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第46話 想定外

(2024年4月29日)


生活感のない10畳ほどのワンルームマンションの中で、見るからに怪しい黒ずくめの男が座っていた。


男は体調が悪いのか、時折咳き込んだり、自分の肩をたたいたりしている。

窓の外はうっすら暗くなりつつあるのに電気は点けず、何かぼそぼそとつぶやいている。


小さな段ボールをテーブル代わりにして、コンビニで購入した乾物のつまみが袋を開けた状態で散らばっていた。


額に手をやったり首を振ったりしながらも缶ビールを開け飲む。

そうかと思えば突然飲みきっていないビールを缶ごと床にたたきつけ頭を抱え激高し始めた。


「くそっ、どうして来ない?なんでだ?!…畜生!」


転がっている缶をさらに足蹴にする。

缶が壁にぶつかり音をたて、中身が床に零れ落ち徐々に広がっていった。


一頻りジタバタと暴れていた男はふと動きを止めると、呪詛を吐くようなほの暗い瞳でポケットに入っていた色の抜け落ちたような灰色の石を取り出した見つめた。


「っ!?…切れた?……くそおおおおっ!!!」


ガンッ!!と音を立てて叩きつけられたそれは、粉々に砕けうっすらと光を放ち消えていった。


「?!…力が…くそおおおおおおおおおおお!!!」


男は力なくへなへなと崩れ落ち、しばらく呆然としていた…


※※※※※


(新星歴5023年4月30日)


アルテミリスは聖域で届くはずのない外部からの干渉に、創造されてから感じていた違和感が薄らいでいくように、今まで思ってなかった考えが沸き上がることに驚きを隠せずにいた。


そして今までの自分らしからぬ、腕を組み目を閉じ床に座り込み、熟考を始める。


※※※※※


約5000年前。

想いという絶大なる力に制限をかけることやめた魔王ノアーナは、己をカウンターにシステムを守らせるために6柱の神々を創造した。


光の神アルテミリスは、惑星レイスルースでかつて繫栄していた光触族の末裔だ。

魔王が数多の惑星を別次元へ転送する際に、ファルスーノルン星へ移民させていた。


その一族の長老の最後の末娘であった彼女は、金を纏う白色の魔力を持ち、存在を上げ神として創造された。


彼は0から創造することもできたが「多くの感情が必要だ。悪いが引き継いでいる優秀な人材を従えたい」といつも言っていた。


当然、彼の考えに心酔したし、生き様には尊敬している。

里の皆も、もろ手を挙げて賛成してくれたし自分も喜びに震えていた。


だがひとつだけ彼は勘違いしていたのではないだろうか。


大元の設計図を彼が作ったとしても、今の私を作ったのは、システムである星で育まれた命であり、紡がれた生活の中での想いだ。


性格などはオリジナルだ。

だから創造主である彼が感知できないことが山ほどある、ということを。


寿命の概念のない自分たちやノアーナ、グースワースの住人。


だが当然星に生きる者たちには寿命があり、様々な脅威がある中、彼の目指すように進化するものも出てくる。


良い方にも悪い方にも。


彼が戒律で縛っているのはあくまで行動のみだ。

思考や感情は縛れない。


強すぎる感情が大いなる力になる。

彼が言っていた事は、つまり全てに当てはまってしまう。


外部からの干渉と熟考で、ついにアルテミリスの意識が覚醒した。

おびただしい想いの奔流がアルテミリスに満ちていった。


200年前ノアーナが対応しきれず、逃げざるを得なかった理由。


脅威の原因が、この世界と異世界『地球』の『彼の経験にない悪意』だったからだ。

存在値を落とし幸せをつかんだことで、初めて認識した本当の悪意という想い。

彼は初めて、恐ろしくて怖くて悲しくて心が壊れそうで。

消えてしまいそうで。


そして立ち上がった。

あきらめなかった。


絶望を己の真核に刻み想いの下限を広げ原初の想いを成就する力を得るために。

ただ愛する一人のためだけに。


そして最適の、いや最悪の方法を選んだ。

愛する者の前でむごたらしく滅び、その絶望に絶望する手段を。


真核を極限まで減らし、酷く絶望しボロボロになり、さらに人の悪意を受けやすくなる呪いまで自らかけて。


そして彼は消えた。

地球に再転生したのだ。


アルテミリスはふっとため息をついて思わずつぶやいた。


「ドMですか。まったく…」

「まあ、ちょっと妬けてしまいますが。…ふふっ」


彼が存在を消したおかげで、神々しか知らない真の脅威は力を落とし休眠した。


おかげで酷い心の傷を多くの関係者に残したものの、彼の作った世界はいまだ存続し、もうすぐ逆転できるところまで持ってくることができていた。


すくっと立ち上がり太陽の様な輝く微笑みを浮かべ…


「絶対に勝ちましょうね。光喜様!…いや、佐山君!」

「そしてすべてに決着をつけましょう」


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