国冒険者ギルド。


「二人とも、この間は大活躍だったよな。そのあとは、アデニアちゃんは騎士団の若手までボコボコにして……。あいつら、かなりの腕だったのになあ。それにしてもなあ、二人は皇王妃さ……じゃねえ、受付嬢長直々のご指名でこのギルドに配属されたお弟子さん。つまり、エリート、ってことは、もしかしたらアデニア、ラナータの名前も偽名で、ほんとうはお貴族様だったりしたり……?」

 金階級のベテラン冒険者から、半分冗談のようにこう言われた。

 もちろん、おさ、つまりは平日は受付嬢、休みの日は金階級冒険者として走り回っていた頃の皇王妃殿下のこともよく知っているほどの実力者なので、むしろ、若手冒険者たちが余計なことを二人に言わないようにという気遣いからの会話である。


「なんのことでしょうか?」

「ええ、わたしたちは受付嬢という仕事が大好きな普通の女子二人、でございますわ」

 その気遣いを理解している二人は、揃って華麗なカテーシーを披露する。


 一人は、皇国に数人いるかいないか、と言われる魔法銃操作資格者。

 もう一人は、高度魔法を無詠唱。しかも、系統の種類が多様という魔法の使い手。


 普通ではない。けっして、普通では、ない。

 だからこそ、もう、この話はおしまい。これ以上余計なことを言ってくれるなという圧でもあるのだ。


「うんうん、そうだよな。なら、二人が受付嬢をやってるのは……」

『空席の副ギルドマスター職を務めるために元副ギルドマスターが派遣した、なんてこともない……よな?』 

『そうですね』

『ええ』 

 念話を使った冒険者が笑い、二人もふふ、ほほ、と微笑む。

 二人の笑顔は美しく、念話を聞くことができたものも、できなかったものも、等しく見とれていた。


「それはもちろん」

「推し様を安全な場所から見守るためですよ

「ね」

 笑顔の二人が微笑みあうなか、皇国冒険者ギルドの扉が開いた。


「こんにちは」

「やあ、お二人とも」

「ハヤトウ様! あら、ハオルチア様の猫様と!」

「ハオルチア様! と……虹色スライムですか!」

 虹色スライム。たいへんに珍しいスライムで、人や獣にも擬態できる。義手や義足の材料としても人気な魔物でもあるのだ。

 手続きと費用はそうとうにかかるが、愛玩魔物として飼うことも可能である。

 しばらく姿を見せていなかったハヤトウが受けていた依頼。それが、この飼い虹色スライムの捜索、そして傷を付けずに捕獲という依頼であった。高額報酬であるが、それゆえに難易度も高い。

 捕獲までは依頼主から用意されたスライム用高級餌などでなんとかなったが、ということらしい。

 ちなみにハオルチアの不在は、学院の試験期間中であったためである。


『ハヤトウ様と猫様……! 目が、目が幸福!』

『分かる、分かるわよ! ハオルチア様がぷにぷにの虹色スライムちゃんと、というのも……いい!』 


「ああ、飼い虹色スライムの捜索依頼だったのだけれど、このスライム、女性が好きなようでね。確保して、なんとかなだめすかして連れていたところにハオルチア殿にお目にかかれて。猫殿には申し訳ないけれど、こうなったというわけだ」

『ラナータ、ここは任せて。お二人と猫様と虹色スライムちゃんの付添役は譲るから、行きなさい!』 

『アデニア、恩に着るわ。休日出勤なら一回、有給対応なら二回、仕事を引き受けるからね! もちろん、あのハオルチア様に頂いた手土産のお店のケーキセット付きよ!』

『ケーキセットだけでいいわ、我が心の友よ』

『ありがとう、我が推し友よ!』

 アデニアのその言葉に、ラナータは受付台を出てお二人と猫様と虹色スライムに声をかけ、魔物対応用の部屋へとご案内をする。

 そして、アデニアは腕組みで深く頷いてその様子を見守っていた。


 そう、二人は深く分かり合っている。

 推しのお仕事の充実、これ即ち、自分たちの幸せ。その前には自分たちの正体などは、些末さまつなことなのだ。


 アデニアと、ラナータ。

 二人は、皇国冒険者ギルド受付嬢長の一番弟子二人にして、受付嬢。それで、いい。


 そして、二人は。

 今日も、明日も、明後日も。


 皇国冒険者ギルドの受付嬢として、推し様方ならびに皆様のご安全を心よりお祈り申し上げております! なのである。


《了》

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