かつて世界を支配していた
その竜を討ち果たし、世界を解き放ったのが、至聖神ルミエルである。
竜の亡骸からは、ひとつの樹が芽吹いた。
その樹はルミエルにより、
大樹は天を
そしてそれまで分かたれていた三つの世界を繋ぎ、新たな秩序と調和をもたらした。
三つの世界とは、神々と高次霊魂の座である
生前に
人々は輪廻の果てに天へ昇ることを信じ、祈り、善を成して生きる。
「我々エクレシア・ヴィヴァルボルムは、魂が
そう高らかに
エクレシア・ヴィヴァルボルム。
通称ヴィヴァ教団の最高指導者である。
聖都アルセリア、
「苦しみ多き
アルセリア聖堂前広場は、民衆の歓声に包まれた。
祝福に響き渡る鐘の音を奪い去るように、ひときわ強い風が吹いた。
その風は、聖堂前広場から少し離れた丘にある初等養成院―――通称
風に煽られ、庭木が騒めき、白衣を纏った子供たちの帽子が、幾つも空へと舞い上がった。
子供たちは笑いながら帽子を追い掛ける。
その表情には僅かばかりの翳りさえ見当たらない。
皆、誇らしげに見える。
ここは
ヴィヴァ教団が見い出した
聖なる教育機関であり、未来の
いずれ高次霊魂への道を歩む者を目指し、子供らは日々祈りを捧げ、教えを学ぶ。
この日、
簡単に言うなら入学式だ。
中庭、
白衣を纏った子供たちは整列し、緊張と期待の面持ちで、静かにその時を待っていた。
水面は空の青を映し、緩やかに波打っている。
泉のほとりには
澄んだ歌声は清らかな水の流れのようで。子供たちはうっとりと聞き入っていた。
子供たち一人ひとりの額に聖水を垂らし、その都度、祈りの言葉を口にする。
「天の道へと歩むを望む幼き魂に、
冷たい水が額を伝い、落ちる。
その瞬間、子供たちはそれぞれに何かを感じ取っていた。
そして高らかに鐘の音が響く。
祝福の時を告げる
その場の全員が
「至聖神ルミエルの御名に於いて、
それは初めての誓いの言葉。
祝福された導きの第一歩。
聖なる始まり。
儀式は終わり、あちこちで可愛らしいおしゃべりが始まっていた。
「わたし、パンドラ。
ふわふわとした金髪に赤いリボンをつけた少女が、隣の少女に微笑みかける。
その声は明るく、よく通る。
そして双眸はエメラルドのようにきらきらと輝いていた。
(……きれいな緑)
うっとりと見入ってしまって。
少女は返事をするのをしばし忘れていた。
「ねえ、お名前、なあに?」
再度問われ、亜麻色の髪の少女は慌てて口を開いた。
「アムル」
「素敵なお名前ね。ねえ、わたしたち、お友達になりましょうよ」
真っ直ぐな言葉に、躊躇いのないきらめく笑顔。
アムルは戸惑ったように紫色の目を瞬き、けれど花が綻ぶように笑った。
「もう、お友達でしょう?」
「わあ、よかった!」
頬に両手を当てて、パンドラはとろけるように笑った。
アムルも柔らかく邪気の無い、子供特有の笑顔を見せて。
それが出逢い。
そして、すべての始まりだった。