ビデオカメラが祠を映しました。
そして映像に入るように、C田とD川が祠の前に移動します。
『ではさっそく、この祠を……』
『壊しちゃいます!!』
C田とD川が笑顔で言いました。
……祠を、壊す?
私は自分の耳を疑いました。
『あっ! ちょうどいいサイズの石発見!』
しかし私の耳は正常なようでした。
C田は辺りをきょろきょろして石を見つけると、それを手に取りました。
「えっ、ちょっ!?」
驚きで反応が遅れたものの、私がC田を止めるために動こうとすると、いつの間にか私の後ろに回っていたD川に羽交い絞めにされました。
「何をっ!?」
「A木はここで大人しくしててくれよ。祠が壊れるところ、一緒に見物しようぜ?」
羽交い絞めをしながらD川が耳元で囁きました。
藻掻いてみましたが、羽交い絞めからは抜け出せません。
『あっ、声が入っちゃいましたかね? 祠まで案内してくれたこの村出身の友人が、俺たちのことを止めようとしてるんですよ。現在D川には友人を押さえてもらう役をしてもらってます。だから少しの間だけ、俺一人しか映りませんけど、許してくださいね』
私たちの様子を見たC田が、カメラに向かってウインクをしました。
あまりにも軽い態度です。
彼らは軽い気持ちで村の祠を壊そうとしているのです。
「祠を壊したりなんかしたら、祟られますよ!?」
『今度はしっかり声が入りましたかね。今聞こえた声がこの村出身の友人です。車中でこの祠の言い伝えを話してくれた人ですね。村出身だから信心深いのかもしれません』
「あなたたちだって、話を聞いていたなら分かるでしょう!? 祠を壊したらどうなるのか!」
私は暴れましたが、D川の私を押さえる力も強くなっていきます。
私とD川では、D川の方が体格が良い分力も強いようで、どれだけ藻掻いても羽交い絞めから逃れることが出来ません。
『そうですね、祠を壊したら祟られるかもしれませんね』
C田は持っていた石を地面に置きました。
しかしホッとしたのも束の間、C田は石を置いた後すぐにまたその石を持ち上げると、カメラに向かって満面の笑みを見せました。
『だーけーどー、壊しちゃいます!』
C田は振りかぶった石を、勢いよく祠に投げつけました。
そして石をまた拾って、今度は殴るように祠に石を叩きつけます。
「あっ、ああっ……」
すぐに祠は、見るも無残な姿になりました。
祠をそんな状態にしたC田は、祠を凝視してからカメラに向かって首を傾げました。
『目視では何かが出てきたようには見えませんが……映像には何か映ってますかね?』
カメラが祠……だったものに近付いて、それを映しました。
その間に私の羽交い絞めが解かれました。
『現時点では何も映ってないらしいです。でもこういうのって編集時に実は映ってたってパターンが多いので、編集が楽しみですね!』
私から離れたD川が、祠だったものに近付きました。
『うわあ、派手に壊れてますねー』
近付いてきたD川に向かってC田が言いました。
『D川君も壊す?』
『壊すも何も、もう完全に壊れてるって。何かが封印されてたとしたらもう出てるよ』
D川がそう言いながらへらへらと笑いました。
C田と同じくD川も、祠破壊を深刻な事態とはとらえていないようです。
『……というわけで、このままこの村にいたら村民にぶっ殺されそうなので、俺たちはもう帰ります』
『みなさん、透明な触手の悪夢には気を付けてくださいね』
C田とD川がカメラに向き直り、締めの挨拶を始めました。
『タイムリミットは七日間もありますからね。悪夢を見た人は早めにお祓いに行ってくださいね!』
『ではみなさん。動画が面白かったら、チャンネル登録・イイネ評価をよろしくお願いします!』
『『またねーー!!』』
少しして、手を振ったC田とD川を撮影し終わったB島が、ビデオカメラを下ろしました。
私はもう、ただ茫然と成り行きを見守ることしか出来ませんでした。
「ふう。良い画が取れたぜ」
「あなたたちは……いつもこんなことをしているのですか?」
私は彼らに、力なく尋ねました。
「いつもじゃねえけど、今回は祠を壊すって決めてたんだ」
「たまには炎上系の動画を投稿しねえと、バズらねえからな」
「炎上商法って言うの? あれって一定の効果があるんだよな」
三人は口々にそんなことを言いました。
祠を壊した直後だというのに、まったく悪びれる様子はありません。
「ってことで俺たちはもう東京に帰るけど、A木も一緒に車に乗るか?」
「……私はやめておきます。村民たちにこのことを説明しなければなりませんから。あなたたちも一緒に村民に謝りませんか? その前にまずは山の神に謝罪をしないと」
断られるとは思いつつ、一縷の望みをかけて彼らに提案しました。
彼らに少しでも良心がありますように、とそんなことを願いながら。
「嫌だよ。山の神とか怖くねえし。それにわざわざ村民に怒られになんて行くわけねえだろ」
「そうそう。俺たちの用事はもう済んだからな。こんな村に長居は無用だ」
「って言うかA木、勇気あるなあ。村に呼び込んだ友人が祠を壊したなんて言ったら、お前が村民に殺されるんじゃねえ?」
三人は口々にそんなことを言いました。
彼らに良心を期待した私が馬鹿だったようです。
「……夏休みが明けても私が大学に来なかったら、そういうことだと思っておいてください」
私は罪悪感を一切抱いていない様子の彼らに、そう告げました。
「えーっ、マジで? じゃあそのときは拝んどくわー。A木が殺されたとしたら、俺たちのせいだからな!」
三人はゲラゲラと笑っています。
そんな彼らに、最後にもう一度だけ聞いてみました。
「三人は、どうしても謝罪をするつもりがありませんか?」
「嫌だって言ってるだろ!」
「俺たちはこれから東京に帰るんだよ」
「止めようとしても無駄だからな。三対一だ。A木に勝ち目なんかねえよ」
私に向かってファイティングポーズをとる三人に、私は呆れと諦めを抱きました。
もしも次に三人の姿を見る機会があるのなら、きっとその姿は、干からびたような死体でしょう。