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第2話 「笑え、祟れ、カップ数!」

「……この笑い、やばいです。祖父が言ってました。“あれが戻ってきたら、村は笑いながら死ぬ”って」


そう言い放った少女・ツグミは、布に包まれた“面”をしっかりと抱いていた。


「いや、それ、もう戻ってきてない!? 村人ほぼ全員、深夜に“よさこい”踊ってたんですけど!?」


霊野の声は悲鳴混じりだ。ちなみに、よさこいではない。“笑い踊り”と呼ばれる、村に伝わる儀式。膝が異様に曲がる。腰がゴリゴリに動く。


「霊の皆さん! 今こそ俺の力を貸してください!」


『おっけー。じゃあまず、女将のカップ数から』


「ちげぇよ!!!」


役に立たない浮遊霊たちに囲まれながら、霊野は唯一のまともな手がかり・ツグミに尋ねる。


「この“笑い神”って、何なんだ? 村に恨みでも?」


「……“愛されたい”って言ってました」


「なんでお前、その神と会話してんの?」


「昔、祠をのぞいたとき……“声”が聞こえたんです。笑う人間が好き。でも、誰も本気で笑わない。だから――笑わせてやる。永久に、って」


「呪いに方向性あるのやめてくれ! エンタメじゃねぇか!」




怒りの笑い神、村を包囲


夜。村のあちこちから、笑い声が重なって響く。


「ヒヒヒヒヒ……」「アハハハハハ……」「イイイイイイ……」


「いや、最後のやつはもう笑ってない!!」


霊野の突っ込みも虚しく、空には奇妙な赤い月が浮かぶ。そして――村の中央に、現れる。


身長3メートル、顔が3つ(全部笑顔)、胴体はよさこい衣装、下半身はタコ。


笑い神、降臨。


「アッハッハッハッハ……楽しいねェ……もっと、もっと笑ってェ……」


「やべぇやつだこれぇぇぇええええ!」


霊野は逃げ出した。逃げながら霊に叫ぶ。


「誰か成仏してくれたらこの状況マシになるとかない!?」


『無理。俺らも逃げてる』


「なんのために浮いてんだよ!!」




作戦(というか思いつき)


「もう……この面を、元に戻すしかないかも」


ツグミが抱えていた木彫りの面が、ボソリとつぶやく。


『ゲツリョウ……お前は、モテたいのか?』


「い、いましゃべった!?」


『わたしの力、使えば……お前、爆モテだぞ?』


「……悪霊界隈で“爆モテ”とか言うな!」


だがその誘惑は魅力的だった。霊野は一度だけ、本気で考える。


「俺が……この神と融合して、無限に笑わせて、女の子たちに“楽しそうな人”って思われて……告白されて……」


(……結局、お断りされるんだけどね。原因は霊能力)


という予知めいた霊のつぶやきで、計画は終了。


「やめときます!」




村の命運


「とりあえず、面を元に戻せばいいんだな! よしッ!」


「祠は……すでに壊れてます……」


「詰んでる!!」


だがそのとき、ツグミの胸元にあった数珠が光り出す。


「これ……笑い神の分霊を封じた数珠……祖父の形見です。これを――面に!」


ツグミが面に数珠を巻きつけると、笑い神の動きが止まる。


「え? ちょ、封印されるの? まだオチ言ってないんだけど!?」


「この村に……笑いなんて、いらないんです……!」


ズン……と、地響きとともに、笑い神は祠の跡地に沈み、再び札が空中から降ってきて封を閉じた。




翌朝


「……帰るわ。俺、都会で売れるタイプじゃないけど、たぶんここでも無理だわ」


「ありがとうございました。あと……」


ツグミはふと、霊野に近づく。


「……私のカップ数、聞いてみます?」


「遠慮しときますッッッ!!!」

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