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第127話 味方となったもう一人の俺

(新星歴4818年1月15日)


ノアーナはギルガンギルの塔の中に設置している聖域で静かに眠りについていた。


あり得ないような奇跡が起こり、見た目復活を果たしたように見えたがあれから一度も目を覚ますことがないため、泣きながら抵抗したネルにモンスレアナが【安定】の権能をかけ眠らせ、どうにかギルガンギルの塔へと連れてきた。


気持は理解できるが、やはりギルガンギルの塔の科学力は群を抜いているため、どうしても経過を確認したかったし、より早く回復してもらいたかったのだ。


あの時ノアーナは間違いなく【破壊】の権能を使おうとしていた。


いくら追い詰められたとしても彼がそれを選んだ背景が分からない限り、最悪の場合神々で封印を施さなければいけない状況だったからだ。


六柱の神々は最優先事項の命令として真核に刻まれていることがある。

それは絶対的な創造主が間違えた時、封印する義務を課せられている事だった。


消えゆくさまを見た時、アースノートが封印の術式を紡ぎ出した時は皆が驚いた。


「消える前に封印して、絶対にあ―しが解決する方法を見つけるんだ」


泣きながらアースノートは言っていた。


封印にはルールがある。

対象の大きさに対して対価として時間の設定がある。


通常の施設であれば最低50年から可能だ。

だがノアーナの場合おそらく万年単位になってしまう。


つまりそれは神くらいしか二度と会えないことを意味していた。


そしてもう一つ。

あの時のノアーナはあり得ないほどの存在値に達していた。

どう計算してもあり得ない力は星と共鳴していた。


仮に【破壊】の権能を使わずとも、あのまま暴走していたら星が崩壊していただろう。


いったい何がそこまで彼を駆り立てたのか。

ノアーナに目覚めてもらい話をしないと何一つ決めることができないでいた。


「っ!?……ふう、わたしも疲れていますね」


足がふらつく。


空間が軋み魔力があふれ出す。

モンスレアナが転移してきた。


「アルテミリス。あなたも休んだ方が良いですわ。真核が消耗していますもの」


モンスレアナも人のことは言えないくらい消耗している。


「ええ、ありがとうございます。全然目を覚ましてくれません。ネルじゃなくてはダメなのかもしれませんが」


思わず固まる二人。

モンスレアナがため息交じりに口にする。


「封印の可能性もありますもの。あの子には合わせない方が良いわ。とりあえず起きていただかない事には何も始まりませんものね」

「それでは私は休ませてもらいます。モンスレアナも無理しないでください」

「ええ、起きたら伝えるわね」


アルテミリスは転移していった。


モンスレアナはノアーナの髪を優しく撫で、大好きな頬に触れた。

昨日の恐怖がよみがえり、涙がポロポロと出てきてしまう。


「ノアーナ様。皆待っております。どうか」


そして優しくキスをした。


※※※※※


疲れていたのだろう。

いつのまにか寝ていたモンスレアナは優しく自分の髪を撫でられて目を覚ました。


「っ!?」


慌てて顔を上げると、優しい目で見つめるノアーナがモンスレアナの髪を優しくなでてくれていた。


「おはようレアナ。すまない。心配かけた」


モンスレアナの涙腺が崩壊した。


「あ、ノアーナ……さま…うあ……うあああああああああああああ」


そしてノアーナの胸に飛び込み子供のように泣きじゃくる。

優しく抱きしめるノアーナ。

愛おしい暖かさに安心したモンスレアナはそのまま意識を手放した。


「おやすみ。俺の可愛いレアナ」


ノアーナはベッドから起き上がり、モンスレアナを寝かせ、会議室へ飛んだ。

今回の顛末を皆に伝えるために。


※※※※※


会議室では茜が体育すわりをしどんよりと落ち込んでいた。

アグアニードは下を向き涙をこらえている。

エリスラーナとダラスリニアは抱き合いながら泣いていた。

アースノートは珍しく会議室で書類を広げており、眼の下には濃いクマができていた。


暗い雰囲気に押しつぶされそうになっていた。


「あー、皆すまないな。心配をかけた」


一瞬でこちらを向く10の瞳。

ちょっとホラーだ。


最初に茜が飛びついて来た。


「うあああああーーーーーん」


可愛い顔がメチャクチャだ。

ノアーナは茜を抱きしめてやる。


「ぐすっ、光喜さん、うう……ヒック…グス…」

「ノアーナ様……うわああーーーん」

「……あああ…ノアーナ様…ヒック…グス…」


ダラスリニアとエリスラーナも飛びついて来た。


「ああ、ごめんな。もう大丈夫だから」


3人にもみくちゃにされながらも申し訳なさと嬉しさが込み上げてくる。

ゆらりと立ち上がるアースノート。

そしてゆっくりと近づいて来た。

余りの異様さに俺から離れる3人。


「……ノアーナ様……ごめんなさい」


皆が固まる。

そして泣き崩れるアースノート。


「あーし、グスッ、ノアーナ様を…ヒック…封印……するとこ…うああ……ひん……」


俺はしっかりとアースノートを抱きしめてやる。


「アートは悪くないんだ。ありがとう。俺を救おうとしてくれて。約束守ろうとしてくれて」

「ヒック…うあああ…あああああああ………」


俺は優しく背中を撫でてやる。


「ノアーナ様―ぐすっ、よがった……よかったよおー」


アグは立ったまま泣き出した。


『君は本当にいい仲間に守られているんだね』

「ああ、俺の自慢の仲間たちだ」

『僕も?』

「あたりまえだ」

『……嬉しい』


俺の心にもう一人の俺が住み着いてくれたんだ。


※※※※※


暫く皆が泣いたり、アルテミリスが来てまた泣いたり、起きてきたモンスレアナがさらに泣いたり、色々あったがどうにか落ち着いた。


改めて皆と情報の共有を図ることにした。


テーブルに皆が座る。

俺は皆に紅茶を出した。

いい匂いが会議室を包んだ。


「皆、今回は本当にありがとう。おかげで星を滅ぼさずに済んだ」


皆が俺を見つめてくれる。


「お前たちに紹介したいんだ。出られるか?」

「「「「「「「?????」」」」」」」


皆が不思議な顔をする。

俺の胸のあたりから白銀を纏う漆黒の光がふよふよと浮かんできた。


「「「「「「「っ!?」」」」」」」


皆に緊張が走る。


「ああ、大丈夫だ。俺を助けてくれた、月から来てくれた俺の欠片だ」


挨拶するようにふよふよと飛び回る。

そしてまた俺の中に吸い込まれるように消えていった。


「前に言ったことなかったな。最後の禁忌地、月の月宮大宮殿にたどり着いた俺の欠片だ。あそこは意味が分からないがこちらよりも時間の流れが速い。150年近く経過した純粋な寂しがり屋だ」


「そして俺を守ってくれた大切な仲間だ」


「光喜さん、欠片なの?その、大丈夫?」


茜が皆を代表して聞きたいことを聞いてくれた。


「多分30万年くらい前だと思う」

「あの頃の俺は多分何も考えていなかったんだ」

「そして月には仕掛けをした」


興味津々の目で俺の話を聞いてくれている。


「その時の真核と同じ色しか行き来出来ないようにな」

「わだかまり、つまり悩みのないころの俺の真核だ。メチャクチャ純粋だぞ。今の俺よりよっぽどな」


「だから全く心配はいらない」


皆がほっとするように息を吐くのが聞こえた。

俺の事を心から心配してくれていることが伝わってきて、俺は涙が出そうだったんだ。



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