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第96話 空腹の目覚め

(新星歴4817年10月25日)


 腹減った………


ああ……


面倒くせー


ああ、腹減ったなあ


 モレイスト地下大宮殿の最奥で、俺は腹が減り目を覚ました。

 ああ、なんだか知らないが、どうやら俺はスライムに食われたらしい。


 面倒くさくて寝ていたが、なんかこいつに急かされた気がした。


「憎い、憎い…憎いいい…ってな」


正直俺はどうでも良い。


どうも俺の本体様は勤勉なのだろう。

俺は怠惰だ。


くそっ、スライムの感情が混じってしまったようだ。

腹が減って仕方がない。


取り敢えず自分を見てみるか


【ノーネーム】

【種族】進化スライム

【性別】男性

【年齢】4歳

【職業】怠惰の僕

【保有色】(漆黒・白銀)

【存在値】12000/1000000

【経験値】吸収による


【特殊スキル】

『不老不死』『物理魔力回復』

『無限吸収』『同族感応』


【固有スキル】

『擬態』『魔眼10/10』

『魔法10/10』『格闘術10/10』


【状態】

空腹


笑える。

「ノーネーム」だと。


面倒だから別に良いか。


じゃあ、飛ぶか


食事の時間だ


※※※※※


 あれからアースノートは怖いくらいに研究に没頭した。


神々は基本休養を必要としない。

ただそれは、通常に存在している場合のことだ。


力を使えば回復は必要だ。

睡眠が一番理にかなっている。


ギルガンギルの塔で寝れば、回復できるように俺が組んでいたからだ。


気にはしていたが、俺が気付いた時アースノートはボロボロだった。

研究室の椅子で意識を失っていた。


コイツを神に存在を上げる前、12000年くらい前に「土神」にしてからの付き合いだ。

こういうところがあるのは知っていたはずなのにうかつだった。


「アート、無理するなと言ったはずだぞ……まったく」


俺は壊れそうなアースノートを優しく抱きしめ、概念で強化した精神強化魔法で包み込んだ。


アースノートは意識のない状態で、ビクッと反応した。

顔に朱がともる。


その様子を見て俺は少し安心して、アースノートを抱きかかえ、彼女の部屋へと転移しベッドに寝かせてやった。


改めて顔を見る。


酷い顔だ。

美少女が台無しだ。


俺はアースノートの可愛い口にキスを落とし、部屋を後にした。


※※※※※


ノッド大陸に眷族を連れて見回りをしていたアグアニードは、今まで感じたことのない嫌な気配に身を固くしていた。


そしてそれは突然目の前に現れた。

ノアーナそっくりな、表面を粘液のようなもので包まれた、怪しいスライムが。


全身に怖気が走る。


「あああ、お前旨そうだ………いただきます……」

「っ!!?アグアニード様!!!」


固まり動けなかった俺の前に、眷族第4席のマゼダルがかばうように立ちはだかり、そこにスライムが取り付いた。


「っ!!??ぐあああああああああ……ぎやああああーーー」 


目の前で溶かされ吸収されていくマゼダル。


「おおおお!!!」


俺は最大火力を放った。


「じゅじゅううううーーーーーー」


スライムに魔法が届き、おびただしい白煙が上がった。

周りの視界が失われた。


白煙の中から、やる気のない声が響く。


「なんだよ……食事の邪魔すんな………うまそうだな……」


蒸気が風に飛ばされ視界が開けた時………

濁った銀眼が俺を射抜いていた。


俺は瞬間的に、転移して逃げてしまった。

「まずい」そう思い、ガルンシア島へ飛んだ。


アイツにギルガンギルの塔を教えてはいけない………


本能的にそう思った。


結果として奴は追いかけてこなかった。


「眠っている初期型」


あの時のアースノートの言葉が、頭の中でリフレインされていたんだ。


「なんだ……あれ……くっ、マゼダル……魔法…‥効いてなかった…まずい」

「ノアーナ様だった………存在値は低かった……けど……」

「…………怖い………………うああ………ああ……」


俺は心が折れそうだった。


あの目……………

アイツは俺を食料としか見ていなかった。


ガルンシア島の森の中で………

アグアニードの泣く声がしばらく響いていた…………


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