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第56話 最後の封印の前に

(新星歴4817年4月27日)


最後の封印地『キャルルートルン正教会』


ノッド大陸東部に位置する辺境の地に、1万年以上前からある建立物だ。

中央にある禁忌地『モレイスト地下大宮殿』から発せられる暗黒の波動により、大地の恩恵が少なく過酷な大地は暮らす人たちに多くの試練を与える。


たしか…『勇者を育てるために必要だ』とか妄想して実装したんだよな。

調子に乗って『古の石板』とかかぎを解くための『神器』とか…… 


やらかしてないよな……!?


いや、確実にないと結論づけたのだ。

己と神々を信じよう。


どうも考えが稚拙になっているような気がする。

存在値を落とした影響なのだろう。


悩むことも増えた。

良い傾向だと思いたい。


「モミジ、これなんだと思う?」

「んー?オーブ?って、なんでノルが知らないの?作った人だよね?」


色々乗り越えたモミジはもう通常運転している。


本当にありがたい。

…アピールは続いているが。


想いの欠片とは異なる、俺の色とは違うオーブのようなものが目の前に転がっている。


「見たことない。確実に俺が作ったものではないんだよ。なんか魔力も弱いし」


オーブを持ち上げまじまじと見つめる。んっ?ふたつ?いや3つの呪詛?


「あー。そうなんだ…って、わかるわけないじゃん。私に!」


うっかり手から落ちる。

あれっ…何してた?…あれ…


「そりゃそうか。スマン??…アートの怪しい機械に頼るか。名前とか見た目とかちょっとアレだけど、性能は間違いないからなあ」


いつもなら調査を終えてから皆を迎えに行くことにしていたが、今回はどうも特殊のようだ。

違和感?…試練の多い土地だから、進化する人が多く出ると思ってはいたが。

欠片事件の時にはおびただしいロックリザードもどきが発生してびっくりしたものだ。


さっそくギルガンギルの塔へ飛ぶ。


いつも騒がしい会議室がなんだか静かだ。

……納得した。


アグアニードとアースノートがいないのだ。


珍しくアルテミリスとモンスレアナ、ダラスリニアが3柱仲良く、プロジェクターで何かの映像を投影している。


茜が3柱の方へ駆け寄っていった。

エリスラーナはお気に入りのハンモックで夢の中だ。

(そう言えば疲れたとか言ってたな……)


「珍しいな。ところでアートはどこだ、ちょっと頼み…」

「イヤーーーーーーーーーーーーーー!!!!やめてーーーーーーーー!!!!!」


突然茜が顔から湯気が出るくらい真っ赤にさせて叫び声をあげた。


「っ!どうした?!」

「きっ、来ちゃだめーーーーーーーー!!!」


ぶんぶんと首が飛ぶんじゃないかと思うくらいの勢いでかぶりを振りながら、両手で俺の胸のあたりを押して近づけさせないようにしてきた。


「????????」


突然の行動に、意味の分からい俺は動揺するばかりだ。


すっとモンスレアナが立ち上がると、今まで向けてきた事が無い様な、なんというか弟というか何か微笑ましいものを見るような眼差しを俺に向けてきた。


「ノアーナ様。お気持ちはわかりますが。はあっ。少しヘタレすぎではございません事?まあお可愛いことで、わたくしはそんなあなた様もよろしいとは思いますけど。はああっ」


メチャクチャため息つかれた?!


「……どーてい?……いくじなし…でも…すき♡」

「…んんんん??!」


ダラスリニアから聞いてはいけない言葉が漏れた。

そして始まるアルテミリスからの地獄の回答コーナー。


「今皆で茜の勇気ある行動の顛末を確認しておりました。当然心配なので茜の目で見たものを投影できるようアースノートの協力を経て、茜に付与いたしました」


「っ!?……えっ……ええええっ!!!??」


俺の口からきっとこの数十万年出たことない声が響き渡った。


『「抱いて…ください…」

突然の告白に驚愕の表情を浮かべるノアーナ。しかしその瞳には確かに欲情の色がともっていたのであった。そして…』


突然始まる何故か脚色されナレーターまで流れる始末に二人は…


「やめてえええええええええーーーーー」

「……消えろ」


刹那プロジェクターはチリと消えた。

と同時にアルテミリスの表情も消えた。


「ノアーナ様。お気持ちは解りますが何てことをするのですか」

「いや、でもな…つか俺悪くないよねっ!??」


「茜が勇気を振り絞った一世一代の告白を断り、あれだけ良い雰囲気の中あまりにも青臭い理想を語りだすのですから……愚かなのでは?」


「うぐっう!?…」


「きっとわたしたちでは理解できない崇高なお考えなのでしょう。はあーーー」

「ええ、ええわかります。確かに失恋させてあげてくださいと申し上げました。しかしあれは当初のころであり事態は刻々と変化するのでございます」


「ええ…と…」


「まあわたしがそのような愚かしいことを言わなくても当然ご理解されているとは存じますが、やはりこれはちょっとないのではと考えますけれど」


「ぐっ……」


「それにあなた様の倫理観は大変素晴らしいものと存じておりますけれども、茜の心意気も汲んでいただき、優しいご対応をお願いしたいところではありますが。まあ、あの感じですと、どうやらノアーナ様はご経験がなさそうなご様子」


「ぐふっ!!!?…」


「それでは運命の方もさぞかしご苦労されるかと存じます。最低でも女性を喜ばせる技術くらいは必須ではございませんか?」


何これ。

怖い。

たすけて、心が、だれかたすけてーーー。


俺は崩れ落ちた。

過去最大級のダメージを受けた。


アルテミリスは崩れ落ちる俺を見て、すっと奇麗なお辞儀をした。


「でも、誠意あるノアーナ様のご対応、母の様な立場にある私としては大変うれしく存じます。茜を心より大切に思われていると、感服いたしました。ありがとうございました」


「…………まあ…ああ」


そしてゆでダコの様な茜を見て。


「よく頑張りました。あなたの勇気、わたしは誇りに思います。これからも頑張りなさい。応援していますよ」


「ありがとう…って、素直に喜びたくないっ!その付与はずしてえええー!!!」


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