「……う…うん?」
目を薄っすらと開けると知らない天井が目に入り、ガルナローの意識が浮上してきた。
おもわず腹をさする。
そして横のベッドにガルナルーがいることを確認し、安堵の息を吐いた。
「助かった……のか?……ここは……」
見たことのない場所だ。
ガルナローは起き上がり、あたりを見回す。
ちょうどドアが開き、ナハムザートが入ってきた。
「おう、目が覚めたか。おまえ危なかったぞ。あとでエリスラーナ様にお礼を言っとけよ」
「っ!?……エリスラーナ様?…えっ?」
突然告げられた水の神様の名前にパニックになるガルナロー。
普通に生きていればたぶん一生かかわることはない、まさに遥か想像の上の存在だ。
英雄なんて目ではない。
「う、うん……ここは?」
そんなタイミングで隣のガルナルーも目を覚ました。
そしてガルナローを見て涙を流す。
「兄者!……よかった、助かったんだな…」
なぜか涙ぐむナハムザート。
相変わらず涙もろい。
そして伝説が降臨する。
極帝の魔王であるノアーナが様子を見に来た。
「ナハムザート、どうだ二人は……って、良かったな、大丈夫そうか?」
思わず固まる二人。
神よりもさらに上の存在に、思考回路が追い付かない。
そしてさらに勇者まで登場する。
「こ、ノアーナ様?どう二人は…よかった。大丈夫そうだね」
おさえていても140000オーバーの存在値を誇る茜。
二人が気絶するのは仕方のない事だろう。
※※※※※
俺は今執務室で事の顛末を聞いていた。
助けたドラゴニュートの兄弟が落ち着きなくキョロキョロしているが、まあこのメンツだ。
仕方がないのだろう。
何しろ魔王の俺と、勇者茜、水の神エリスラーナ、そして存在値1000越えのナハムザート、2000越えのネルが一堂に会しているのだ。
「茜、あのあたりの反応はどうだ」
俺は切り出し茜に問いかけた。
「うん。50体くらいは倒して浄化もしたから、多分しばらくは良いと思うよ。『奴』の気配はしなかったけど、何かしらの物をばら撒いたみたいだね」
「ありがとう。エリスもな。助かったよ」
「ん。問題ない。また手伝う」
「ああ、頼りにさせてもらう」
そして俺はキョロキョロしている兄弟へ問いかける。
「お前たちの集落での被害はまだそこまで酷くはないのだな?」
声を掛けられビクッとしたが、おそらくガルナルーという弟が口を開いた。
「はい。まだ小さい怪我をするものがいるくらいです。まあ、回復魔法が弾かれるので、寝ているものが多いですが」
「そうか。ネル、リナーリアと俺と一緒に行くか。回復してやろう」
「はい、承知しました。この後出られますか?」
「ああ、いくつか質問を終えたら行こう。お前たちも一緒に行くとしよう。里の者も心配しているだろうからな。……その前に食事にするか。家の飯はうまいぞ。食べていくといい」
そしていくつか質問をし、皆で食堂へと移動した。
拠点の中が珍しいらしく二人はキョロキョロしていた。
そして食堂ではガロドナが待っていた。
「ガルナルー、久しぶりだ。……5年ぶりくらいだな」
ガルナルーの目が開かれ驚きの声を上げる。
「ガロドナ?……お前、生きて……」
実はこの二人はかつてともに冒険をしていた仲間だった。
5年ほど前にとてもかなわない魔物に襲われ、散り散りに逃げてそれから音信不通になっていた。
「ああ、あの後意識を失っていた俺を大将が拾ってくれたんだ。今じゃここで働かせてもらってる。おかげで俺も今のお前よりは強く成れたよ。お前の魔法のおかげだ。ありがとう」
そしてにっこりと笑う。
「ああ、ここの飯は最高だぞ?楽しんでくれ……大将、俺は見回りに戻ります。こいつらお願いします」
