(新星歴4818年1月10日)
リナーリアがグースワースに来て数日が経過した。
人材を探しに行っていたナハムザートも五人ほど連れてきて、ムクも三名ほど新しい人材を連れてきてくれた。
はじめは俺とネルしかいなかったグースワースもそれなりに活気が出てきたようだ。
※※※※※
執務室で紅茶を飲み寛いでいるとナハムザートが5人を引き連れ顔を出した。
「大将、俺のかつての同僚と、その仲間たちです。どうか見てやってくれませんかね」
五名は跪き、俺をキラキラとした目で見つめていた。
全員ドラゴニュートだ。
奇麗な真核をしている。
流石はナハムザートだ。
「お疲れさまだナハムザート。よし、皆俺に力を貸してくれ。しばらくはナハムザートと行動を共にしてくれ。ああ、ダールはどこだ」
「えっ?ああ、ダールは今呼びます。大将、こいつらよく見なくてもいいんですかい?こういっちゃあなんだが根が悪い奴はいないが粗暴な奴もいる。大将全く知らないでしょう?」
ナハムザートがダールに念話を飛ばしてから俺に問いかけてきた。
「何を言っているんだナハムザート。お前が選んだのだろう?問題などあるわけがないだろう。まあ、ネルにちょっかいをかけないようには縛るがそれだけだ」
そう言って俺は紅茶でのどを湿らせる。
「俺の信じたお前が選んだんだ。採用に決まっている」
「まあ、おいおい詳しく話もするさ。だが今は時間が惜しい。頼むぞ」
ナハムザートが号泣し始めた。
涙もろい奴だ。
そんなことをしているうちにダールが執務室に入ってきた。
「失礼します。ノアーナ様。お呼びとのことで参上しました」
大分成長したダールが奇麗なお辞儀をし俺の前でしっかりと良い姿勢で立つ。
自分が気付いていないだけで元々魔法適性が高かったダールはここ数日で転移魔法を習得していた。
「ああ、お前を副隊長に任命する。ナハムザートの連れてきた三名と行動を共にしろ。お前が指示を出すんだ………できるな?」
ダールは少し涙ぐみながら、まっすぐに俺の目を見つめ力強く頷くのだった。
「ナハムザートは他の二名とだ。ああ、しばらくしたらちゃんとローテーションを組め。その方が効率がいい」
「ルガロ、イレーザ、グスタード、ブラッド、アズガイヤ」
五人は急に名を呼ばれ、ビクッと体を震わせた。
「ノアーナだ。これからよろしく頼む。まあ任務は結構重労働だ。俺が保証するのは寝床と飯位だぞ。それでいいのなら協力してくれ」
そして瞳が驚愕に染まる。
「なに、ナハムザートの想いが俺に伝わるんだ。名前くらいわかるさ。お前たちへの信頼が厚いのもな……報いろ。期待している」
そして全員涙を流しながらしばらくうずくまっていた。
いやいやお前ら、涙腺緩すぎだろ。
そして早速ナハムザートたちは町へと転移していった。
頼もしさに俺は心が温かくなるのを感じていた。
暫くしてムクとルナは魔族の男二名とヒューマンの女性一人を連れてきていた。
「ノアーナ様。諜報に長けているものを二名と、家事に詳しいものをスカウトしてまいりました。ぜひご覧いただきたく」
「魔族のウルリラと申します」
「同じく魔族のヒューネレイでございます」
「カナリアでございます」
3名が恭しく俺に跪く。
この3名も真核に問題はない。
ウルリラは30代前半に見える、どこにでもいるような特徴のない顔立ちをしている。
身長は170cmくらいで髪は肩にかかるくらいのグレー、眼鏡をかけている。
かなり強い。
見た感じ存在値は600を少し超えるくらいだ。
優秀そうだ。
ヒューネレイは……ふむ。面白いな。
見た感じ25歳くらいに見える。
赤みの強い茶色の髪を一つに縛り後ろに流しており、同じ色の眉毛にやさしげな眼には銀色の瞳が瞬いている。
かなりの美丈夫だ。
存在値は550といったところか。
カナリアは40代くらいのご婦人だ。
