都会では“イロモノ霊媒師”としてバズっていた
だが最近は動画の再生数も激減し、「そろそろ真面目に就職しろ」という祖母の霊の助言(※生前から鬼ババだった)により、霊野は田舎の「ヨモツ村」の心霊調査へと向かうことに。
山奥、圏外、民家の柱にお札、おやつは持ったか?
着いた先は、やたら笑顔がぎこちない村人たちが住む、どこか異様な空気の漂う因習村。
「“あの祠”にだけは、近づかないように……」
村長のその一言で、逆に火がつくのが霊野クオリティ。
霊センサーの代わりに、「カップ数探知(完全無駄能力)」をフル稼働させながら山道を進む霊野。
そして――
その祠は、壊れた。
というか、霊野が、壊した。
「ヤバいッ! 封印の札が! 封印の石が! 俺の信頼が!!」
村に広がる、異様な笑顔。
夜になると響く「ニコニコせぇや……」という謎の低音ボイス。
勝手に動き出す石像。
村の中で突然踊りだす老人会。
ポロリと出た「私たちは笑っていないといけないの……」という老婆のつぶやき。
すべての元凶は――封印祠の破壊。
霊野は悟る。
「これはホラーだ! しかも土着系! でも、ちょっとエロもある!!」
すべての始まりは、一つの祠を壊したことから――。
「あー、電波ねぇー。あ、でも女将さんのカップ数はCだ」
携帯を掲げる霊野月陵(れいの・げつりょう)が、どこからともなく聞こえる霊の声にドヤ顔を向けた。ちなみに、女将の霊ではない。近くを浮遊していた謎の浮遊霊が教えてくれたのだ。
「やっぱ俺の霊能力、ズレてんなぁ……。成仏目的が見えてこねぇ」
その能力――**「霊に質問できる(ただしほぼ胸のサイズにしか答えてくれない)」**という呪われたスキルを活かし、都会では動画配信をしていたが、最近は低評価と苦情が止まらない。
そこで祖母(故人)からの助言で訪れたのが、ヨモツ村。
「人が笑わない村なのよ……でも最近は、みんなずっと笑ってるのよ……ふふ……ふふふふ……」
出迎えた老婆の笑顔が、パッキパキに引きつっていた。目が笑っていない。歯が、妙に多い気がする。
「霊が…いるってことか。よっしゃ、イケる!」
だが霊野は楽観的だった。というかホラー耐性ゼロのくせに、霊能力だけはあるという困った体質である。
――祠、発見。
「これが……村の封印祠か……“近づくな”って言われると、近づきたくなるのが霊媒師(エンタメ系)ってもんだろ」
祠は、苔むした木造の小さな建物で、明らかに何かを封じている気配がある。貼られた札には、「笑え 笑え 笑え 笑え」とだけ書かれていた。
「怖すぎだろこれ! センスあるな!」
笑っている場合ではない。が、霊野はノリで札をベリッと剥がした。
「おぉぉぉぉぉい!? 今、風向き変わったって!?」
直後、吹いた風が祠の屋根をズラし、カランと中から出てきたのは――ニコニコ顔の木彫りの面だった。
「ヤバいやつやないかこれぇ!」
その瞬間、村全体に奇妙な“笑い”が広がり始める。
村、異変の兆し。
夜。
村の人々が、一斉にニコニコしながら踊り始める。音楽は鳴っていない。だが、耳の奥に“笑い声”が響く。
「……やばい。これ、俺のせいじゃね?」
霊野の顔から笑顔が消えた。
だが、霊たちの声は軽い。
『やっちまったな』『これは詫びろ』『面白いから続けろ』
「……反省しろよ!! 供養されてこいよお前ら!」
そこへ現れたのは、村の少女・ツグミ。無表情で、首には古い数珠。手には、木彫りの面を包んだ布。
「……あなた、壊しましたね。あの祠を」
「いや、正確には風が……!」
「……もうすぐ、“笑い神さま”が、お戻りになりますよ」