リナーリアとサラナの魔手に追い詰められていたロロンとコロンは、転移して帰ってきたカナリアに助けられ、今はグースワースの客間で二人、ベッドにもぐりこみ休んでいた。
そして先ほどまでのことを思い返していた。
「やばいです」
「コクコク」
そして突然二人の頬は朱に染まる。
「魔王様がかっこいいの」
「コクコク」
一目見た時から強いのは分かっていた。
だけど興味を引きたくて無茶な対決を望んでいたのだ。
いつも母親といた二人に、鋼鉄のクズ男はめちゃくちゃ格好良く映っていた。
まあ、確かに美形だ。
強くて優しい。
しかも人たらしだ。
免疫のない二人が一目ぼれするのも無理のない話ではある。
そして今回訪れた理由は。
種の保存、つまり新しい命をはぐくむためだった。
二人は400歳を超え幼年期を抜けたところだ。
もう種族特徴として、子供を産む準備が整っていた。
古龍族の里はもうない。
今は数体の古龍がディードレック島にいるだけだ。
400歳くらいの子はもう二人しかいない。
生き残っている古龍たちは、どうも繁殖に否定的だった。
だけど二人にはどうしてもかなえたい願いがあった。
『母様に赤ちゃんを見せたい』
ロロンとコロンが生まれてすぐに、父であるライノルトは魔竜族の残党に殺されていた。
二人は知らない。
ただ父が死んでから、レーランがいつも寂しそうにしているのが二人は辛かった。
母様は私たちが小さい頃の話をする時だけは、嬉しそうにしている。
そして二人は魔王に思いをはせる。
最初は怖かったの。
でも優しく微笑んでくれたの。
だから、魔王の赤ちゃんが欲しい。
でも、ちょっと怖い。
だって、赤ちゃん作るの初めて。
コクコクとロロンが頷く。
二人は考えが伝わるようだ。
母様が言っていたの。
「最初は痛いわね。でもとても幸せな気持ちになれるのよ」
「痛いの怖いの」
「コクコク」
私たちは強いから、痛いのは慣れてない。
私たちはいつも同じこと言うから、いつの間にかコロンは「コクコク」言う様になったの。
「でもなんで赤ちゃん作るの痛いのかな?」
「だってチューすればできるのに」
「コクコク」
でもでも昔母様が、もう死んじゃっていない父様にいっぱい泣かされていたの。
ロロンとコロンがまだうんと小さいとき。
痛い事された?って聞いたら、母様凄く可愛い顔で「内緒」っていうからわからないの。
コクコク。
あとね、グースワースは怖いところなの。
「りなーりあの目が怖いの」
「さらなも」
「…コロンも怖い」
コロンのおっぱい触られちゃったんだよ?
母様が「それは武器なのよ」って言うの。
触るものじゃないのに。
男への最終兵器?だって。
もう怖くて震えちゃったの。
コクコク。
!?コロンお顔が真っ赤。
お熱は……大変。
熱い!
どうしよう。
フルフル。
えっ?大丈夫?
……コクコク。
そっか。
コロンは妹なのに私ができない召喚ができるの。
コクコク。
大好きなの。
二人はいつも一緒。
コクコク。
だから赤ちゃんも一緒に作るの。
コクコク。
ふあああああ。
母様遅いね。
…うん。
二人はグースワースの客室で、抱き合って仲良く寝るのであった。
※※※※※
「ラスタルム兄さま。恨みますよ」
レーランが冷気を纏いラスタルムの前で睨み付けていた。
普段使わない魔眼まで使用したのだ。
「もうノアーナ様も準備整っていましたのに」
お腹に感じた感触に思わず顔を赤くする。
ラスタルムはため息をついて口にする。
「おまえだってわかっているだろう?あの方は優しいって」
「…それは……はい」
しょんぼりする。
「だったらちゃんと手順を踏め」
「えっ?」
レーランは思わずぽかんとしてしまう。
「あの人は多分たくさんのつながりを持っている」
「………」
「だからちゃんと愛されないと後悔するぞ?」
レーランはため息をついて口にする。
「でも、わたしは………」
そして脳裏には愛していた亡くなったライノルトの顔が浮かんでしまう。
思わず涙が滲みだす。
ラスタルムは優しくげんこつでレーランの頭をぽかりと叩いた。
「お前が一途なのは知っているし、心配していることも分かる。だけどな、ノアーナ様はびっくりするくらい純粋な方なんだよ」
「………」
「ロロンとコロンに任せればいいじゃないか」
「おまえだって本当は……」
「言わないでください」
私はまだあの人を愛している。
言われてしまえば決心が鈍るのだ。
「………」
「分かりました。お願いして一緒に住まわせてもらいます」
「そして見極めたいと思います」
ラスタルムは大きく息を吐き出した。
そしてこの可愛い妹分を優しく見つめる。
「お前の好きにしたらいい。あいつだって応援するさ」
「……そう…ですかね」
思わず涙が浮かぶ。
優しいあの人を思い浮かべてしまう。
「ああ。……もう400年だぞ?」
「……ええ」
違う。
まだ400年だ。
「まったくお前も人のこと言えないくらいピュアだもんな」
レーランの顔が真っ赤に染まる。
「いいさ、俺はお前の兄貴分としていつでも相談に乗ってやるさ」
「……うん」
「アイツだっておまえの幸せを願っていると思うけどな」
「………」
そう……だろうか?
「ロロンとコロンが待ってるんだろ?」
「っ!?」
「早く行ってやれ」
「……はい。ありがとう兄さま」
「ああ、魔王様によろしくな」
レーランは転移していった。
「はああああああ」
大きくため息をつく。
「まったくどいつもこいつも……純情か?」
おっさんの俺には分からないけどな、とかぶつぶつ言いながら。
ラスタルムは一人寝床へ行くのであった。