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本格異世界グルメ
本格異世界グルメ
川獺右端
異世界ファンタジースローライフ
2025年05月19日
公開日
1.2万字
連載中
リョウジは調子に乗りやすい男だった。 女神のペット、ネコチャンさんを助けて事故死した彼はお詫びに異世界に転生させて貰う事となった。 美しい女神の前で見栄を張りまくったリョウジは、チート能力はかっこ悪いので要らない事、貴族ではなく平民として転生させて貰う事を願った。 貴族になって無敵の魔法チートで無双ハーレムで楽しみなさいよ、という女神に対して、俺は自分の力でのし上がりたい、俺の料理の才能ならば絶対に大丈夫だと胸をはる。 リュウジは十五年後、前世の記憶を取り戻した時、その選択を身もだえするほど後悔する事になる。 彼の転生した農村は、塩も、砂糖も手に入らないぐらい貧しかったのだ。 彼の異世界グルメ成り上がり計画は始まる前から終わっていた。 どうする、リュウジ!! 地球の欧州中世文明準拠の異世界でなんとかして料理でのし上がろうとする本格グルメファンタジーです。

第一話 俺様異世界に立つ

 真っ白な空間の中で、死んでしまった俺はひたすら調子に乗っていた。


 それはそれは、生前の比じゃないほど調子に乗っていた。

 ご臨終ハイ、という状態がもしあるのなら、まさにその時の状況の俺だろう。


「という訳で、私の大切なシモベのネコチャンを救ったせいで、トラックに轢かれて死んでしまったあなたを、異世界に転生させてあげましょう、という訳なのです」

「ニョーン」


 ちょっとポヤヤンとした感じのえらい美人の女神様が、全裸で正座している俺の前でそう言った。

 彼女の膝の上の白猫も妙な声で鳴いた。


「いわゆる、チートって言うんですか、WEB小説で言われる転生特典も付けましょう。魔法のある世界なので、全属性対応で魔力が常人の五倍ぐらいでどうですか、さすがに魔力無限とかだとエネルギーの影響で時空間が歪んじゃうので駄目ですが、魔王さんぐらいだったら全然ありですよ」


 俺は背筋を伸ばし、両手を太ももに付けて堂々と言い放つ。


「チートは要りません。前世の記憶があれば問題はありません」


 その時、俺は確かにそう言った。


 仕方が無いだろう、女神様のお姿が本当に俺の好みにジャストフィットして、彼女の前ではかっこ悪い事は言えない、悪く思われたくない、素敵に見えて欲しい、と見栄を張ってしまったのだ。


「え、い、要らないんですか、現代日本とは違う世界なのでチート能力が無いと色々辛いですよ」

「はい、要りません。俺は常々、異世界転生の奴らはズルいと思っていたのですよ、現地の人と同じ条件で戦っても無いのに何の達成感があるのか、何が偉いのか、とね。俺は卑怯が嫌いな一本気な男なので、チートなんか要らないのですっ」

「そ、それは、ええと、ご立派な覚悟ですね、御厨隆二みくりやりゅうじさん。で、では、どこか中ぐらいの国の王子さまに生まれるようにしましょうか、ねっ、そうすれば来世は勝ち組で楽しいですよ」

「ニョーン」


 そうしろそうしろとネコチャンさんも言っているようだが、調子に乗った俺はさらに気分が大きくなり、その忠告は届かなかった。


「平民でかまいませんっ、前世の記憶と、この腕に宿った料理の腕で自分で成り上がりますからっ」

「ええっ、あの、地球で言うと中世ぐらいの文明レベルなので、平民ってすごく大変ですよ、せめてお金持ちとか、武家の出とか、ねっねっ」


 俺はその時、余裕の笑みさえ浮かべていた。


「その世界では平民も生きているのでしょう、で、あるなら俺だけ特別扱いはいりません。自分の力だけで頑張ります」

「本当に良いんですか~?」

「ニョーンニョーン」


 やめとけよリュウジとネコチャンさんが言っている気がするが、かまわないのだ、なぜなら、俺は立派で正しい人間だからなのだ!


「それでは、異世界に転生させてもらいますね」


 女神様は手をくねくねさせて不思議な光を集め始めた。


「御厨隆二さん、あなたの新しい人生に幸いがありますように」

「ニョーンニョーン」


 ネコチャンさんも祝福してくれた。

 俺の体は女神さまの光に包まれてどこかへ移転していく。


「覚悟してくださいね、私の世界、意外に本格ファンタジーなんですよ」

「えっ?」

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