その後ネルが3人分の紅茶をいれてくれ茜の報告を聞いた。
アースノート謹製の装備一式は、あり得ないほどの高性能で存在値をとことん上げた茜にとってまさに鬼に金棒だった。
「すごいな。今の茜は多分世界最強だぞ。まさか茜が勇者とはな。ていうか亜神になってるし。その装備は俺も殺せるほどの力がある」
ネルがビクッと体を震わす。
「まあそんなことあり得ないけどね。でも相手はノアーナ様の力持っているんだからこれは必要なんだよね……やっと恩返しができそう。良かったよ」
茜がすがすがしい表情で話を続ける。
そして目に怪しい光がともる。
「一ついいかな?…この装備ね(嘘だけど)燃費悪いんだよね。ノアーナ様に補給してもらいたいんだけど。良いかな」
「っ!…なにを……その…」
俺は気まずくなり視線をさまよわせる。
茜が突然馬鹿にしたような口ぶりで、大きい声で言葉を吐いた。
「あれあれー?なに?ノアーナ様?ネルさんに言ってないの?私たちを抱いている事?えっ、噓でしょ?あり得なーい。運命のヒトなんでしょ?まじで?隠し事はダメだよー。いつもあんなに激しく抱いてくれるのに。愛してるっていつも言うのに」
俺は顔を真っ赤にして思わず叫んでしまった。
「馬鹿!そんなこと今言わなくてもいいだろ!何考えてるんだ!!」
茜の目から涙があふれる。
俺を睨み付けて言葉を続ける。
「そんなこと?…そんなことって言った?…酷いよ…あんまりだよ…ねえ、今のノアーナ様、凄く格好悪いよ。酷すぎるよ」
茜は転移していった。
テーブルの上で3つのティーカップから湯気が立ち上っていた。
静寂が隠れ家を包む。
俺は思わず頭を抱え込んでしまった。
自分がなあなあにしていたことを、茜に指摘されて激高してしまった。
俺は最低だ…
ネルに会えて浮かれていた。
皆のことをないがしろにしていた。
酷い事を言ってしまった。
何より、ネルを傷つけた。
沈黙を続けていたネルが口を開いた。
「ノアーナ様。なんで彼女が泣いたかお分かりになりますか?」
「え……ああ…俺が酷い…言葉を……」
初めて見る、心が凍えそうになる表情で、ネルは大きくため息をついた。
「まったく。…どうせわたくしが傷ついたーとか思っていらっしゃるんでしょうけど……呆れているのですよ」
「…えっ?…」
「ああ、皆さまが苦労なさるのがよくわかります」
「……あの…え…」
ネルは突然立ち上がり、俺を見下ろしながら強めの口調で言い放った。
「余りわたくしを舐めないでいただけますか?他の皆さまもです」
「きっと皆さまはわたくしのことをよくは思っていないでしょう。当然です。愛するあなたを奪うのですから」
「っ!そんなこと…」
「あるのですよ。わたくしだって茜さんに嫉妬しています」
「っ!!?」
「まったくあなたはどこまでも不器用で誠実な方なのですね。愛は奪い合いですよ?」
「もう一度言います。舐めないでください。わたくしはどんなことがあってもあなたを愛し続けます。わたくしが信念において、わたくし自身で決めたのです。この気持ちはたとえあなた様でも汚させることは許しません」
「そして、皆さまもわたくしと同じ気持ちです。目を見ればわかります。女ですから」
「……」
「貴方様は全部を愛すると決めたのでしょう?そうしてください。嫉妬の炎は燃やしますけれど」
「…俺は君を傷つけたくない」
「それが馬鹿にしていると、舐めているという事に気がついてください。わたしはあなたの所有物ではありません。心がある一人の女性です。私の心をあなた様に決める権利はございません」
「……どうすれば…」
「ふふっ、お可愛い事。悩んでくださいませ。しばらくわたくしはこちらで生活いたします。グースワースでゆっくり考えるのもよろしいかと存じます。ではごきげんよう」
ネルは部屋を出ていった。
どうしよう。
彼女の言っていることが全く理解できない。
……俺が悪いのか?
頭を抱えたまま、俺は一人隠れ家で悩み続けた。
そして俺は一人でグースワースに転移していったのだ。