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第110話 ドルグ帝国を染める悪意2

皇帝執務室。


煌びやかな高価な装飾品がセンス良く整えられた部屋だ。

庶民では一生手にすることができないような調度品の数々が下品にならないよう計算されて配置されており、場の高貴な雰囲気を損なわずにいた。


流石に皇帝の執務室であるとノアーナは思いながら、最初にソファーに腰かけた。

ネルを横に座らせ、ムクとナハムザートはその後ろに立たせた。


眼の前の皇帝が膝をつき、俺に口上を述べる。


「いと麗しき至高にして偉大なる極帝の魔王ノアーナ様。御尊顔拝謁賜ること、このディードライル、これ以上の喜びはございません」

「このようなお見苦しい場所にお迎えする事、誠に恐縮の極みにございます。なにとぞ…」


「ああ、いい。すまないな、いきなり。堅苦しいのは苦手だ。お前も知っているだろう。話し合いに来たんだ。お前も掛けてくれ」


「はっ!」


そして手ずから紅茶の準備を始めた。

なかなかやりおる。


紅茶を用意してくれると、俺の前に腰かけた。


※※※※※


ディードライル・ドルグ・オズワイヤ。


ヒューマンとエルフのハーフだ。

現在120歳、見た目は40歳くらいに見える。

皇帝を名乗り40年余、安定した治世とおおらかな人柄により、賢帝と言われている。


なかなか子宝に恵まれず、18年前に第一皇子である「エルリック」が生まれた時は帝国あげてのお祭り騒ぎになったものだ。


現在は二人の皇子と一人の皇女がいる。

エルリックは非常に優秀で、時期皇帝とほぼ決まっている。


だがディードライルはエルフの血を引いており、しばらく彼の治世は揺るがないはずだ。


若いころ冒険者をしていたこともあり、存在値は400を超えている。


肩までかかる銀髪を上品に結い上げ、ターコイズのような青い瞳には力がともっている。

エルフの血を引いていることもあり、非常に美しい顔をしている。


※※※※※


「久しぶりだな。二年ぶりくらいか」


俺は紅茶を飲む。

思った通りなかなかうまい。


「そうですな。皇女を魔王陛下の嫁にと進言した時以来です。いやはや恐れ多いことをしたものです」


ネルが目に入ったのだろう。

ふふん。なかなか良い目をしている。


「それで、さっそくですが、話とは?」

「ああ………なんだか宮殿内が不穏だが?まあ多分同じ案件だ」


「っ!?……流石でございますな。最近不穏な事件が多発しております。魔王陛下からお伝えいただいた、例のオーブによる事件に酷似しております」


「うむ。辺境伯にも聞いた。それで提案があるのだ」

「提案?でございますか」


俺はおもむろにテーブルにいくつかの魔道具と琥珀石を置いた。

瞬間皇帝から黒っぽいもやが消えていった。


「っ!?……ああ、久しぶりに気分が晴れた気がします……魔王陛下、それは?」

「やはりな。結論を言おう、お前たちは感染していた」

「感染?まさか……そんな……」


「お前が体調というか気分がおかしくなったのはいつごろからかわかるか?まあお前は精神耐性が高いからしばらくは感じなかっただろうが」


「………おそらく愚息が新しい婚約者に夢中のなり始めてから、かと」


符合してしまった事実に場の雰囲気が重くなる。


「他の人間の話も聞きたい。オツルイトをこちらへ呼べるか?」

「はっ、すぐに。誰かあるか!」


扉が開いて衛兵が敬礼をする。流石は皇帝の部屋だな。


「宰相オツルイトをここへ」

「はっ」


衛兵は素早く出ていった。

よく訓練されている。


俺はその様を見ながら紅茶を飲んだ。


暫くたわいもない話をしながらお茶菓子を摘まみ、俺はネルとムク、ナハムザートを紹介した。

皇帝はどうやらある程度強さが分かるらしく「うちに欲しかった」とか言っていた。


うん、マジでムクやナハムザートクラスは殆どいないのだ。

ネルは絶対やらんけど。

俺は運が良かったようだ。


ノックの音がし、宰相のオツルイト・イドリドクが部屋に入ってきた。

すぐに跪こうとしたのでそのままこちらへ来いと伝えた。


皇帝の後ろに立ち、礼をした後オツルイトは口を開いた。


「お久しぶりでございます魔王陛下」

「ああ………その様子だとお前も感染していて浄化されたようだな」


「っ!?………やはり。こちらへ向かってくる途中で急に胸が温かくなりました。先ほどまでの不安が嘘のように霧散したのでございます」


俺は紅茶を口に含みオツルイトを見やった。


オツルイトはヒューマンと天使族のハーフだ。

現在は82歳。

人間で見ると50歳くらいだ。

存在値は170程度。


苦労が多いのだろう。

茶色い髪の頂点が少し寂しくなっている。


短めに刈り込んであり、不快感はわかないが。


「オツルイト、今回の件、どこまで把握している」


「はっ。おそらく第二皇子、ダリル殿下の新しい婚約者が原因かと考えております」

「ふむ。第二皇子と婚約者はガイワットへ行ったのだな」

「はっ」


「ディード」

「はい」


「この琥珀石、効果範囲は三十メートルだ。特にお前の部屋と皇子、皇女の部屋は必須だ。あとはなるべく人通りの良い場所へ頼む。25個しかないからな。うまく使うといい」


俺はマジックバックから琥珀石を取り出した。


「ありがとう存じます」


オツルイトは目を見開き、俺に問いかけてきた。


「このような貴重な宝、対価はどのように」

「いらん」


皇帝と宰相は目を見開き固まった。


「しかし、それでは……」

「なに、交換条件を付ける」


俺は『見る聞く何なら匂いまでくん7号』を取り出した。


「これを第二皇子とその婚約者の部屋へ置いてほしい。すまない監視だ。もうプライベートは存在しないと思ってくれ。全部で五個ある。あとの三つは考えて設置してくれ」


「これは一度設置するともう存在が分からなくなるがおよそ500年くらいは稼働を続ける。録画録音、まあ筒抜けになる。年がら年中見るわけではないが、記録として残る」


二人が絶句している。

まあそうだろう。


全ての情報の意味がなくなるからだ。


「悪いが二つは強制だ。残り三つは持ち帰ってもいい」

「どうする?」


さんざん悩んだ皇帝は、二つの設置を了解し、予備として一つを受け取り二つは俺に返した。


そして指示を出し、密に連絡を取る約束を取り付け俺たちはガイワットの港へと飛んだのだ。


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