(新星歴4817年10月25日)
腹減った………
ああ……
面倒くせー
ああ、腹減ったなあ
モレイスト地下大宮殿の最奥で、俺は腹が減り目を覚ました。
ああ、なんだか知らないが、どうやら俺はスライムに食われたらしい。
面倒くさくて寝ていたが、なんかこいつに急かされた気がした。
「憎い、憎い…憎いいい…ってな」
正直俺はどうでも良い。
どうも俺の本体様は勤勉なのだろう。
俺は怠惰だ。
くそっ、スライムの感情が混じってしまったようだ。
腹が減って仕方がない。
取り敢えず自分を見てみるか
【ノーネーム】
【種族】進化スライム
【性別】男性
【年齢】4歳
【職業】怠惰の僕
【保有色】(漆黒・白銀)
【存在値】12000/1000000
【経験値】吸収による
【特殊スキル】
『不老不死』『物理魔力回復』
『無限吸収』『同族感応』
【固有スキル】
『擬態』『魔眼10/10』
『魔法10/10』『格闘術10/10』
【状態】
空腹
笑える。
「ノーネーム」だと。
面倒だから別に良いか。
じゃあ、飛ぶか
食事の時間だ
※※※※※
あれからアースノートは怖いくらいに研究に没頭した。
神々は基本休養を必要としない。
ただそれは、通常に存在している場合のことだ。
力を使えば回復は必要だ。
睡眠が一番理にかなっている。
ギルガンギルの塔で寝れば、回復できるように俺が組んでいたからだ。
気にはしていたが、俺が気付いた時アースノートはボロボロだった。
研究室の椅子で意識を失っていた。
コイツを神に存在を上げる前、12000年くらい前に「土神」にしてからの付き合いだ。
こういうところがあるのは知っていたはずなのにうかつだった。
「アート、無理するなと言ったはずだぞ……まったく」
俺は壊れそうなアースノートを優しく抱きしめ、概念で強化した精神強化魔法で包み込んだ。
アースノートは意識のない状態で、ビクッと反応した。
顔に朱がともる。
その様子を見て俺は少し安心して、アースノートを抱きかかえ、彼女の部屋へと転移しベッドに寝かせてやった。
改めて顔を見る。
酷い顔だ。
美少女が台無しだ。
俺はアースノートの可愛い口にキスを落とし、部屋を後にした。
※※※※※
ノッド大陸に眷族を連れて見回りをしていたアグアニードは、今まで感じたことのない嫌な気配に身を固くしていた。
そしてそれは突然目の前に現れた。
ノアーナそっくりな、表面を粘液のようなもので包まれた、怪しいスライムが。
全身に怖気が走る。
「あああ、お前旨そうだ………いただきます……」
「っ!!?アグアニード様!!!」
固まり動けなかった俺の前に、眷族第4席のマゼダルがかばうように立ちはだかり、そこにスライムが取り付いた。
「っ!!??ぐあああああああああ……ぎやああああーーー」
目の前で溶かされ吸収されていくマゼダル。
「おおおお!!!」
俺は最大火力を放った。
「じゅじゅううううーーーーーー」
スライムに魔法が届き、おびただしい白煙が上がった。
周りの視界が失われた。
白煙の中から、やる気のない声が響く。
「なんだよ……食事の邪魔すんな………うまそうだな……」
蒸気が風に飛ばされ視界が開けた時………
濁った銀眼が俺を射抜いていた。
俺は瞬間的に、転移して逃げてしまった。
「まずい」そう思い、ガルンシア島へ飛んだ。
アイツにギルガンギルの塔を教えてはいけない………
本能的にそう思った。
結果として奴は追いかけてこなかった。
「眠っている初期型」
あの時のアースノートの言葉が、頭の中でリフレインされていたんだ。
「なんだ……あれ……くっ、マゼダル……魔法…‥効いてなかった…まずい」
「ノアーナ様だった………存在値は低かった……けど……」
「…………怖い………………うああ………ああ……」
俺は心が折れそうだった。
あの目……………
アイツは俺を食料としか見ていなかった。
ガルンシア島の森の中で………
アグアニードの泣く声がしばらく響いていた…………