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第154話 グースワースの生活事情

(新星歴4818年7月30日)


今日もグースワースの皆は精力的に動いてくれている。


当初俺とネルの二人だけだったグースワースだが、現在は40名の大所帯だ。

結局レーランとロロン、コロンは行く当てがないということで一応門番として働くとなった。

今は一緒に暮らしている。

もちろん大切な仲間だ。


人数が増えれば当然必要のものも増えてくる。


とは言え、大概のものは俺の創造で作れてしまう。

設備や建物、大きい家具、装飾品などがこれに当たる。


基本個室を与えているためプライバシーも問題がない。

シャワールームや大浴場、サウナ、トレーニングルームに室内訓練場も完備だ。


特に寝具などはこの世界基準より数段上のものを用意した。

人生の三割は寝ているようなものだ。

こだわるに決まっている。


衣類なども準備は抜かりない。

当然だが俺の趣味が反映されるが。


中には気恥ずかしく、着用に躊躇(ちゅうちょ)する者もいるようだ。

……解せぬ。


まあそういった者の分については購入している。

最近は女性中心で作成することも増えたそうだ。

手作りとは思えないクオリティーの高い俺の知らない衣服を着用している者なども増えてきた。


そして当然生きていくうえで食事事情は欠かせない。


俺はずっと神々と一緒にいたので、この世界の中心的な考えである1日2食という概念はなかった。

俺自身も別に摂取する必要はないのだが、うまい飯はやはり力になる。


食に対し異常な情熱をリナーリアが持っていることから、グースワースではいつの間にか一日三食が当たり前になっていた。


まあ確かに人族が中心の町では昼食も盛況のようだ。

田舎暮らしや魔物寄りの種族などは普通に一日二食か一食らしいが。


そんなわけで食材は大量に必要になった。

以前の少数であれば魔素を元とした『聖言』などで賄っていたがどうしてもバリエーションが少ない。


そもそもネルの手料理は俺だけの特権だ。

今では驚くほどうまい飯を作ってくれる。

当然ながら俺専用とさせてもらっている。


結果として小麦やコメといった主食については町などで仕入れている。


仕入れには当然ながら金銭が必要となってくる。

まあ俺は創造主であるので金銭は莫大な量を保有しているので問題はない。


創造主が金欠など笑えないだろう。

なのでその辺はきっちりと組んでいた。


だが最近は殆どそのお金には手を付けていないようだ。


ムク曰く、自分たちで調達。

これこそが真理。

……そういう事らしい。


具体的にはグースワース周辺の凶悪なモンスターの素材の売却益で賄うらしい。

通常ではほとんど討伐出来ないランクの魔物たちなので、買取り額が半端ないのだ。


そしてこの世界の魔獣や魔物の肉、魚は基本旨い。

これの確保も訓練を兼ねているので解決されている。


以前アースノートに作成してもらった時間の止まる肉・魚用保管庫があるためいくらあっても問題がない。

すでに数年単位で確保されていた。


各地へ手伝いや手助けに行くときにはマジックバックに食料を持っていく事は俺たちグースワースの鉄則になっている。

俺がそう指示した。


腹が空けばろくなことを考えないのは、どの種族にも適用されよう。


なので実際に購入する物は野菜や果物といったものくらいだそうだ。

それについても俺の知らないうちに広大な農場が出来つつある。

完全自給自足を目指すと、ムクが誇らしげに言っていた。


俺も時間のある時は地球の料理やスイーツやお菓子、嗜好品などを研究してレシピをリナーリアに預けているので、ここは食に関して世界で一番充実しているだろう。


アイツは天才なので、俺の想像を超えた至高の一品に仕上がる。

実は楽しみにしているのだ。


この前教えた『かつ丼』など、あまりの旨さに涙が出たほどだ。

『ナの森丼』など目ではない。

エリスラーナが甚く気に入っていた。


まあそんなわけで食の問題も解決されている。


そしてもちろん給料だって払っている。

ただ働きなど俺の倫理観が許さない。


一応毎月決まった額を渡してはいる。

が、ほとんど使わないらしい。


余りに使わないので、

「たまには町で酒でも飲んだらどうだ?」

と、言った事があった。


主にドラゴニュート隊や魔族連中にだが。

そしてメチャクチャ不思議そうな顔をされた。

何でも「グースワースの談話室が世界で一番ですよ」との事。


確かに俺の趣味で世界中の高級なお酒からエールまでより取り見取りだ。

つまみも簡単なものなら自動で準備できる。

勿論ソフトドリンクだって無駄に再現し揃えた。

一押しはコーラだな。

気に入ってしまったダラスリニアが「太っちゃう」って怒っていたっけ。


そしてカラオケなども世界観を無視して設置してある。

実はアルテミリスがメチャクチャ上手なのだ。


ビリヤードやダーツといったアミューズメントもそれなりに備えてある。

作品は少ないが映画も見られるようにした。


ここかギルガンギルの塔くらいしかないものだ。


そこら辺の都市よりも快適なのだ。

当然いつでも無料で使用可能だ。


……確かに他に行くよりは楽しめるのは間違いない。


あと人が集まるからには大切なことがある。

生きる希望といってもいいだろう。

つまりグースワース内は基本自由恋愛だ。

ネルは絶対にダメだが。


でも皆それぞれ抱えているものがあるのも事実だ。

まあそこは『おいおい』だろう。


というわけでグースワースの住人たちは満足して暮らせているようだ。

責任者としてほっとしている。


※※※※※


比較的後半からグースワースの住人になった天使族と魔族のハーフのラズ・ロックは、猫族のマラライナ、エルフ族のサーズルイ、ヒューマンのゴドロナとともに、ミユルの町へ野菜と果物の仕入れに来ていた。


