(新星歴4817年4月19日)
「アルテ、お前が想定している場所と、俺が想定している場所をすり合わせたい。ああ、皆とも共有しよう」
全員に念話を送り、一度俺たちは会議室に集合した。
「みんな、俺はこれから茜としばらく世界を見て回ろうと思う。それで気になる箇所に封印を施すつもりだ。なので今から言う場所以外に、気になるところがあれば教えてくれ。共有したい」
がたっと音を立てて、立ち上がるダラスリニア。
「…私も……行く」
さらには慌ててエリスラーナも食い気味に、
「いく。連れていかないは不敬」
などと言い出す。
想定の範囲だ。
アースノートは自分が離れられないことを承知しているせいか「グヌヌヌ…」
とか言ってるし。
だんだんヒートアップしてきたところで俺は皆に話しかけた。
「茜にこの星の『暮らしている人々の様』を見せてあげたいんだ。…お前たち神が同行したら住民がひっくり返るぞ?基本待機で頼みたい」
俺の言葉に、モンスレアナが問いかける。
「…でしたらノアーナ様だと心臓が止まってしまいませんか?いくら存在を落とされたとはいえわたくしたちよりはまだまだお強いのですから」
「心配ありません。ノアーナ様に虚実を施します」
アルテミリスが感情の籠らない声で言う。
「俺には権能を調整できる能力があるから問題はないんだ。それに封印を行う時は応援を頼むからそれで我慢してくれ。第一お前らに頼んでいる仕事もあるだろうに」
はあーとため息が聞こえる。
何とか納得してもらえたようだ。
いつの間にか退屈しいていた茜がもぐもぐチョコレートケーキを2つ食べ終わっているけど。
相変わらずのマイペース娘め!
「話を進めるぞ。まずは『大いなる深淵の泉』アルカーハインだな」
「そしてアナデゴーラ大陸東部の古代エルフの森『エンチャート大森林』」
「極東の島国の3つ首岬の祠群の一番奥の祠」
「ノッド大陸ノズドワール地方の『キャルールトルンの正教会』」
「ああ、近場を忘れていたな『超古代迷宮ラーナルナ』の管理人控室。と、これで俺が気になっている5か所だ。ほかにあったら頼む」
ざっと上げた地点は、一番怪しいところで一度は皆が探索に行っている所ばかりだ。
反応はなかったが今回は安全のために封印するつもりだ。
「いえ、私の想定と同じです。さすがですね。安心しました」
アルテが無表情に答えてくれた。
良かった。
俺も安心した。
「んー。あとひとつ、気になるかなー。場所じゃなくて移動してるけどねー」
アグアニードが腕を組みながら、思い出すように話始めた。
「この前―、うちのイアードが灰色の石持ってて暴れだしたんだよねー。反応はゼロだったけどー」
「んで、どこで手に入れたかって聞いたら『移動する猫族旅団イミト』で買ったらしいんだよねー。最初黒かったらしいしー?」
「本人はー『最後の一個』を売りつけられたらしいから、いいとは思うけどー」
「あっ、もちろんシバいといたから心配ないよー」
移動する猫族旅団イミトはアルカーハイン大陸に出没するキャラバン隊で、珍しいものを求めて集団で常に移動している、商売人の集合体だ。
「わかった。心にとめておこう。ほかは良いか?」
「…良さそうだな。準備出来次第出発する。後は頼むぞ」
※※※※※
今日からしばらくの間、わたしは光喜お兄ちゃんとお出かけ、じゃなかった、冒険の旅に出ることになった。
うん。
とっても楽しみ。
「茜、最初はアナデゴーラ大陸東部の古代エルフの森『エンチャート大森林』に向かうぞ。せっかくだから近くの町に寄ってから行こうか」
そういうと光喜お兄ちゃんは私の手を取り転移する。
周りは深い森におおわれており、獣道のような細い道がずっと続いていた。
「よし、それじゃ今から俺は『ノル』だ。そして茜は『モミジ』だ。俺たちは隣のミユルの町から来た幼馴染でパーティーを組んでいる銅級の冒険者だ。いいな?」
光喜お兄ちゃんは【虚実】の権能で今は15歳くらいの茶色い髪の男の子に偽装している。
二人とも皮の胸当てにマント、ブーツをはいた格好をしているんだ。
わたしはアーチャー?えっと弓を使う人で、こう、じゃないや『ノル』はロングソードとバックラーを装備している、だね。
うん大丈夫。
さあ、いっぱい頑張ろう!