上品な美しさが、溢れる優しさと良いバランスで共存している。
淡い金色の髪を結い上げ、優しそうな目は大きく、美しい青色の瞳が特徴的だ。
存在値は90くらい。
……辛い人生を送っていたようだ。
耐え続けた真核に尊敬の念を覚えた。
「ムク、お疲れさまだ。……ヒューネレイ、お前面白いな……鑑定もできるのか。そうだな、情報関係の副責任者として働いてくれ……俺とパスをつないだ。相談に乗ってくれると助かる」
ヒューネレイの瞳が驚愕に染まり、そして感動に打ち震えた。
「はっ。仰せのままに」
「カナリア……どうかルナを導いてやってくれ。こいつは母親の愛情を知らない。なるべく一緒にいてやってくれ。リナーリアも後で紹介しよう。これからはルナと3人で内部の管理を頼む」
カナリアは優しく温かい表情でにっこりとほほ笑み丁寧に頭を下げ口にする。
「かしこまりました」
そしてルナを見つめる。
目があったルナの頬がうっすらと上気する。
「ウルリラ、お前にはムクのサポートを任せる。ムクを助けてやってくれ」
「はっ、ありがたき幸せにございます」
「ムクご苦労だった。ルナは拠点管理に戻ってくれ」
「はっ」
「承知しました」
こうして新たな仲間たちとの面談は済んだ。
そして俺はリナーリアを訪ね厨房へ転移した。
※※※※※
「ねえリア。本当にノアーナ様の事は何とも思っていないのね?本当に?絶対?」
厨房ではネルが砕けた口調でリナーリアを質問攻めにしていた。
流石親友だ。
俺の知らない砕けた口調のネルは、少し幼く見えとても可愛い。
俺はしばらく隠蔽の魔法を自分に施し様子を見ることにした。
……ちょっとまずいことをしている自覚はなくもない。
まあ、な。
ガラガッシャン!!
リナーリアが派手に食器をぶちまけた。
「なっ、なっ、な、何を?な、え、い、言っちゃってるかな?ね、ネル?あ、あたり前田のポンポンチキだよ」
メチャクチャ動揺しているリナーリア。
ネルはジト目だ。
「好きなんでしょ?本当のこと言って!」
「ははは、は。……な、なに言ってるの?……ネルの大事な人でしょ?そんな…」
「ええ、7股の最低男ですけどね」
ぐふっ!……俺へのダメージが半端ない。
事実だけど……まあ。
「ねえリア。お願いだから本当のこと言って。違うの。怒ってるんじゃないの。わたしはリアが心配なの」
「えっ……」
リナーリアは思わず固まってネルを見つめた。
「ノアーナ様はとても優しくて私を大切にしてくれる」
「でもあの方の愛はとても大きいの。たくさんの人を愛せるの」
ネルの目から涙があふれる。
「ごめんね。でもそれは良いの。わたしは信念を持ってノアーナ様を愛しているから」
「だけど、リアは……まだ、ごにょごにょ」
リナーリアの顔が真っ赤に染まる。
「だから本当は私、リアがここに来ることに反対していたんだよ。絶対一緒にいれば夢中になるってわかっていたから」
「う……」
「ねえ、もし間に合うなら、わたしノアーナ様に言うから、あなたの大切な初めては、本当にあなたを愛してくれる人にあげてほしい」
ネルはリナーリアの手を握り真剣な表情で見つめた。
リナーリアは大きなため息をついて手をほどき天井を見上げた。
そして涙を零して言葉を紡ぐ。
「ネル、わたし男に興味ないの知ってるでしょ?一番好きなのはネルだよ。ほんと」
そしてとても色っぽい表情を浮かべネルを見つめささやく。
「でも……ごめんね。もう手遅れなんだ。……私初めて男の人を好きになった。…ここに来る前から。この前治療したときに。…もう好きなんだ。……愛されなくてもそばにいたい」
ネルは分かっていたように溜息をつき、寂しそうに微笑んだ。
「うん。……知ってた。……あーあ、ホント酷い人」
そして二人は抱き合いながら涙を流していた。
俺はそっと自分の部屋に転移したのだった。