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第151話 魔都とグースワースのあれこれ

俺たちは帰還組と魔国組にそれぞれ分かれ行動を開始した。

俺と茜、ダラスリニアとエリスラーナが魔国組、その他が帰還組だ。


ネルが最後まで一緒に来ると粘ったが、ナハムザートの転移はまだそこまで熟練度が高くないため、長距離の複数転移ができない。


何とか了承してもらった。


俺たちは魔国王のいる魔都イルガルドにある、ガイナファルン城の謁見室に飛んだ。

勿論行く事はダラスリニアが伝えている。


到着すると魔国王であるバルザード・ゾル・セランドルと、大公爵であるダラスリニアの父ルドルク・セランドル、同じく大公爵ギルアデス・バランディアの国の中枢が膝をつき出迎えてくれた。


その後ろには名だたる貴族がひしめき合って様子をうかがっている。


「出迎えご苦労」


俺は取り敢えず言葉を発する。


「……ただいま……ギルおじ様。……バルおじ様も」


ダラスリニアがにっこり笑い魔国王とギルアデスに挨拶をする。

父親はガン無視だが。

うなだれる父親と目を輝かせる魔国王とギルアデス。


うん。

公開処刑だな。


そして皆茜を見て固まってしまう。

茜は居心地が悪そうだ。


俺は思わず茜の頭に手を置いた。


「皆、楽にしてくれ。バル、話がしたい。準備を頼む。ギルアデスもいつもありがとう。……ダニー、そのくらいにしてやれ。もうわかっているのだろう?ルドルクに非がない事は」


珍しくダラスリニアは頬を膨らませ、父をジト目で見ていたが、突然蕩けるような可愛い顔をしルドルクに話しかけた。


「……父上……ううん。とおさま。……抱っこ」


そして胸に飛び込んだ。

ルドルクは目から滝のように涙を流しながらダラスリニアを抱きしめた。

何故か沸き起こる拍手。


ああ、辛かったのだろうな。

いじけていたルドルクが目に浮かぶ。


バルザードとギルアデスがなぜか悔しそうにしていたが。


取り敢えず俺たちは魔国王の執務室へと案内された。


闇の神ダラスリニアはもともと魔国のお姫様だ。

何しろ国民すべてが眷族の儀式を済ませてある。

当然人気が高い。


だがエリスラーナも負けてはいない。

ファンクラブまであるそうだ。


はははっ。


当然俺にそんなものはないけどな。


悔しくなんて、ないんだからな!


※※※※※


帰ってきたネルは一人になりたくて自室へ向かったものの、リナーリアにしつこく誘われ談話室で機嫌悪く、珍しく仏頂面で頬杖をついていた。


確かにギルガンギルの塔にいた時に比べノアーナは「いたす」回数は激減した。

あの頃は気が付けばそういうことが伝わってきたし、自分もしょうがないと受け入れていた。


でも最近ノアーナは基本ネルだけを可愛がってくれていた。


手癖の悪いクズ男のノアーナだが、本当に優しい人だ。

可愛いグースワースの女性たちは基本幾つものトラウマに囚われている。


勿論ほとんどの皆がノアーナに恋慕の情を抱いている状況だが、そこら辺の線引きはしっかりとしているノアーナなのだ。


ここ最近では茜と一度だけそういう事があったくらいだ。


最近ネルは自分でもわからない位に『嫌な女』になっていると感じていた。

嫉妬心を止められなくなっていた。


誰にも渡したくない。

ノアーナが他の女といるだけで、醜い心が沸き上がってしまう。


「はあ………」


思わず零れる溜息。

数人が一緒にいる中なのに、ネルは素をさらけ出していた。


それをさりげなく見て興奮しているサラナには気づいていないが。

ノニイとエルマがなぜか見ないふりをしてくれていた。

カンジーロウは思わず顔を赤く染め下を見る。


「ネルー?どうしたのよ。もう、暗いなあ。……プリン食べる?」


リナーリアが隣に座りネルの肩に手を回す。


「……いらない」


感情のない声が帰ってきた。


「うっ」


思わず絶句するリナーリア。


「はあ……ノアーナ様の事?」

「……うん」


リナーリアは何となく遠い目をする。

カナリアは微笑ましいものを見るように優しく微笑んでいたが。


「ダラスリニア様、めっちゃ可愛いね~」


何の気なしに口にしてリナーリアは後悔した。

ネルが泣きだしたのだ。


「えっ?ちょ、ちょっとネル?大丈夫?」


皆が騒然とする。


「ぐすっ……ヒック……ダラスリニア様…本当に……可愛い」

「グスッ……私は……可愛く…ヒック……ない」

「ノアーナ様に……ぐすっ……嫌われ……たら……うああ」


そしてリナーリアに抱き着いて泣きじゃくるネル。

思わず興奮しかけたが、さすがに空気を読んで優しく頭を撫でてやった。


「大丈夫だよ!ノアーナ様、ネルにベタ惚れじゃん。最近浮気してないんでしょ?大丈夫だよ、ねっ!」


「……りあだって……好きな癖に……ぐすっ……」

「うっ……」


思わず顔に熱が集まる。


そして一瞬冷静になり、今度は欲望が沸き上がる。

リナーリアはおもむろにネルの胸に手を這わした。


「っ!?……んっ♡」


心が揺れている状況で思わず素の反応をするネル。

メチャクチャ可愛い。


カンジーロウは見ていられないと部屋を飛び出した。

ロロンとコロンは顔を真っ赤にして震え始める。

遠くでサラナが気を失い倒れた。


「もう、こんなに可愛いおっぱいしてるんだから~自信持ちなよ」


そしていやらしく手を動かすリナーリア。


だんだん興奮してきた。

周りなど気にしていられるものか!


