(新星歴4817年10月26日)
恐れていた事態が発生した。
アグアニードがおそらく『眠っていた初期型』と遭遇し、恐ろしさに心が折れてしまっていた。
今はモンスレアナの【安定】で、何とかアグアニードは落ち着いたが。
「皆、どうやら本格的にやばい奴が出てきたようだ。アグが遭遇し、眷族が一人食われた」
「…あいつは…ノアーナ様みたいなスライムだった………魔法が…効かなかった」
「この前アーちゃんが言ったように……近くにいても…吸収はされなかった」
「けど……関係ない………直接食われてしまう……」
アグアニードの目に涙が浮かぶ。
体は震えていた。
「……強いの?………そいつ」
茜が問いかける。
「…………存在値は12000くらいだった………けど……勝てる気がしなかった」
「仕方ないですわ。アグ、元気出して。あんたが悪いんじゃない。仕方なかったのですわ」
「あーし達ではノアーナ様は殺せない」
大分体調の戻ったアースノートは真っすぐに茜を見つめた。
「茜、あなたにしか頼めない。初期型だとノアーナ様は吸収されてしまう。アグアニードが遭遇したおかげであーしは今あいつを捉えた。今あいつはモレイスト地下大宮殿の最奥にいる」
茜の顔に緊張が走る。
「残念だけど、あーしたちは行っても意味がない。琥珀を纏っている茜以外はただの餌だ。漆黒の因子を持ってしまったネルもダメ。あなたしかいないの」
緊迫した雰囲気の中、モンスレアナが口をはさんだ。
「ノアーナ様、セリレの呪縛を解いていただけませんか?あれならきっと力になれます。あなた様の因子を持っていない強者です」
「茜一人で行かせるのは………実力は知っていますが不安ですもの」
続いてエリスも口を開く
「ラスターも行かせる」
そう言ってエリスラーナは装飾のゴテゴテした杖を取り出した。
「ノアーナ様。これも………」
懐かしい杖だ。
そうか、あいつか。
「………ギルアデスおじ様も……連れていって」
ダラスリニアも提案してくれた。
俺は腕を組み考えた。
………時間を与えれば、おそらく星が滅びる。
「茜」
「はい」
俺は茜を見つめる。
決意の込めた美しい瞳をまっすぐ俺に向けていた。
「お前を失いたくない。だが、放置すれば星が滅びる。すまない、頼む」
「任せてよ。やっとみんなに恩返しができる」
俺は皆を見回した。
「よし、セリレの呪縛を解く。…………OKだ。他の皆をここに集めてくれ。俺はもう一度コアへ行く。きっと今度は付与できる気がするんだ」
ネルの不安げな表情をしていたが、俺はかまわず転移した。
同時に皆が忙しく動き出す。
※※※※※
俺は一人クリスタルを見つめ、この前の茜が来た時のことを想っていた。
茜が来たとき、クリスタルは揺らいだ。
慌てて戻ってしまいあれから来ていなかったが………
「揺らいでいる」
俺は心を込めて、茜のことを想いながら付与を行った。
俺からあふれ出る緑を纏った琥珀の魔力がクリスタルを包む。
激しく弾かれるが、クリスタルの揺らぎはますます強くなっていく。
「くっ、俺の、いや俺たちの絆を、舐めるなよ!!」
俺にやさしく微笑む茜の顔を想い浮かベながら、俺は渾身の力を込めてさらに魔力を放出した。
激しく弾きあう魔力が、徐々に浸透を始めた。
「うう、うおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!」
まばゆい光があふれ出す。
俺は力尽き、倒れた。
漆黒の周りを優しく守るように琥珀がまとったクリスタルを見ながら。
※※※※※
「フン、我を呼びつけおって。ツマラヌ用ではなかろうな?魔王よ。………なんじゃ?えらく弱くなりおって。ククク、積年の恨み晴らせそうじゃな?」
威圧を放つセリレの頭をモンスレアナがはたいた。
「セリレ、もう遊んであげないわよ?」
「うっ!?………冗談じゃ……怒らないでくれ」
風の大精霊龍セリレ・リレリアルノは本来性別を持たない。
茜とともに行くため今は20歳くらいの女性に擬態している。
水色の髪は肩口で揃えられ、同じ色の眉は細く美しい。
煌めく金色の瞳は大きめの整った目の中で輝いている。
すっと通った鼻筋に、愛らしい赤い唇が美人に拍車をかける。
青色のうっすら輝く着物のような形状のものを纏い、腰を緑の帯で引き締めている。浴衣の様な着こなしの裾からは、白い長い足が覗いている。
存在値は43328。
メチャクチャ強い美人さんだ。
「ありがとうセリレ。かなり危険だとは思う………強制送還を組み込んだ。いざとなったら逃げてくれ」
「フン、なんじゃ?イヤにサービスが良いのう………そんなにか?」
「ああ、放っておけば星が滅びる」
「………そこな娘でも、勝てないのか?」
ちらりと茜を見た。
「いや、彼女が勝てなければそこでゲームオーバーだ。純粋な力なら負けない」
「ふむ………わかった。協力しよう」
「ああ、助かる。制限はもう撤廃した。お前を恐れていたんだ。すまなかった」
「フン。まあ良いわ……暇つぶしじゃ。お前の為ではない。モンスがどうしてもというから来てやったのじゃ。礼ならモンスに言え」
そっぽを向くセリレ。
ははっ可愛いところあるじゃないか。
「ノアーナ様。微力の身ですが私の力、いかようにもお使いください」
闇の神眷族第1席のギルアデスが膝をつき俺に口を開いた。
存在値は5192。
確かにこの中では低いが、ギルアデスには魔眼がある。
「ありがとうギルアデス。先ほども言ったが危険だ。お前の魔眼で皆を守ってやってくれ。それからお前の長い経験は必ず皆を救うだろう。頼んだぞ」
驚愕し、慄いた。
「はっ、かしこまりました」
魔眼の力は誰にも言っていない。
ダラスリニアお嬢様ですら知らないはずだ。
やはり魔王は特別だ。
そう思い、ギルアデスは御前を退いた。
「ノアーナ様久しぶり!俺も力貸すよ」
「ラスター助かる」
「エリスに聞いた。俺たちもガルンシア島では何回か戦った。あれはやばいね」
「ああ、力を貸してくれ」
「……やっと恩返しができる」
ここに俺と神々を除いた最強のパーティーが誕生した。