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第72話 神々の憂鬱1

(新星歴4816年8月6日)


モンスレアナは模索期のファルスーノルン星で意味なく作られていた風神を、能力を上げて創造されたので、当然一番長い歴史を知っている。

およそ25000年存在しており、むしろ昔はノアーナとは敵同士だった。


模索期の最中、訳も分からず取り敢えず創造されてしまった彼女は、深い悩みに囚われていた。


星に住むほかの種族に比べ隔絶した能力を持っているにもかかわらず、何をすればいいのか全く分からない。


何体かは敵わない冗談みたいな奴がいるものの、他にはやることがない。


クソみたいな魔王が勝手に創造した挙句、寿命まで取り払い完全放置だ。

そりゃあ頭にも来る。


「魔王ノアーナ、貴様我に何をさせる気じゃ!大体なぜ我を創造したのじゃ?この迸る力、何に向ければよい?我は別に破壊衝動もなければ、この世界を牛耳るなど全く興味がわかぬわ!…なぜじゃ?……なんの為に?!!」


モンスレアナは一度ガチでノアーナに問うてみた。


もしかしたらこの魔王、アホだが優秀だ。

何か伏線を張り巡らせているやもしれぬ。


そう思って問い詰めた。


「んー?特に意味はないぞ。ははは、まあいいじゃないか。せっかくずっと生きていけるんだ。ゆっくり考えれば」


そんなこと言いやがった。


「貴様っ!!!!!!!」


ほとばしる魔力は激しい突風を生み出す。


そこからすべてを切り裂く風の刃と、天から轟く、悉く撃ち滅ぼす黒い極光の光の筋がノアーナを襲う。


「おわ?!何するんだ!危ないだろ…なんだよ暇なのか?」


そんなこと言うし。


ふつうなら5・6回は死んでいる攻撃だ。

涼しい顔してよけやがった。


「ぐすっ…ひ、ヒック…もう…ヤダ……この魔王」


「しょうがないな……宗教でも作るか?信者をどのくらい集められるとか、教会をどのくらい増やせるか、とかさ。んーいいんじゃないか?シミュレーションゲーム、いや何なら国とか作ってさ。ほら俺今世界っていうか宇宙?作ってるんだよ」


余りにあっけらかんと言葉を紡ぐ魔王。


怒りやら悲しみやら。

なんかもうどうでも良くなった。


「………………教えて」 


泣きはらした目で何とか口にした言葉。

魔王はにっこり笑って優しく微笑んだ。


「ああ、じゃあ厳しく教えるぞ。今からモンスレアナは俺の弟子だな…よし、つながったからいつでも連絡できるようにしたからな」


「…………うん!」



※※※※※



取り敢えず修行を打ち切り、なんだかんだ寂しがっていたセリレに引き取められたものの、再会の約束をしギルガンギルの塔へと帰還していた。


今は極東を調査しているハーピー族からの報告をまとめて報告書を作っているところだ。

懐かしい旧友になったせいか、ふと昔のことが頭をよぎった。


「ふふ…まったく、ずいぶんお可愛くなられましたわね。あのころはもっと自由奔放でしたのに……でも…」


自分のことを棚上げにしてこの世界の為に突き進んできたノアーナ。


きっと聞いても「そんなことないぞ。俺は好きでやってたんだ…あれ?…いやいや、そうだよ俺のためにやったんだ」


とか言うのだろう。


わたくしの大好きな、ノアーナの好きな紅茶を飲む。


「わたくしはいつでもあなた様の味方です。たとえ離れようともそれは変わりません。もう長い付き合いなのですから」


「必ずやお力になりますわよ」


紅茶の芳醇な香りを楽しみながら、モンスレアナは思うのだった。



※※※※※



ギルガンギルの塔の中にある、あてがわれた自分の部屋でダラスリニアは『クマのような』ぬいぐるみを抱きしめながらお行儀悪く布団にくるまり、かつての儀式を思い出し悶々としていた。


優しく抱きしめられ、甘い言葉を投げかけられ、体を包んでくれた優しい手。

蕩けるようなキスをされ、触れられるたびに体の奥に電気が走った。


頭の中が真っ白になっても、永遠と思うくらい続く例えようのない快感。

自分の心がノアーナの心に重なるような幸せに包まれた儀式……


「……ああ……ノアーナさま♡」


体をうねうねさせ、足をバタバタとばたつかせる。


「でも…………」


先日ハイエルフの隠里で起きた騒動、ノアーナ様は私を責めなかった。

逆にありがとうって褒めてくれたけど…


ウッドモノルードでノアーナ様が拾った女性……


「………どうしよう……どうしよう」


きっと彼女はノアーナ様の特別になる。

確信してしまう。


ノアーナ様を見た私の眷属たちが口々に言っていた…

魔王の力は以前より強いのでは?と。


違う。

絶対に弱くなってる。

多分1割くらいしかない。


でも……

あの女性を見た時に噴出した不思議な力は…


前よりも強い気がした……


「……ノアーナさま………ああ」


「……いなく……なっちゃう」


「…………どうしよう」


ダラスリニアはさらに強く『クマのような』ぬいぐるみを抱きしめた。

その瞳からは涙が零れ落ちていた。


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