翌日は朝から村の中を歩き回りました。
私は撮影に関することはよく分からないので、道案内だけを担当しました。
三人は村の景色を、いろいろな場所からその都度三脚を立てて撮影していました。
なぜか誰も喋らずに撮影をしていたので、動画なのに喋らなくても良いのかと尋ねると、あとから映像にナレーションを乗せるから音声は必要無いのだと教えてくれました。
YouTube動画と言いつつ、まるでテレビの旅番組のようです。
小さな村のため、すぐに村の撮影は終わりました。
「じゃあ次は今回の目玉、祠の撮影だな!」
B島がわくわくした調子で言いました。
ここまでの撮影の進行を見るに、B島が三人の中でリーダーの立ち位置のようです。
ビデオカメラもずっとB島が回していたので、動画編集は彼が行なうのでしょう。
「期待しているところ申し訳ありませんが、ただの小さな祠ですよ」
「A木の話してくれた言い伝えがあれば、ただの祠でも特別なものになるんだよ」
「そうそう。ただのトンネルだって幽霊が出るいわく付きのトンネルってことなら、撮れ高はいくらでも作れる」
ここで私は気付きました。
三人がどんなYouTubeチャンネルを運営しているのか知らないことを。
彼らの活動には特に興味はありませんが、一応聞いておいた方が良いかもしれません。
「三人のチャンネルでは、どんな動画を投稿しているのですか?」
「やっと聞いたか。って言うか、動画の検閲をさせてほしいとか言うくせに、いつまでもチャンネルを聞いてこねえから不思議だったんだよな」
「まあ聞かれても答えるつもりはなかったんだけど。動画を投稿したら教えてやるよ」
三人は彼らだけで楽しそうに笑いました。
動画に関するここまでの話をまとめると、今回の動画の目玉は祠、怪しい山菜で視聴数が稼げる、過去に幽霊の出るトンネルを撮影していそう、です。
つまり彼らは、心霊系YouTuberなのでしょう。
……たぶん、ですが。
そうであるなら、車内で村の怪談を聞きたがった理由にも説明がつきます。
私は宴会で祖父母の近くに行っていたため三人が他の村民と何を話していたのかは分かりませんが、宴会の
場でも村に伝わる怪談を聞いていたのかもしれません。
ですが心霊動画を撮りたいと言ったのでは、私に村を案内してもらえないと思った三人は、村に泊まる動画を撮ると嘘を吐いたのではないでしょうか。
だって考えてみると変なのです。
村に泊まる動画を撮ると言っておきながら、彼らは就寝の様子を一切撮影していなかったのですから。
「早く祠に行こうぜ!」
「は、はあ」
とはいえ、彼らが心霊系YouTuberだったとしても、特に問題はありません。
きっと祠の前で怖がるだけでしょうから。
しかし彼らが迷惑系YouTuberだった場合には問題があります。
祠に悪戯をされたら、山の神と村民の怒りを買ってしまいます。
「確認ですが、あなたたちは悪いことをするつもりはないのですよね?」
私の言葉を聞いた三人は、ニヤニヤしながら私と肩を組んできました。
「言っただろ。俺たちは良い子なんだって」
「そうそう。だからA木は祠まで案内してくれればそれで良いから。あとは俺たちで上手いことやるから、な!」
「おう。良い子の俺たちにまかせとけって!」
なんだか怪しいものを感じますが、あの言い伝えを聞いた後で、まさか祠を壊したりはしないでしょう。
それに山の神の祟りを信じていないとしても、昨晩も今朝も村民に手料理をご馳走になったのに、恩を仇で返すような真似はしないはずです。
……彼らが本当に良い子なのであれば、ですが。
* * *
山登りは久しぶりのため、祠に到着するまでにずいぶんと体力を消耗しました。
この山は頻繁に登山客の訪れる山のように整備されているわけではなく、人が歩いたために他の場所よりも草が少ない、かろうじて道と思えるようなものがあるだけです。
その道を、私たち四人はひたすら登りました。
B島はビデオカメラを構えながら、C田はB島の分の荷物を持ちながらの登山だったため、私とD川で足元に転がる小石などの障害物を退かしながら進みました。
長い棒を持って道を進むのは、私の中の少年心がくすぐられて、正直かなり楽しかったです。
そのようにして山道を進んだため、距離としてはそこまででもなかったはずですが、祠の前に辿り着いた頃には四人とも汗びっしょりでした。
「これが例の祠です」
「おおーーーっ!!」
祠を見た三人は、疲れが吹っ飛んだかのような歓声を上げました。
そして各々撮影の準備を始めました。
私の役目は道案内だけなので、三人が撮影の準備をしている間に祠に手を合わせました。
少しすると、身だしなみを整え終わったC田とD川と、ビデオカメラを構えたB島が私を祠の前から退かしました。
「じゃあさっそく撮影を始めるぞ。まずはそっちに並んで」
C田とD川が、B島に言われた場所に並びました。
私はB島の後ろに回ってビデオカメラに映らないようにしつつ、彼らの撮影を見守ることにしました。
『ついにあの言い伝えの祠へやって来ました!』
『ここに来るまでかなり苦労しましたよ』
『そうなんですよ。映像でも分かったと思いますが、整備されてないんですよね、この山道』
『ろくに整備されてないところが、それっぽいとも言えますが』
いつも砕けた口調の二人なのに、動画ではですます調で話すのか、と私は変なところに感心をしてしまいました。
『村の祠に関する言い伝えは、この村出身の友人が話した通りです』
『共食いと怨念で穢れてしまった山の神の、穢れた部分を封印したという祠ですね』
『実は、俺はあの話に懐疑的なんです。この祠には神様の一部ではなく、怪異が封印されてるんじゃないかと思うんですよね。だって神様の一部を封印してるよりは、怪異を封印してるって方が、あり得る話だと思いません?』
『俺はこの村の言い伝え通りなんじゃないかと思ってます。だって山の神って山ごとに伝わってる姿が違うじゃないですか。きっとこの山の神は一部が切り離せるタイプの神なんですよ』
ビデオカメラはC田とD川の姿だけを映していて、祠は一切映していません。
どうやら祠の撮影を焦らしているようです。
動画時間を伸ばすためなのか、焦らした方が視聴数が稼げるのかは分かりませんが、祠の横で二人がひたすら喋っています。
『ほら、夢で透明な触手が追いかけてくるって話があったでしょう? きっと触手の一つが穢れちゃったんですよ。そしてその穢れた触手を切り離して封印した、というわけです』
『なるほど。それなら理解できるような……でも触手を切り離すって、誰が?』
『神様自身じゃないですかねー。いくら穢れてたって、人間に神様を切ることなんて出来ないでしょう?』
『ああ。神様が、山にちょうどいい祠が出来たから汚いものはここに仕舞っちゃえ!ってなったんですかね』
『きっとそんな感じですよ。そうやって穢れた部分が仕舞われた祠が、今まさに俺たちの横にあるわけです』
C田とD川が散々喋ったところで、ついに祠を映す流れになりました。
二人が一斉に手を伸ばして祠を指し示します。
『『その祠が、こちらです!!』』