目に怪しい光がともる。


「あん♡……いやあ…ちょっと、やめて、リア…んう♡」


さらに攻撃は続く。

カナリアが静かに立ち上がった。

ノニイとエルマは顔を赤らめガン見している。


ネルの長めの耳を軽く食み、さらに怪しく手を動かす。

リナーリアの呼吸が早くなっていく。


「はあはあはあ、ああ、ネル、可愛い。はあはあはあ♡」


気を失ったサラナが再起動し、鼻から血を吹き出し今度は後ろへひっくり返った。


「やん♡……んう…ダメえ……りあ…」

「はあはあはあはあネル、あああ、カワユス♡」


そしてリナーリアの頭にカナリアお母さんの手刀が落とされた。


「ひゃん!」


そしてため息交じりに鬼が笑う。


「あなた、全く懲りていないようですね?……こちらへいらっしゃい」


問答無用で引きずられ別室に連れていかれたリナーリアだった。


茫然として見送るネル。

そして思わず笑みがこぼれた。


「まったく。しょうがないリア」


何故かネルにロロンとコロンが抱き着いて来た。


「ネル?大丈夫?」


目が潤んでいた。

この前の恐怖がよみがえったのだろう。

ネルは二人を優しく抱きしめた。


「ロロン、コロン。ありがとうございます。わたくしは大丈夫ですよ」


そしてにっこり微笑んだ。

女神のほほえみだ。


サラナはもう一度気を失った。


※※※※※


「……バルおじ様、気が抜けていますね。……強化して」


ダラスリニアが口を開く。


ここの所各地で黒い魔物による被害が増えていた。

バルザードも当然警戒していたし、部隊を組み対応はしていた。


ダラスリニアの眷属でもある彼らは琥珀石を保有している、


「っ!?…申し訳ありません。ダラスリニア様」


姪とはいえ信望する神だ。


バルザードは頭を下げる。

ルドルクとギルアデスも追随した。


「ん。あいつら厄介。不敬」


エリスラーナも言葉を発した。


「頭を上げてくれバル。お前らの中で古代魔法での回復ができる奴はどのくらいいる?通常の回復魔法が効かない可能性が高い。一応茜に浄化はしてもらうが全ては賄いきれない」


出された目の前の紅茶を口にする。

なかなか旨い。


「はっ、魔法部隊の精鋭の4名ほどが習得しているはずです」

「……少ないな……素養のある者はいるか?」

「おそらく10名ほどかと」


俺は腕を組み考えに浸る。


「エリス、お前しばらくここで指導してもらえないか?とどまる必要はないが、存在値の低いものにとってギルガンギルの塔はきついからな。連れていくわけにはいかないだろう」


「ん。わかった。バル、準備お願い」

「はっ、ありがたき幸せにございます」


バルザードは控えている騎士を見やると、数名が動き出した。

よく訓練されている様を見て俺は嬉しくなった。


「ギルアデス、おまえの例のアレは奴らに効果はあるのか?」


俺はぼかして告げた。

切り札を多くに知らせる必要はない。


「っ!?……効果はレジストされるようです」

「そうか。すまないな、変なことを聞いて」

「いえ、滅相もございません。ノアーナ様のお心遣いに感謝いたします」


深く俺に頭を下げる。

奇麗な姿に思わず見とれた。


「ああ、気にするな。ルドルク、ダニーの弟はどこまで育っている」


確か数百年前に見た時には存在値が2000程度だった。

才能はあるのだ。

見合う努力をすれば伸びるはずだが。


突然問われルドルクは思わず立ち上がり俺に告げる。


「はっ、愚息は現在存在値2200程度です。我が強く今は謹慎させているところでございます」


「……何かしたのか?」

「はっ……その、ごにょごにょ」


なぜか小声になるルドルク。


「なんだ?はっきり言え」

「申し訳ありません。王に世継ぎができたことで、やる気をなくし遊び歩いておりまして……気合を入れ現在魔封の塔にて謹慎中でございます」


俺は思わずため息をついた。


「才能におぼれた、か。ダニー、おまえの弟だ。どうする?鍛えれば戦力にはなるだろうが」


ダラスリニアの目がスッと細くなる。

何故か背筋に寒いものが走った。


「……ギルガンギルの塔で……ミューズスフィアと……遊ばせる」


そしてにやりと笑う。


うわー、女って怖え。

弟君、死なないでな!


そしていくつかのやり取りをし俺たちはギルガンギルの塔へと飛んだのだった。


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