世界大戦がはじまり、ノアーナが不在がちになっていたグースワースだが、ネルを中心にその力をアナデゴーラ大陸を守るため振るっていた。
「ネル、俺たちのグースワースを守ってほしい」
願われたネルに迷いはなかった。
「ムク、ナハムザート、カナリア、カンジーロウ、ミュールス。あなたたちを各リーダーとします。総括はわたくしが。ノアーナ様の願いです。絶対に死ぬことは許しません。この大陸を守ります」
「「「「「はっ」」」」」
「レーランさん。わたくしたちを助けてはいただけませんか」
「ネル……当たり前ですわ。ロロンとコロンも最善を尽くさせます」
「ありがとうございます。……リア」
「う、うん」
「ルミナラス様を呼んでくれる?」
「えっ、ルミねえ?」
「ええ、あの方の古代魔法が必要になるでしょう?私も習得します」
ネルの真剣なまなざしに武者震いをするリナーリア。
もうふざける段階ではないことを彼女も理解していた。
「分かった。呼んでくるね」
「お願いね」
これで準備は整った。
絶対にこの大陸を守る。
「ナハムザート。荒野までの安全確保とクリートホープを警戒」
「はっ」
「ムク、あなたは内部からミユルとガイワットを。ミュールスも同行してください」
「はっ」
「分かりました」
ネルはため息をつく。
そして再度目に力を宿した。
「カナリア、メイド部隊と連携し、回復特化へと移行してください。在庫など関係なく全部使うつもりで使用を許可します。救える命は必ず救ってください」
「分かったわ」
「カンジーロウ、レーランさん」
「はっ」
「ええ」
「拠点であるグースワースを守ってください。わたくしも同行します」
こうしてグースワースの奮闘が始まった。
結果的にここが希望になった。
アナデゴーラ大陸の被害はほとんど出すことなく、大戦は収束に向かったのであった。
もちろんグースワースに被害はない。
ネルはやり遂げた。
はずだった。
※※※※※
(新星歴4821年11月12日)
ノアーナが神たちの力を集結しラーナルナに挑むその日。
悪夢がガイワットを襲う。
目覚めた悪意の塊、もう一人のノアーナが降り立ってしまった。
地獄がその蓋を開ける。
※※※※※
「なあ、ナハムザートさん、嫌な予感しませんか?くうっ、うろこがピリピリする」
「ああ、まずいな。こんな感じ初めてだ。くそっ、嫌な予感しかしねえ」
ナハムザートとイペリアルはガイワット港の近くを巡回していた。
どんよりとした雲が嫌な予感に拍車をかける。
その時遠くの方からざわめきが起こった。
同時にとんでもない魔力が吹き上がる。
良く知っている。
間違えるわけはない。
だが……
それは悪意に包まれていた。
「う、うあ……だ、ダメだ……こいつは……」
力を増した故にナハムザートは正確にその力を捉えてしまっていた。
存在値の底が見えない。
最低でも500000。
この世界で敵うものが居ない力だ。
そして始まる爆発的悪意の奔流。
刹那音が消え黒い閃光に世界が染まる………
「っ!?」
目の前で起きたことが理解できない。
にぎやかだった雑多な街並みが……
一面の荒野と化していた。
全力で魔力を放出し防御に徹したはずだった。
しかし……
立っているのは全身ズタボロにされたナハムザートだけだった。
「魔王に近しもの」
その称号に守られていた。
しかし隣にいたはずのイペリアルも……
そして町の人たちも……
一瞬でそのすべてを奪われていた。
「はははっ、はーはっはっははははは、あああ、もろいな、これじゃ詰まらねえ……ああん?なんだよ、あっちが当たりか。ハハッ、どーれ、行ってみるか」
そしてそれを為したであろう者は何かをつぶやき転移していった。
ナハムザートの心が音を立てて崩れ落ちた。
※※※※※
「っ!?」
愛おしいノアーナの魔力に似たナニカが降り立った瞬間、ネルの心に絶望が舞い降りていた。
「う…うあ……無理……あああ……」
「っ!?そ、そんな……」
レーランも、
ロロンも、
コロンも、
ミュールスも、
カンジーロウも、
ムクも。
存在値1000を超えた者だけが感知してしまった。
希望を持つ心をへし折られた瞬間だった。
そして世界では、体が徐々に鉱石化し、やがて死に至り、漆黒の鉱石になる謎の病気が蔓延し始めていた。