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第86話 魔王様の流儀

久しぶりに一人で寝た俺は朝、とてもシンプルに寂しかった。

静まり返った一人のグースワース。

最近では毎日のようにネルと一緒だったから余計に寂しさを痛感した。


「茜に会いたい」


そう思った。

俺に真剣に向かってきてくれる女の子。


神々は元があるとはいえ俺が創造している。

感情は縛っていないから、奴隷ではないがいくつか制約があるのも事実だ。


ネルは今のところ俺と同じで浮かれている。

まあ昨日のことがあったから、いまいち顔を合わせにくい。


「ははっ、どこまで行っても俺はクズらしい」


思わず胸の内を吐露してしまう。


俺は完璧な創造主をやめたんだ。

わがままな人間だということを隠して格好つけたかっただけなんじゃないか?


思い出せよ、俺はそんな上等な人間じゃないだろ。


いい奴だと思われたいだけじゃないか。


レアナにも言われた。

「貴方は最初から酷い事をしている」と


そして彼女たちはそれを受け入れてくれるんだ。

泣いても、悲しんでも、恨んでも。


それを見て俺が後ろめたいのは…ああ、失礼だな。


茜に言われた

「格好悪いよ」


そりゃそうだ。この前まで童貞だったんだ。

女性の扱いなんか馴れているわけがない。


いわばマニュアル本を隅から隅まで知っているって感じか…

ちょっと気持ち悪い奴だぞそれは。


アグにも言われた

「人間みたい」


そうだ。あいつら神だもんな。

管理者様から見たら滑稽だろう。


でも、アグは言ってくれた。ちゃんと対等に。


ネルにも言われた

「舐めないで」


そうだな。きっと俺が考えるいい男を押し付けていただけなんだ。

俺は俺であってそれ以上でもそれ以下でもないんだ。


『一人に絞るか、全員か』


ははっ、もう答えなんて出ているじゃないか。

俺は俺の好きなように、皆を愛せばいいんだ。


格好つける必要なんてないんだ。


俺は最初にネルの部屋へ飛んだ。


※※※※※


 もう遠慮はしない。


だが俺の流儀は通させてもらう。

俺が俺であるために。


俺はギルガンギルの塔のネルの反応がある場所へ直接とんだ。


ネルはベッドに腰掛けていた。

物思いにふけった表情が相変わらず美しいと思った。


やっぱりネルは最高に可愛い。


「おはようネル。半日離れただけだったけど、久しぶり」


ネルは一瞬ビクッとしたが、俺に気づいて微笑んでくれた。

それだけで俺は救われたんだ。


「おはようございます…決まったのですね?」

「いい顔をされています。ますます好きになっちゃいます」


俺はネルを抱きしめた。

ネルはびくっと肩を震わせた。


?!いや、震えている?


「ネル、俺はお前を愛している。たぶん誰よりも」

「……」

「茜のことも愛している」

「……」

「アートだってレアナだってアルテだって愛している」

「……」

「ダニーもエリスもだ」

「……」

「愛しているんだ」


「…ふう」


ネルの震えが止まった。

ネルは俺から離れて俺を真直ぐに見つめた。


「わたくしが、わたくしだけを愛してほしいとお願いしても、あなた様は今の答えを変えませんか?」


「ああ、変えない」


「そうですか」

「お前はそれでも俺を愛してくれるからだ」


「っ!…ずいぶん都合がよい話ではありませんか?」

「ああ、それが俺だ」


ネルはベッドに寝ころんで、両手で顔を隠すようにして小刻みに震えだした。

声が零れてくる。


俺の胸にひどい罪悪感が募る。


「俺は自分の気持ちに嘘はつきたくない」


「ネルの気持ちを縛る権利がないように」

「他の誰にも俺を縛ることはできないはずだ」


「ああ、最低だろう。俺はそう思う」


「でもお前たちがそう思うことに俺はもう後悔しないと決めたんだ」


「悪いと思う気持ちより、お前たちを愛したい気持ちの方がはるかに強いんだ」

「ネル、俺はお前と愛し合いたい。いつでも。そして他の皆とも愛し合いたいんだ」


黙っていたネルが起き上がり、赤くなった目で俺を見つめた。


「酷い人です」

「ああ、そう思う」

「馬鹿ですね」

「そうだな」


ネルがおもむろに抱き着いて来た。

大好きな香りと柔らかい感触に俺の鼓動は高まる。


「別れましょう」と言われるかもしれないのに


いや、それじゃ今までと一緒だ。

俺は彼女の覚悟を受け止めると決めたのだ。


「ノアーナ様、心よりお慕い申し上げます」

「……」


「惚れてしまったわたくしの負けです」

「かわいがってくださいませ」


たった一日しか離れていなかったとは思えないほど

愛しさが止まらなくなったんだ。


※※※※※


俺はネルの柔らかい髪を撫でながら、酷い事を言う。 


「茜にあってくる」


ネルがビクッと肩を震わせた。

不安げな表情で見つめてくる。


「俺の倫理観ではきっと地獄へ落ちるほどの酷い事をする男だ」

「でもそれは俺のエゴだ」


「行ってくる」


そして俺は茜のところへ飛んだ


「まったく。殿方は1日で別人になられるのですね…イジワルです」


※※※※※


茜は皆と会議室でだべっていた。


俺が転移してきたことで気まずい顔をした。

俺はかまわず茜を抱きしめてキスをした。


「っ!?…んんん♡…んう…」


「茜、愛している。お前のことが大好きだ」

「光喜さん?…えっ…その…」


「俺は迷わないって決めたんだ」


俺はまた茜を強く抱きしめた。

柔らかい感触に、顔に熱が集まる。


皆が驚愕の表情で見つめている。

アートはハアハアしているが…


「ちょっ、ちょっと、待って?…みんなが…」

「かまわない」


「っ!!??」


「お前を感じたいんだ」


茜は顔を赤くして、湯気を出しながら失神した。


※※※※※


俺は今正座をさせられて、モンスレアナとアルテミリスからお説教を食らっている。

まあ、全然反省していないが。


「ノアーナ様、いくら何でも、もうちょっとムードとか考えてくださいませ」

「茜が目を回しました。許しません」


「ハハハ、茜は可愛いな」

「っ!??」


「レアナも、アルテも、アートも、ダニーも、エリスも」

「皆大切な俺の彼女だ」


皆の顔が赤く染まる。


「あちゃー、ノアーナ様無双が始まっちゃったー」


アグがお手上げみたいに呟いていた。


久しぶりに皆と打ち解けた気がした俺は本当にうれしかかったんだ。


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