「……この笑い、やばいです。祖父が言ってました。“あれが戻ってきたら、村は笑いながら死ぬ”って」
そう言い放った少女・ツグミは、布に包まれた“面”をしっかりと抱いていた。
「いや、それ、もう戻ってきてない!? 村人ほぼ全員、深夜に“よさこい”踊ってたんですけど!?」
霊野の声は悲鳴混じりだ。ちなみに、よさこいではない。“笑い踊り”と呼ばれる、村に伝わる儀式。膝が異様に曲がる。腰がゴリゴリに動く。
「霊の皆さん! 今こそ俺の力を貸してください!」
『おっけー。じゃあまず、女将のカップ数から』
「ちげぇよ!!!」
役に立たない浮遊霊たちに囲まれながら、霊野は唯一のまともな手がかり・ツグミに尋ねる。
「この“笑い神”って、何なんだ? 村に恨みでも?」
「……“愛されたい”って言ってました」
「なんでお前、その神と会話してんの?」
「昔、祠をのぞいたとき……“声”が聞こえたんです。笑う人間が好き。でも、誰も本気で笑わない。だから――笑わせてやる。永久に、って」
「呪いに方向性あるのやめてくれ! エンタメじゃねぇか!」
怒りの笑い神、村を包囲
夜。村のあちこちから、笑い声が重なって響く。
「ヒヒヒヒヒ……」「アハハハハハ……」「イイイイイイ……」
「いや、最後のやつはもう笑ってない!!」
霊野の突っ込みも虚しく、空には奇妙な赤い月が浮かぶ。そして――村の中央に、現れる。
身長3メートル、顔が3つ(全部笑顔)、胴体はよさこい衣装、下半身はタコ。
笑い神、降臨。
「アッハッハッハッハ……楽しいねェ……もっと、もっと笑ってェ……」
「やべぇやつだこれぇぇぇええええ!」
霊野は逃げ出した。逃げながら霊に叫ぶ。
「誰か成仏してくれたらこの状況マシになるとかない!?」
『無理。俺らも逃げてる』
「なんのために浮いてんだよ!!」
作戦(というか思いつき)
「もう……この面を、元に戻すしかないかも」
ツグミが抱えていた木彫りの面が、ボソリとつぶやく。
『ゲツリョウ……お前は、モテたいのか?』
「い、いましゃべった!?」
『わたしの力、使えば……お前、爆モテだぞ?』
「……悪霊界隈で“爆モテ”とか言うな!」
だがその誘惑は魅力的だった。霊野は一度だけ、本気で考える。
「俺が……この神と融合して、無限に笑わせて、女の子たちに“楽しそうな人”って思われて……告白されて……」
(……結局、お断りされるんだけどね。原因は霊能力)
という予知めいた霊のつぶやきで、計画は終了。
「やめときます!」
村の命運
「とりあえず、面を元に戻せばいいんだな! よしッ!」
「祠は……すでに壊れてます……」
「詰んでる!!」
だがそのとき、ツグミの胸元にあった数珠が光り出す。
「これ……笑い神の分霊を封じた数珠……祖父の形見です。これを――面に!」
ツグミが面に数珠を巻きつけると、笑い神の動きが止まる。
「え? ちょ、封印されるの? まだオチ言ってないんだけど!?」
「この村に……笑いなんて、いらないんです……!」
ズン……と、地響きとともに、笑い神は祠の跡地に沈み、再び札が空中から降ってきて封を閉じた。
翌朝
「……帰るわ。俺、都会で売れるタイプじゃないけど、たぶんここでも無理だわ」
「ありがとうございました。あと……」
ツグミはふと、霊野に近づく。
「……私のカップ数、聞いてみます?」
「遠慮しときますッッッ!!!」