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第150話 伝説の魔王と勇者と神と

「……う…うん?」


目を薄っすらと開けると知らない天井が目に入り、ガルナローの意識が浮上してきた。

おもわず腹をさする。


そして横のベッドにガルナルーがいることを確認し、安堵の息を吐いた。


「助かった……のか?……ここは……」


見たことのない場所だ。


ガルナローは起き上がり、あたりを見回す。

ちょうどドアが開き、ナハムザートが入ってきた。


「おう、目が覚めたか。おまえ危なかったぞ。あとでエリスラーナ様にお礼を言っとけよ」

「っ!?……エリスラーナ様?…えっ?」


突然告げられた水の神様の名前にパニックになるガルナロー。

普通に生きていればたぶん一生かかわることはない、まさに遥か想像の上の存在だ。

英雄なんて目ではない。


「う、うん……ここは?」


そんなタイミングで隣のガルナルーも目を覚ました。

そしてガルナローを見て涙を流す。


「兄者!……よかった、助かったんだな…」


なぜか涙ぐむナハムザート。

相変わらず涙もろい。


そして伝説が降臨する。


極帝の魔王であるノアーナが様子を見に来た。


「ナハムザート、どうだ二人は……って、良かったな、大丈夫そうか?」


思わず固まる二人。

神よりもさらに上の存在に、思考回路が追い付かない。

そしてさらに勇者まで登場する。


「こ、ノアーナ様?どう二人は…よかった。大丈夫そうだね」


おさえていても140000オーバーの存在値を誇る茜。

二人が気絶するのは仕方のない事だろう。


※※※※※


俺は今執務室で事の顛末を聞いていた。


助けたドラゴニュートの兄弟が落ち着きなくキョロキョロしているが、まあこのメンツだ。

仕方がないのだろう。


何しろ魔王の俺と、勇者茜、水の神エリスラーナ、そして存在値1000越えのナハムザート、2000越えのネルが一堂に会しているのだ。


「茜、あのあたりの反応はどうだ」


俺は切り出し茜に問いかけた。


「うん。50体くらいは倒して浄化もしたから、多分しばらくは良いと思うよ。『奴』の気配はしなかったけど、何かしらの物をばら撒いたみたいだね」


「ありがとう。エリスもな。助かったよ」

「ん。問題ない。また手伝う」

「ああ、頼りにさせてもらう」


そして俺はキョロキョロしている兄弟へ問いかける。


「お前たちの集落での被害はまだそこまで酷くはないのだな?」


声を掛けられビクッとしたが、おそらくガルナルーという弟が口を開いた。


「はい。まだ小さい怪我をするものがいるくらいです。まあ、回復魔法が弾かれるので、寝ているものが多いですが」


「そうか。ネル、リナーリアと俺と一緒に行くか。回復してやろう」

「はい、承知しました。この後出られますか?」

「ああ、いくつか質問を終えたら行こう。お前たちも一緒に行くとしよう。里の者も心配しているだろうからな。……その前に食事にするか。家の飯はうまいぞ。食べていくといい」


そしていくつか質問をし、皆で食堂へと移動した。

拠点の中が珍しいらしく二人はキョロキョロしていた。


そして食堂ではガロドナが待っていた。


「ガルナルー、久しぶりだ。……5年ぶりくらいだな」


ガルナルーの目が開かれ驚きの声を上げる。


「ガロドナ?……お前、生きて……」


実はこの二人はかつてともに冒険をしていた仲間だった。

5年ほど前にとてもかなわない魔物に襲われ、散り散りに逃げてそれから音信不通になっていた。


「ああ、あの後意識を失っていた俺を大将が拾ってくれたんだ。今じゃここで働かせてもらってる。おかげで俺も今のお前よりは強く成れたよ。お前の魔法のおかげだ。ありがとう」


