「お前コントロール下手すぎ」
泣きながら俯いていたエリスラーナを宥(なだ)め、なんとか家に連れ帰ったラスタルムは、目の前で色をなくした瞳で地面に「のの字」を書いているエリスラーナに吐き捨てた。
「あと無駄に強すぎ。なんだよ存在値80000越えって。はあ、意味わかんね」
「そもそも人化でいる今だって20000越えって、何なの?嫌がらせ?」
「俺なんか龍化してやっと18000なのにさ。そこに修行って、はあっ?だよ」
いきなり家に押しかけられ、壊され、おまけに逃げたドラゴンの後始末までさせられたラスタルムは結構頭に来ていた。
だから………つい言い過ぎた。
エリスラーナの雰囲気が変わったことで、ラスタルムは背中に嫌な汗をかき始めた。
「…………グスッ………ヒック………うああ………」
固まるラスタルム。
どうしよう。
どうすれば?
………泣くとか………?!
「あー、ごめん。言い過ぎた………分かった、教える。神様なんだから泣くなよ」
「………グスッ………うん…」
「そんなに強さがいるのか?………何と戦うんだよ?」
「……ノアーナ様……」
「はあ?!…なんで?!」
エリスラーナはよろよろ立ち上がり、ラスタルムを見つめて口にする。
「正確には違う。同じ力持った奴」
「……漆黒か?」
「っ!!」
ラスタルムは大きくため息をついて、先刻杖を出したところへ行き、封印してあるであろう見るだけでいやな気分になる小さな宝箱を持ってきた。
「この前ガルンシア島で見つけた。変なヒュドラがいて、俺とカザドルクで死にそうになりながら倒したら、これになった」
「なんかいろいろ吸収するから、オババに頼んで封印してある」
「……この前は、バハムルト」
「あー、納得した。まあ俺たちも怖いから、ガルンシア島はよく確認に行くんだよ。それどうする?ここに置いておくと嫌だから持ってってくれれば助かるが?」
「貰う。解析する」
ちょっとシャレにならない内容に、思わずラスタルムはつばを飲み込んだ。
そして決意を込めた瞳のエリスラーナに口を開いた。
「エリス、怒りがあると龍化はコントロールを失って俺達でも全開で発動しちゃうと30分持たない。先刻の杖は、それを押さえる」
「大体10倍くらい、耐えれる。でも解いたらたぶん力尽きる」
「一番いいのは龍化したまま生活することだ。怒りの感情を捨ててな」
エリスラーナは真剣に聞いている。
素直な神様はとても可愛い。
うっかりラスタルムは顔を赤くする。
「とりあえずそんだけだ。あとは魔王様にでも聞けよ。絶対知っているから」
「????」
あどけない表情でエリスラーナは再びラスタルムを見つめる。
「3000年前くらいに俺に教えてくれたのも、杖くれたのもノアーナ様だ」
「っ!??」
「はぐれの魔竜族の皇太子いたろ?あれに殺されそうになった時瞬殺して助けてくれて、色々教わって貰った」
「うちのエリスが『いつも世話になってる』からだってよ」
「ていうかエリスもう回復してるじゃん。帰りガルンシア島見てから帰れば?もしかしたらもしかするかもよ」
そう言うとラスタルムは家の中に入っていった。
頭に念話が届く。
(まあ、がんばれよ………俺も魔王様は気に入っているんだ。力になってやれよ)
「ありがとう、ラスター。また来る」
そして転移で帰ろうとしたとき、いやな気配がした。
………ガルンシア島だ…この前と似てる……まさか?!
エリスラーナは杖を掻か手にガルンシア島に飛んだ。
※※※※※
ガルンシア島の海岸線の小さな砂浜に、ソレは居た。
カメの魔物だろうそれは、甲羅が不気味に黒光りし、人間の上半身のようなものが生えていた。
黒い髪の、濁った銀眼の男が生えていた。
漆黒の魔力を吐き出しながら。
「………うそあllz。z;あdjんし、x;。z」
言葉にならない何かをつぶやくと、周囲から白銀のもやのようなものが集まっていく。
エリスラーナがちょうど転移してきたのはそのタイミングだった。
今まで感じた事のない恐怖が沸き上がる。
「っ!?…う、うああ、うわああああああああああああああああ!!!!!」
刹那エリスラーナは人化しているときに使用できる最大の煉獄の炎をそれに向けてノータイムで叩きつけた!!
「っ!!!?」
一瞬目が合った。
この数瞬の記憶を奪われた。
直後、全てを焼き尽くす地獄の業火が顕現し、ソレは一瞬で蒸発し、爆発の勢いでエリスラーナは海へと吹き飛ばされた。
そして……ガルンシア島の海岸線が、焼き尽くされ消失した。
※※※※※
冷たい……寒い……ん?
波の音が聞こえ、寒さでエリスラーナは目を覚ました。
何故か海に浮いていた。全身ずぶぬれだ。
「???????」
「ん?…あれ?…あっ、杖…あった……箱も」
しっかりと左手に握られて、おまけに呪縛で縛った箱もあるのを見て、安心する。
遠くに見えるガルンシア島が燃えていた。
「?!……ラスターか。多分…後片付け……ごめんなさい」
罪悪感に駆られてエリスラーナは帰っていった。