アムルはそっと見学の列から外れた。
皆、それぞれ
廊下に出れば、行き交う人の数は多い。
ここは聖都アルセリア。その大聖堂。
エクレシア・ヴィヴァルボルムの総本山である。
法衣を纏った
そんな中でも
せめてもの足掻きで、アムルは帽子を外すと、ぎゅっと胸に抱き締めて。
足早に「その場所」を目指した。
(知らない。けど、
どこへ向かっているのか。
どこへ行きたいのか。
アムルは段々と駆け足になる。
周囲の視線も、声も、何も気にならなくなっていた。
重い扉を僅かに
眩しいけれど優しい光が、ふわりふわりと蛍のように漂っていた。
柔らかな緑色。
少しパンドラの眸の色と似ているかもしれない。
そんなことを思った。
広い
手を伸ばせば届きそうなくらい近くに。
何本もの幹が互いに絡まり合い、太く重なって。
天と地を繋ぐように、遥か彼方まで伸びている。
端など、枝葉など、ここからは到底見えはしない。
苔むした樹皮。
幾千年も時を経た存在。
世界はこの大樹から始まったのだ。
ゆっくりと露台の端に近付いて。
アムルは
吸い寄せられるように、アムルは台座に近寄った。
ふわふわと夢見心地な足取り。
地に足がついている感じがしなかった。
ゆっくりと手を伸ばし、そして。
「触れてはなりませんよ」
柔らかく穏やかな声に止められた。
アムルは振り返ると、
そこに居たのは見知らぬ
老齢の男性だった。
「
「いいえ」
アムルはゆっくりと立ち上がり、首を横に振った。
「ここに、来たかったのだと思います」
「
「はい」
「呼ばれたのですか」
導師の言葉にアムルはまた、首を横に振った。
「違う、と思います。わたしは、ここに来たかった。
アムルはどんな表情を浮かべたらよいのか迷って、途方に暮れたまま導師を見た。
「あなたは、迷っているのですね」
「はい、
導師は静かに先を促す。
アムルはゆっくりと唇を舐めた。
緊張の
「わたしの友達が、一番大事な子が、
導師が頷く。
アムルは段々とわからなくなってきていた。
「わたしは、悪い子です。不敬です。
導師はそっとアムルに近寄り、俯いたその頭に手を乗せた。
そうして二度、優しく撫でた。
「あなたは、罰を受けたいのですね」
アムルは俯いたまま、頷いた。
導師は優しく続ける。
「あなたの迷いは若さ故です。
あなたはまだ子供。未熟な魂。
まだそこに至っていないだけなのです」
アムルは顔を上げた。
導師は優しい笑顔を向ける。
それは慈愛に満ちたもので。
心がほっと温かくなるような気がした。
「
迷って、悩んで。そして進みなさい。
いずれ、わかる時が来るかもしれません」
アムルは不安になった。
来るかもしれない。導師はそう言った。
それならば、来ないこともあり得るのではないだろうか。
「わからない時も、あるのでしょうか」
「人は未熟な存在です。
ですがあなたは
いつか正しい答えに辿り着けるはずです」
「正しい答え……」
アムルは不安そうに視線を揺らす。
「正しくない答を選んでしまったら……」
「
死者の使者の魂が向かうのは
罪を犯した者は
そしてそこで千年。
罪を償えば、また
それでも許されぬほど重い罪を犯した魂は、
「大丈夫ですよ。あなたは
導師の優しい微笑に、けれどアムルは黒い不安を消すことはできなかった。
(いつか、わたしは
何故だろう。
その考えが頭を