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第134話 忘れられた大精霊と悪意の陰

(新星歴4818年4月18日)


クリートホープの建国は、神たちの宣言により全世界に認知された。


ルルネイア・ホープ・オズワイヤを初代女王とし、生き延びていたルガルト・ハートルイス侯爵が宰相となりその治世を助けたことが大きかった。


カイト・ルードロッドも侯爵へと爵位を上げ、続けて南部を統治することになった。

本人は辞退したが、ハートルイス侯爵が強く推薦してくれていた。


そして少ない騎士をドイストレフが団長とし立て直し、国力は徐々にだが回復していく。

皆の胸にはあの立派なディードライルの意志が宿って居る様だった。


生死が危ぶまれていたスリーダル・ナナラダも弟であるギルド長のルナエッタ・ナナラダとともに無事が確認され、新たに設立された魔法庁の長官に任命された。


「わしはもう年じゃ。隠居したい」


との言葉は、なぜか要職についたルミナラスに却下された。

今あの二人は魔法庁という遊び場で何やら研究三昧らしい。


ルナエッタは早速ギルドの再建に奔走し始めたようだ。


そしてダールは。


ハートルイス侯爵の侍女クラリスと婚約した。

国の再建に尽くした英雄として。

新たにダール・ステファン伯爵と王女陛下に任命されて。


すっかり逞しくなったダールは、この知らせに驚いていた。

でもルナが泣きながらお祝いをしたことで心を決めた。


そしてグースワースを卒業した。


とは言えグースワースもクリートホープとはお隣だ。

これからも交流はあるだろう。


そして奴は。


俺の記憶から消えていた、水の大精霊の近くでひっそりと息をひそめていた。


※※※※※


ギルガンギルの塔の第二闘技場。

アースノートが新たに作り上げた最新の科学がこれでもかとぶち込まれた施設だ。


セリレは茜の激しい剣戟をいなしながら、一瞬のスキを突き幾つもの風の槍を作り出し茜に向けてはなった。


「どうじゃ、くらえっ!」


セリレ渾身の風を纏う魔力の槍が、茜を捉えようとうなりをあげて突き進む。


「甘いよ!はっ!!」


茜の前に琥珀に輝く盾が現れ、その槍を受け止める。

そして気付いた時にはセリレの首に、緑のブレードが突き付けられていた。


「ま、まいったのじゃ」


茜が神器を封印し、二人はそこに座り込んだ。


「へっへー。これで私の8勝2敗だね」


ニコニコ顔の茜。


「くっ、ずるいのじゃ、その神器は」

「えー、だって少し本気出せって言ったのセリレじゃん」


茜はアースノート特製のスポーツドリンクを美味しそうに飲みながらセリレに口を開く。

セリレもちゃっかり同じものを飲みながらため息をついた。


「まあの。はあー、でもここにきて正解じゃ。こんなに心躍るのは久しぶりじゃしな」


セリレはエリスラーナの誘いに乗り、あれからほとんど毎日遊びに来ていた。


まあ、戦争でゴタゴタしていた時は遠慮していたが、楽しすぎて最近はノアーナの許可をもらい、ギルガンギルの塔の上層部、3000m位に作られた何もない大広間で住み着いていた。


「わたしも楽しいよ。セリレ凄く色々な技知っているし。うん。本当に勉強になるよ」


茜は立ち上がり伸びをする。

すっかり成長した美しい胸が強調される。


「……茜は可愛いの」


突然そんなことを言うセリレに思わず顔が赤くなる。


「えっ?どうしたの急に。セリレだって超美人じゃん。……おっぱいだって大きいし」


いきなりセリレの胸をつつく茜。


「ひゃん!」


思わず出た可愛らしい声に二人見つめ合い、真っ赤になってしまった。

怪しい空気が流れる。


空間が軋み、エリスラーナが転移してきた。

エリスラーナは今存在値を押さえ、真龍化を使いこなす一歩前までその熟練度を上げていた。


「ん。つぎ私。……セリレ、精霊龍化して」


何故かほっとした二人だった。


「そうじゃな、なら第一に行こうかの。ここはちと狭いからの。ふはは、いつもの我と思うなよ小娘」


「望むところ。茜、またね」

「うん。エリスちゃん、がんばってね」


そうして二人は転移していった。


静かになった闘技場で茜はなぜか寂しくなった。

最近光喜と会えていない。


助けた七人にべったりで、そして怖いくらい取り乱したネルから離れられなくて。


「はあああ……」


かといって、会いに行くのもなんだか違う気がして。

きっと行けば光喜は喜んで抱きしめてくれるだろう。

愛してくれるとも思う。


でも……


「はあああああああああ……」


どうしてもため息が出てしまう。


ふと、セリレに教えてもらった探知を思い出す。


茜は何となく、意味もなく自分の魔力を広げてみた。

薄く広く、遠くまで。


こういうのは実はセリレが得意だ。

教えてもらったことを意味もなくやってみた。


そして驚愕に目を開く。


「嘘……………あいつだ……」


茜は転移していった。


※※※※※


そこは極東の北にある小さな島がいくつかある大きな渦潮が巻いている海の底だった。

何故か空気があり、上からまるで光が虹のように幾つもの色に分かれ降り注ぐ不思議な空間だった。


「奇麗……」


転移してきた茜は初めて見る美しい景色に思わず見とれていた。


「っ!?そうだ!……逃げられた……くっ」


茜が転移した瞬間、極小さな存在値しかないが、あり得ないような嫌な気配の者が確かに茜の探知に触れた。


チートじみた成長速度ではあるが、茜は努力してこの力を手に入れた。

すでにノアーナをはるかに凌駕し様々な事も出来る様になっていたのだ。

誰一人感知できないあの悪意までも感知できるほどに。


茜はもう一度自分の魔力を広げていった。


だが……もう捉えることができなかった。

そう、やつは警戒し、さらに隠れた。


「はあ、……でも、絶対捕まえてやっつけてやる」


茜は決意も新たに拳を握っていた。


そして気付く。

とんでもないものが近くにいることに。


「っ!?」


いきなり茜はフレアスカートタイプの裾を引っ張られた。

5歳くらいの女の子に。


「お姉ちゃん、だれ?」


ノアーナがその存在をすっかり忘れていた、無茶苦茶強い最後の大精霊、水の大精霊ミューズスフィアが茜の魔力で目覚めたのだった。


驚くべきその存在値は………180000を超えていた。


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