(新星歴4817年11月5日)
茜消失事件では全く活躍できなかったアースノートだが、彼女の作戦で最大の敵であろう複合型、
ただアースノートには懸念があった。
あの後徹底的にモレイスト地下大宮殿は調査した。
儀式の間に、鉱石の状態の漆黒がまだ残っていたのだ。
相当深くまで食い込んでおり、できるだけ採取したが、おそらく100%は無理だろう。
監視型の魔道具と常に琥珀を発する魔道具をセットしたため、万が一目覚めてもその瞬間に回収可能にはしておいた。
大宮殿自体を破壊或いは権能で消去したかったが、対象がノアーナ様の力で創造したものだ。
破壊時にばらまかれても厄介だし、権能は弾かれる恐れがある。
後の懸念は。
おそらく裏で暗躍しているものが居るはずだということだ。
茜の転生にはいくつも不自然な点がある。
まずあまりにも指向性に特化した、送られてきた魔石。
あれは完全にノアーナを狙い撃ちに術式が組んであった。
そもそもこの星では本来ノアーナ様しか持ちえない色だ。
星にあふれる力は同じだとしても、技術的に結晶化は不可能だ。
「タイムパラドックス?」
第一に考えられるのはそれだ。
ノアーナ様と茜の関係は、とてもおかしいのだ。
アースノートは時系列を書き出してみた。
ノアーナ様:数十万年前 死亡?転生
茜4813/4/25
〇欠片事件←同時→〇転生
地球 光喜様
2001/8 死亡?〇転生
2006 茜誕生
2023 茜死亡・転生
ノアーナ様が地球にいるころには、茜は生まれていない。
おそらくこの宇宙では同時に同じ魂は重複できないはずだ。
可能性は分離だけだ。
その理屈が正しければ、出会うことはない。
接点がないのだ。
欠片事件が起きて次元を超えたとして、その時茜はすでにファルスーノルン星に転生した後だ。
そして茜があっていた光喜様。
それは今のノアーナ様ではない。
頭の良いアースノートはすでに二つ目の仮説にたどり着いていた。
だがそれは認められるはずもないものだ。
ノアーナ様がどこかのタイミングで地球へ戻る可能性。
或いは存在を分離して地球に送る可能性。
そして、それはおそらく正解だろう。
茜の記憶にあった冴えない佐山光喜は、おそらく悪意にまみれた漆黒を持っていた。
儀式はおそらく行われないはずだ。
茜は病弱だったと聞いている。
理由は分からないが、未来のノアーナ様からもらっていれば………
つじつまが合ってしまう。
そして三つ目。
第3者の可能性。
これが一番怖い。
都合よく『力』と『意思』と『思考』が分かれていたとすれば………
力を持たずに、『思考』だけの存在がいれば。
そして次元を渡れる力に目覚めていたとすれば………
アースノートは天井を仰いだ。
「もし敵がノアーナ様と同等で、悪い方向で努力を続けていたとしたら…」
「おそらくたどり着く」
「………」
「ならば、あ―しが絶対再現してやる」
アースノートは物凄い勢いで自らの頭脳を働かせ始めた。
「あーしが、ノアーナ様を守る」
胸に決意を抱いて。
※※※※※
アースノートはデータや検証の書類の山に囲まれていた。
どんなに試算しても、先が全く見えない研究課題にアースノートは
集中力が高まり過ぎて、いつの間にかノアーナが来ていることに全く気が付いていなかったのだ。
アースノートは突然愛しい人に抱きしめられ、魂が抜けるのではないかというくらいに驚いた。
「アート、無理するなといったはずだぞ?」
驚きすぎて感情やら擬態やら全く意識を割けなくて、思わず涙が出てきて止まらなくなってしまった。
目の前の愛おしい人がいなくなる可能性に気が付いてしまったからだ。
「おい!?大丈夫か?アート」
「ノアーナ様、大好きです。ヒック…居なく…ぐすっ…ならないでください。うあああああ」
思わずなりふり構わず抱き着いた。
ノアーナ様は優しく抱きしめてくれた。
愛おしさが爆発した。
「んんん♡…んう……んあ♡……んん……」
アースノートからの激しいキスを、ノアーナは受け止めてくれた。
「私怖いです。お願い、安心させてください……お願いです」
素の可愛いアースノートはノアーナの心を直撃した。
二人は止まらずそのまま………
お互いを思いやりながら、深い愛情をはぐくんだ。
※※※※※
俺の横で可愛い寝顔を見せてくれているアースノートは何かをつかんだようだ。
だが今はまだ検証中ということで俺には明かさなかった。
あんなに感情を表に出すアースノートを見たことがなかった。
俺はアースノートの美しい髪を撫でてやる。
「お前は大事な俺の女だ。頼りないが相談には乗らせてくれ」
「ゆっくりお休み」
俺はキスを落とし、転移した。
実は起きていたアースノートは、その言葉を胸に、絶対に守ると決意を新たにした。