朝。霊野月陵は村の公民館で、村の偉い人に説教を受けていた。
「で、なんでお前さんが祠を壊したことになっとるんじゃ」
「知らん!俺はたまたま面を見てただけで!」
「じゃあ霊に聞いてみよかの。お前、そういうこと得意じゃろ?」
「え?霊視していいんですか?」
「村に損害与えたんじゃ、働け」
「ブラック霊媒師か俺は」
ということで、月陵はまたも使えない霊たちに囲まれながら、村の“本当のヤバさ”に気づいていく。
「この村長、呪われてますよ。しかも、めちゃくちゃ“軽く”呪われてる」
「軽い呪いって何?」
「本人が気づかない程度に“めちゃくちゃモテない”とか、地味におにぎりが毎回梅とか、そういうレベル」
「最後のただの運やん」
ところが、霊のひとりがこうつぶやいた。
『いや……あれは、“誰かが意図的にかけた”呪いじゃない。村全体に、にじみ出てる呪気のカケラだ』
「えっ、村自体が呪ってるの?」
「そう。例えるなら、村が“人間不信系女子高生”みたいなメンタル」
「めんどくさっ!!」
村長の秘密
その日の夜。月陵はまた、奇妙な現象を目撃する。
村長の家の前で、地面が一部ボフッと膨らんだ。
「……地面、息してる?」
掘ってみると、中から出てきたのは――古びた日記帳。
中にはこう書かれていた。
《昭和五十年――祠を壊せば、村は笑う。呪いは消える。と、言われていた》
《だが、あれは嘘だった。祠は封印だった。笑い神は、作られた“神”だった》
《人の感情を切り取って、笑わせて、封じて、それが何百年も……》
「おいおい、怖いっていうか、村が人間の感情を税金みたいに徴収してた感じだぞ!?」
新たな異変
翌朝。ツグミが村の広場で絶叫する。
「月陵くん!大変です!村長が……!」
「死んだ!? 呪い!? 梅干しにあたった!?」
「アイドルになってました!」
「何ィィィィィ!?」
そこには、無駄にきらきらした衣装を着て「みんな、応援ありがとぉ〜」とカメラに手を振る、元・村長の姿が。
「なぜだよ!」
「どうやら、“人に笑われたい”っていう笑い神の感情が、まだ残ってて……それが“推されたい”に進化してるみたいです」
「呪いが現代的進化遂げてる!?」
対策会議(主に雑談)
月陵「もうこの村やばすぎる。俺、霊媒師として霊と話す以外に、できることないんですけど」
霊『じゃあ、あの村長の中に残ってる“笑い神のカケラ”を引っ張り出せばいいんじゃ?』
「できるの?」
霊『うーん……たぶん、やさしく抱きしめて“もう笑わなくていいよ”って言えばワンチャン』
「少女漫画的解決法!?」
ツグミ「月陵くん、それできます?」
「……できるわけないじゃん! なんで俺、村長ハグらなきゃいけないの!?」
ツグミ「じゃあ私がやりますね!」
「やらせるかあああああ!!」
村長、目を覚ます?
翌日。霊野とツグミは、村長アイドルの握手会に潜入。
CDのジャケットには《第1村シングル「笑え!祟れ!村Love Days☆」》と書かれていた。
「何このセンスのない神曲!?」
握手中、ツグミが村長にそっと語りかける。
「あなたはもう、笑われなくてもいいんです。祠も、もう壊れた。だから……帰ってください」
その瞬間――
村長の身体が、一瞬、透けた。
そして、背後に浮かんだ影が「ニコォォォォ……」と微笑み、風に溶けて消えた。
「……成仏した?」
「たぶん、“推し卒業”しただけだと思います」