(新星歴5023年4月30日)
長く話したせいか、ずいぶんしんみりしてしまった。
俺も過去に思いを馳せたことでいろいろ明確になってきた。
頭の中のノイズがどんどんクリアになっていくのを感じた。
「まあ、結果的にすべては俺のわがままから始まっていたんだがな。ほとんどの原因は意図的ではなくとも俺と俺の存在が引き起こしたんだ」
皆じっと俺の言葉の続きを待っている。
心配そうにしている皆を俺はゆっくりと順番に目を見つめた。
「あれからも俺の欠片が原因で様々な事件が起こったんだ。みんなで必死に止めようとした…ウッドモノルードの時は本当にびっくりしたんだよ。完全な精神干渉だった。あと少し気付くのが遅れていたら……」
思い出したのだろう、ネルが体を震わせ、思わず自らを抱きしめる。
目から涙が零れ落ちた。
…あの時、あり得ないような膨大な悪意にさらされたのはネルだった。
俺はそっと抱き寄せ、落ち着くまでそうしていた。
皆が優しい目で俺たちを包んでいてくれた。
※※※※※
「そのあとはまあ、先刻話した通りだ。そしてあいつが現れた」
「もう一人の俺、悪意の結晶とも取れる、あまりにも静かなぞっとする悪意が」
静まり返る執務室。
時を刻む魔刻計の針の音が響く…
思わずネルが口を開き俺に問いかけた。
「…もう一人の…ノアーナ様?…スライム事件ではなく?」
「ああ、だが今はいい。先に皆に伝えなければならないことがある。一番重要で、一番皆を傷つけたことだ」
俺は覚めてしまった紅茶を飲んで大きく息を吸い、そして大きく吐いた。
「多分世界に生きる皆は200年前光神ルースミールが勇者シルビーと組んで、魔王ノアーナをだまし討ちにして、俺を滅ぼしたことになっているのだろう?」
思わず全員が立ち上がる。
わなわな震え、皆に殺気がこもる。
ネルの表情が消えていく…
「はい。あ奴らは勇者が降臨したことをお披露目する式典で、あの忌まわしい聖剣もどきであなた様を貫き、存在が弱ったタイミングで、あなた様を!」
ネルから怒りの想いが噴き出してくる。
俺はネルを抱き寄せそっと優しく頭を撫でてやる。
少し落ち着いたネルが続きを静かに語りだした。
「大切なあなた様を我々が見ている前で、存在をバラバラにして滅ぼしたのです」
カリンとミュールスが体を震わせ涙を流している。
他の皆もこらえきれずに、ポロポロと涙がこぼれる。
あの式典に参加していたのは俺とネルとムク、ナハムザート、カンジーロウの5人だ。
あれしか方法がなかったとはいえ、酷い事をしてしまった。
「真実を話したい」
怒りと悲しみの波動に包まれていたグースワースの皆に緊張が走った。
「あの儀式は俺が新たな力を得るためにもとの世界に帰るために行った儀式だ」
「「「「「「っ!!!?????」」」」」」
「「「っ!えっ!!???」」」
ネルはあまりのショックに茫然と俺を見た。
「いや違うな。すべてをさらけ出さなければならないよな。あの時、あまりに強大な敵に対し術をなくした俺は、確率の低い賭けに出るしかなかったんだ…」
「逃げたんだ。皆をだまして…傷つけて…」
「そ、そんな…あれが…ヒック…ああ……そんな…ぐすっ」
根源魔法を手に入れもう何も怖いものはないと思っていたネルだが、光喜の告白は己の想いを根底から否定する言葉だった。
崩れ落ちて泣きだすネル。
皆もへなへなとその場に崩れ落ちた
信じていた。
何を言われても受け入れるつもりだった。
でも、これはあまりに…
200年という長い時を…皆…信じて……
強い、強すぎた想いの反動で、皆も心は砕ける寸前だった。
立ち上がることができないほどに………
俺はそんな様子を悲しい気持ちに包まれながら見ていた。
俺には皆に信じてもらう資格はないんだと……
ああ、やっぱりな……流石に酷すぎる…仕方ないことだな…
諦めかけたその時、皆を温かい光が包み込んだ……
懐かしい声が聞こえた気がした。
「まったく、うちの弟は不器用だね。ほら、力貸してやるよ」
「……え……ねえ…ちゃん…??」
不思議な光景だった。
まばゆい光に包まれて
懐かしい「夏樹」姉ちゃんが笑っているんだ
時間の経過が分からなくなって呆然としていた………