そう言って食堂から出ていった。
おもむろにナハムザートが声をかけた。
「そうか、お前があいつの恩人か。あいつはいつも言うんだよ。『大将は俺にとって英雄ですが、命の恩人は別にいるんです』ってな。全くこっぱずかしいから言うなと言っても、ことあるごとに言いやがる。まああいつは情の深い男だからな」
そしてガルナルーを見つめた。
「俺からも礼を言わせてくれ。ガロドナを助けてくれてありがとうな。お前の回復魔法がなけりゃあいつは死んでいただろうさ」
そして肩をポンと叩く。
その様子をガルナローはじっと見ていた。
決意を込めた目をしながら。
※※※※※
二人は大変気に入ったようで、がむしゃらに泣きながらリナーリア達の用意した食事を食べていた。
やっぱりドラゴニュートは涙もろいのだと俺は思ったものだ。
※※※※※
俺は一応魔国へ行くのでダラスリニアへ念話を送ったら、魔都へ行く必要もあるため合流する事となった。
今は到着を待っているところだ。
皆の準備は整っている。
「ダラスリニア様も来るのですか?」
ネルが俺に問いかける。
隣には準備が整った茜とリナーリアもいた。
「ああ、魔国の事だしな。魔国王にも顛末を伝えにゃならんし。あいつが治めている国だ。必要だろう」
「…そうですね……」
なぜかジト目のネル。
空間が軋み魔力があふれ出す。
ダラスリニアが転移してきた。
今日はちょっと上品な余所行き用のドレスを身に纏っている。
可愛らしいリボンで結った髪が美しい。
いつもダラスリニアはオシャレで可愛い。
「……お待たせしました………ノアーナ様」
「ああ、久しぶりだダニー。お前はいつも可愛いな」
顔を赤くするダラスリニア。
俺に体を寄せる。
俺は優しくハグをする。
とてもいい匂いだ。
「……あああ……すき♡」
ダラスリニアの目に欲情の色が浮かんだ。
「コホン」
「おっほん」
流れるような咳払いが起こるのだった。
俺は実はこの一連の流れが好きなのだ。
まあ、俺がクズな証だろう。
「よしそれじゃあ行くか」
そして転移して俺たちは町長を訪ねた。
転移したメンツに目を回していたが、どうにか話を済ませ怪我人をリナーリアが回復させ、茜があたりを浄化した。
一応予備で琥珀石を渡しておいた。
これで多少は対応できるだろう。
町長は頭がめり込むぐらい頭を下げていたが、どうにか受け取ってもらった。
「よし、それじゃあな。ガルナローだったな。この里を守ってやってくれ」
そう言って手を差し出すが、なぜか俺を真直ぐ見て手を握らずに懇願してきた。
「ノアーナ様!俺たちをグースワースで雇ってもらえませんか?一生懸命やります。お願いします」
弟のガルナルーも膝をつく。
「私からもお願いします。どうか、どうか」
俺は思わずため息をつく。
「だが、この里が困るだろうに。見たところおまえたちが一番強そうだ」
そして町長を見やる。
困った顔だ。
そして意外な人物が口を開いた。
「……魔国から人材……派遣する。……大丈夫」
ダラスリニアだ。
彼女がこういうことを言うのは珍しい。
「ダニー、どういうことだ?」
「……今回の事……魔国王の責任……私の責任」
「……国で面倒見る……当然の事」
力強く言い切る。
「ふう、そうか。……分かった。町長、そういうことだ。二人は預かる」
「「ありがとうございます」」
そして涙を流し喜ぶ二人。
家のドラゴニュート部隊が12人になったのだった。
二人は思った。
グースワースは化け物ぞろいだ。
でもきっといつか。
俺たちもその一員になってやると。
二人の目には決意の色が輝いていた。
彼らが英雄と呼ばれる日はきっと近づいた。