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第106話 ドルグ帝国の兆しと非道な実験

時は少しさかのぼる……


(新星歴4817年12月15日)


ドルグ帝国の皇帝の住むサザーランド宮殿は、領土のほぼ中央、アナデゴーラ大陸のほぼ真ん中に位置している。


そこから南に4キロほど離れた場所に、代々の皇帝の遺体を安置する『霊安殿』という施設があった。


皇都の隣のブシステル侯爵が治める領地との境で、基本誰でも礼拝できる施設だ。


隣には大聖堂が建立されており、観光客がよく訪れる名所にもなっていた。

大聖堂と霊安殿の周りは緑多い公園となっており、市民の憩いの場にもなっている。


周辺は整備されており、多くの商業施設や貴族、豪商など軒を揃え、理路整然と佇むさまは、帝国の豊かな国力を示すようだ。


※※※※※


大聖堂から南に5キロほどのところにあるブシステル侯爵の邸宅では、2人の男がワイン片手に愚痴を言い合っていた。


自身の部屋で、今日の御前会議の採決に納得していないムフラドット・ブシステルは、同じ開戦派のリアルルド・エラナルド伯爵を招いて想いをぶちまけていた。


「くそっ、どうして陛下はかび臭い魔王の戒律などを遵守なさるのだ。我が帝国の国力はレイノード大陸のどの国よりも高い。腑抜けているあ奴らに、今こそ我が帝国の力を見せつけるときだというのに」


ムフラドットは恐ろしいほどの高級品に囲まれた自室でワインを飲みながら、激高していた。


「ブシステル侯爵、今の発言はまずいですね。誰かに聞かれでもしたら……」


一緒にワインを楽しんでいる北部を治めているリアルルドがたしなめる。

爵位に見合わぬ高級そうな仕立ての良い服に身を包んでいる。


「フン、ここでの話はどこにも漏れん……まあ、貴様が話せば別だがな」


思わず殺気を込めリアルルドを睨み付ける。


「はは、そんな命を捨てるようなことはしませんよ。臆病なんですよ私は」


そう言って上品にワインを飲み干した。


「はっ、臆病が効いてあきれるわ。あんなおぞましいことをしている奴がよく言えたものだな」


吐き捨てるように言い、ワインを飲み干す。

そして大きなため息を吐いて、改めて問いかけた。


「実際どうなんだ?使えるのか?」

「まだ時期尚早ですがね。まあ順調ですよ」


「…まあ実際戒律は破れん。わしだってまだ死にたくはないからな。たっぷり資金援助しているんだ。そろそろ結果の一つも見せてもらいたいものだが?」


ゴテゴテと品のないただ高価なだけの指輪がギラリと鈍く光る。


「戒律には抜け道があるのですよ。自身が生存上必要な行為はその対象にならない。つまり敵がいれば、しかもそれが人外であれば、正当防衛になるのですよ。くくくっ、極帝の魔王様はずいぶんとお優しいお方だ。きっと伝承の通り理想高き誠実な方なのでしょうな」


リアルルドはグラスにワインを注ぎながら、内心目の前の男を馬鹿にしながら、ねっとりするような目をしながら語り続ける。


「昨日、擬似人族の開発が一段落しました。見た目は人族ですが、中身は正真正銘の化け物です。あれが暴れて被害は出れば、近い種族を襲おうとも『正当防衛』ですからなあ。しかも我らが手を下す必要もない。種を植え付けた貧しい平民を利用するのですよ」


目を光らせ悍ましい笑い声を零す。


「ふん、恐ろしいことを考える。貴様の方が遥かに質(たち)が悪いではないか」


ムフラドットは自分のグラスにワインを注いで、リリアルドのグラスに軽くぶつけた。


腐れ外道たちの乾杯の音がチーンと部屋に響いていた。



※※※※※


「う、ああ…う、…ああ…」


もう何日ここにいるのかわからない

くらくてこわい

いたい


突然ドアが開き、白衣のようなものを着たものが乱暴に首輪についた鎖を引っぱりあげる。


「来い228番、餌付けの時間だ」

「あ、…うあ……あ……」

「ちっ、言葉も通じなくなったか。くそっ、さっさと来い」


力ずくで引っ張られて、わたしは引きずられて怖い部屋へ連れていかれる。


ガンッ!!……ドッ!!……はあはあ…

「…あん……ンんん…〇…×〇…くう……んあ……」

「おらおら!もっと〇×ふれ!淫乱なサキュ〇×〇!はあはあ、おらっ!」


バシッ!!……ドゴッ!


「あうっ……くう……」


隣の部屋から今日もひどい音が聞こえる……

またあの子がいじめられてるんだ……


「おらっ!さっさと来い!!お前には今日、新作をぶち込むんだ!…今日こそ死ぬかもな」


そして私は怖い部屋へ投げ込まれる………

変な気持ち悪い生き物が、

わたしの口から入ってくる…


「うげえっ……ゴフッ……く……ああああ……」


いたい


こわい


※※※※※


『霊安殿』の地下には誰も知らない地獄が広がっていた。


国中の魔術師を騙すような形で結界を張っていた。

霊安殿に不浄なるものが出る。

そういう「おふれ」で魔術師たちが集められていた。


魔力の低い結界とはいえ、数百人規模の結界だ。

欠片やオーブ事件に追われていたノアーナたちが気づけなかったのも仕方のない事だった。


霊安殿の地下十メートルに、人権など一ミリも存在しない研究所があった。

各国から誘拐した子供や『はした金』で買い取った子供たち。

さらには貧民を誘拐したりと、数百人の者たちが捕えられていた。

そしてあり得ないような狂った実験にさらされていた。


以前はまっとうな施設だった。

犯罪者の更生施設として、その役目を果たしていた。


しかしオーブをきっかけに悪意に染まったものが研究所の職員だったのは不幸に他ならない。

確実に戒律に抵触する行為なのに、漆黒をわずかでも含んでいたためすり抜けてしまったのだ。

多くの者が感染し、抑止力がなくなった結果。

あまりにも非道な行いが行われていた。


そして狂った実験は二つの成果にたどり着いた。

人族の皮をかぶったモンスターが大量に作られた。

そして本性を暴き暴走させる種。


恐ろしい計画の足音は着実に皇都に忍び寄っていた。


悪意の恐ろしさが世の中に爪痕を残すまでもう時間は殆ど残されていなかった。


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