真っ白な空間の中で、死んでしまった俺はひたすら調子に乗っていた。
それはそれは、生前の比じゃないほど調子に乗っていた。
ご臨終ハイ、という状態がもしあるのなら、まさにその時の状況の俺だろう。
「という訳で、私の大切なシモベのネコチャンを救ったせいで、トラックに轢かれて死んでしまったあなたを、異世界に転生させてあげましょう、という訳なのです」
「ニョーン」
ちょっとポヤヤンとした感じのえらい美人の女神様が、全裸で正座している俺の前でそう言った。
彼女の膝の上の白猫も妙な声で鳴いた。
「いわゆる、チートって言うんですか、WEB小説で言われる転生特典も付けましょう。魔法のある世界なので、全属性対応で魔力が常人の五倍ぐらいでどうですか、さすがに魔力無限とかだとエネルギーの影響で時空間が歪んじゃうので駄目ですが、魔王さんぐらいだったら全然ありですよ」
俺は背筋を伸ばし、両手を太ももに付けて堂々と言い放つ。
「チートは要りません。前世の記憶があれば問題はありません」
その時、俺は確かにそう言った。
仕方が無いだろう、女神様のお姿が本当に俺の好みにジャストフィットして、彼女の前ではかっこ悪い事は言えない、悪く思われたくない、素敵に見えて欲しい、と見栄を張ってしまったのだ。
「え、い、要らないんですか、現代日本とは違う世界なのでチート能力が無いと色々辛いですよ」
「はい、要りません。俺は常々、異世界転生の奴らはズルいと思っていたのですよ、現地の人と同じ条件で戦っても無いのに何の達成感があるのか、何が偉いのか、とね。俺は卑怯が嫌いな一本気な男なので、チートなんか要らないのですっ」
「そ、それは、ええと、ご立派な覚悟ですね、
「ニョーン」
そうしろそうしろとネコチャンさんも言っているようだが、調子に乗った俺はさらに気分が大きくなり、その忠告は届かなかった。
「平民でかまいませんっ、前世の記憶と、この腕に宿った料理の腕で自分で成り上がりますからっ」
「ええっ、あの、地球で言うと中世ぐらいの文明レベルなので、平民ってすごく大変ですよ、せめてお金持ちとか、武家の出とか、ねっねっ」
俺はその時、余裕の笑みさえ浮かべていた。
「その世界では平民も生きているのでしょう、で、あるなら俺だけ特別扱いはいりません。自分の力だけで頑張ります」
「本当に良いんですか~?」
「ニョーンニョーン」
やめとけよリュウジとネコチャンさんが言っている気がするが、かまわないのだ、なぜなら、俺は立派で正しい人間だからなのだ!
「それでは、異世界に転生させてもらいますね」
女神様は手をくねくねさせて不思議な光を集め始めた。
「御厨隆二さん、あなたの新しい人生に幸いがありますように」
「ニョーンニョーン」
ネコチャンさんも祝福してくれた。
俺の体は女神さまの光に包まれてどこかへ移転していく。
「覚悟してくださいね、私の世界、意外に本格ファンタジーなんですよ」
「えっ?」