今回ゴドロナは用心棒だ。

ヒューマンで存在値700越えは普通殆どいない。


珍しい黒髪を一つに縛り、きりっとした眉毛と細く鋭い緑色の瞳が、いかにも武術の達人のような雰囲気を醸し出していた。

37歳とグースワースでは高めの年齢だが、誰よりも実力に重きを置いているため、カンジーロウの部下という立場には納得している。


むしろ憧れているようで、カンジーロウが着用しているような道着と黒っぽい袴を着用している。


ラズも相当強い。

存在値は480。

かつては4人でパーティーを組んでいた冒険者のリーダーを務めていた。

ここ最近の修行のおかげで転移魔法を扱えるようになっていた。


赤みを帯びた肩口までかかる茶色の髪を頭上で纏め後ろへ流し、同じ色のキリッとした眉毛が気の強さを表すようだ。

濃い茶色の瞳が好奇心旺盛に瞬いていた。


鼻は小さめで薄めの唇は整っている。

こざっぱりした印象から中性的に映るが、奇麗な顔立ちをしている。


やや小柄だが、スタイルもよい。

今日は町娘のような薄い黄色のシンプルなブラウスに、デニムっぽい長めのパンツスタイルだ。

肩から容量の多めなマジックバックを吊るしている。

年齢は24歳。

グースワースの姉御的存在になりつつある元気の良い女性だ。


ナグラシア王国の森で負傷していた時にムクとウルリラに拾われてグースワースに来た4人のうちの一人だ。


彼女は今回ムクから直接この任務を言い渡され、とても浮かれていた。

そういうわけで心配は少ないが、ゴドロナに白羽の矢が立ったというわけだ。


「ねえ、マーナ、このマジックバックの容量ってどのくらいだっけ」


ラズは後ろからついてくる、妹分だと自分で決めている同じパーティーだったマラライナに問いかけた。


マラライナは数の少ない猫族の女性だ。

現在18歳、年齢に見合わない幼い姿で12~13歳くらいに見える。

存在値は猫族としては高めの120。

主にパーティーでは斥候職をしていた。


事情は分からないがモンテリオン王国の貧民街で物乞いをしているときにラズに拾われた女性だ。

おそらく成長期にまともな食事ができずに幼い容姿なのだろう。

大分改善したようではあるが。


背中まで伸びる灰色の髪をポニーテールでまとめ、赤い可愛いリボンで結んでいる。

種族特性の大きな耳が歩くたびにぴょこぴょこ動いてとても可愛らしい。

細い眉毛に垂れがちな目には赤みの強い茶色の瞳が興味深そうに落ち着きなくキョロキョロ動いている。

可愛らしい小さな鼻と、にっこりとした形の艶々な唇はとても愛らしい。


残念ながら幼児体形でツルペタだ。

今日は可愛いゆったりとした白いサマーセーターにひざ下までの水色のスカートを身に纏っている。


「ラズねえ、ムク様に言われたじゃん。200㌔くらいだよ。もう、しっかりしてよね」


キョロキョロしながらもちゃんと答えるところがこの子はしっかりしているのだ。


「そうだよ。ラズはそういうところがあるからね。僕がいないといつも暴走するし」


そう苦言を零すのはエルフ族のサーズルイ。

存在値177の魔法使い見習いだ。

年齢は40歳。

見た目は12歳くらいの少年に見える。


「ああ、そうだった。はははっ、大丈夫。ちゃんとわかってるって。サーズも調子に乗るな。あんただって結構おっちょこちょいじゃない」


ラズにとってサーズルイは生意気な弟ポジだ。

可愛いがどうしても扱いが雑になる。

まあ、本人も実はそういう対応が嬉しいのだが。


ミユルの町の海沿いの大通りを歩きながら四人は目的の場所へと歩を進めていた。


「この町なら俺が来る必要もなかったようだな。早く済ませて戻るぞ」


ゴドロナがぶっきら棒に口にする。

彼は修行がしたかったがムクに言われたため断れなかったのだ


「何言ってんの?せっかくお駄賃貰ったんだから『マサオのなごみ亭』の特製パフェ食べるって決めていたじゃん」

「そうだよ。カンジーロウもいいって言ってたよ」

「えっ、僕は本を見たいんだけど」


思わずラズとマラライナがゴドロナに言い放つ。

サーズルイの希望は知らないうちに却下されたようだが。


確かにカンジーロウから、

「たまにはゆっくりしてこい」

と言われていたのだ。


この三人もそこにいたのでしっかりと聞いていた。


「……はあ、……あんな甘いもの、良く食える」

「分かった。だが任務が先だろ?市場に行くぞ」


そして速足で歩き出すゴドロナ。


「あ、もう待ってよ!ゆっくり行こうよ。たまにしか来れないんだから」

「もう十分見ただろ。行くぞ」

「えっ、本屋……」


振り向くこともせず、ゴドロナは市場の方へと角を曲がっていった。


「ぶうー、全く男はこれだから……」

「女心が分かってないよね」

「いや、ねえ聞いてる?本屋…‥」

「「却下!!」」

「えー…」


そんなことを愚痴りながらもしっかり付いて行く三人。

意外と素直だ。


仕事をこなし、宣言通りにパフェを食べ、四人はグースワースへと帰還するのだった。

こんな何もない日常が、俺たちにとって愛すべき日だとノアーナはいつも思っていた。


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