そしてにっこりと笑う。


「ああ、ここの飯は最高だぞ?楽しんでくれ……大将、俺は見回りに戻ります。こいつらお願いします」


そう言って食堂から出ていった。

おもむろにナハムザートが声をかけた。


「そうか、お前があいつの恩人か。あいつはいつも言うんだよ。『大将は俺にとって英雄ですが、命の恩人は別にいるんです』ってな。全くこっぱずかしいから言うなと言っても、ことあるごとに言いやがる。まああいつは情の深い男だからな」


そしてガルナルーを見つめた。


「俺からも礼を言わせてくれ。ガロドナを助けてくれてありがとうな。お前の回復魔法がなけりゃあいつは死んでいただろうさ」


そして肩をポンと叩く。


その様子をガルナローはじっと見ていた。

決意を込めた目をしながら。


※※※※※


二人は大変気に入ったようで、がむしゃらに泣きながらリナーリア達の用意した食事を食べていた。


やっぱりドラゴニュートは涙もろいのだと俺は思ったものだ。


※※※※※


俺は一応魔国へ行くのでダラスリニアへ念話を送ったら、魔都へ行く必要もあるため合流する事となった。


今は到着を待っているところだ。

皆の準備は整っている。


「ダラスリニア様も来るのですか?」


ネルが俺に問いかける。

隣には準備が整った茜とリナーリアもいた。


「ああ、魔国の事だしな。魔国王にも顛末を伝えにゃならんし。あいつが治めている国だ。必要だろう」


「…そうですね……」


なぜかジト目のネル。


空間が軋み魔力があふれ出す。

ダラスリニアが転移してきた。


今日はちょっと上品な余所行き用のドレスを身に纏っている。

可愛らしいリボンで結った髪が美しい。

いつもダラスリニアはオシャレで可愛い。


「……お待たせしました………ノアーナ様」

「ああ、久しぶりだダニー。お前はいつも可愛いな」


顔を赤くするダラスリニア。

俺に体を寄せる。

俺は優しくハグをする。

とてもいい匂いだ。


「……あああ……すき♡」


ダラスリニアの目に欲情の色が浮かんだ。


「コホン」

「おっほん」


流れるような咳払いが起こるのだった。

俺は実はこの一連の流れが好きなのだ。

まあ、俺がクズな証だろう。


「よしそれじゃあ行くか」


そして転移して俺たちは町長を訪ねた。

転移したメンツに目を回していたが、どうにか話を済ませ怪我人をリナーリアが回復させ、茜があたりを浄化した。


一応予備で琥珀石を渡しておいた。

これで多少は対応できるだろう。


町長は頭がめり込むぐらい頭を下げていたが、どうにか受け取ってもらった。


「よし、それじゃあな。ガルナローだったな。この里を守ってやってくれ」


そう言って手を差し出すが、なぜか俺を真直ぐ見て手を握らずに懇願してきた。


「ノアーナ様!俺たちをグースワースで雇ってもらえませんか?一生懸命やります。お願いします」


弟のガルナルーも膝をつく。


「私からもお願いします。どうか、どうか」


俺は思わずため息をつく。


「だが、この里が困るだろうに。見たところおまえたちが一番強そうだ」


そして町長を見やる。

困った顔だ。


そして意外な人物が口を開いた。


「……魔国から人材……派遣する。……大丈夫」


ダラスリニアだ。

彼女がこういうことを言うのは珍しい。


「ダニー、どういうことだ?」


「……今回の事……魔国王の責任……私の責任」

「……国で面倒見る……当然の事」


力強く言い切る。


「ふう、そうか。……分かった。町長、そういうことだ。二人は預かる」


「「ありがとうございます」」


そして涙を流し喜ぶ二人。

家のドラゴニュート部隊が12人になったのだった。


二人は思った。

グースワースは化け物ぞろいだ。


でもきっといつか。

俺たちもその一員になってやると。


二人の目には決意の色が輝いていた。

彼らが英雄と呼ばれる日はきっと近づいた。


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