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第8話 「深夜の神隠し温泉と、全裸の地縛霊が語る過去」(※健全です)

──夜の村外れ、誰も寄りつかぬ禁忌の地「神喰かんくい温泉」。


“夜に入ると帰ってこられない”


そんな噂が、子どもたちの肝試しにも選ばれないほどのヤバさを物語っている。

……が。


「…………だから違うって、これはマジで村長のせいだからな?」


そこにいたのは、霊野月陵れいのつきりょう――全裸。


肩まで湯に浸かりながら、どこにも届かない言い訳を繰り返していた。


──数時間前。


「そろそろ封印祠の秘密に近づく時じゃ。神喰温泉に入れば、過去が“視える”らしいぞ」


そう言い放った村長は、なぜか温泉脇でぬくぬくと足湯中。


「なんで俺だけ全身浸かって、村長はぬるいとこだけ使ってんの!? バランス悪すぎない!?」


そんな感じで始まった、裸一貫・精神修行(仮)。


月陵は霊の気配を感じながら、霊の気配が濃すぎるこの湯に浮かんでいた。


「……やばい、なんか視線感じる。絶対幽霊に覗かれてるこれ。誰にも信じてもらえないやつだ……」


その瞬間。


バシャァ!


湯けむりの奥から、ぬるりと現れるシルエット。

全裸の男だった。


「……よく来たな。霊野月陵」


「誰だよ!? タオルくらい巻けや! あっ、俺もか!? ……いやそこじゃない!」


現れたのは、100年前にこの地で消息を絶った若き学者――地縛霊・神倉ヨイチ。


曰く、この温泉には封印された“感情の呪い”が眠っているという。


「封印祠は、神を閉じ込めるためじゃない。“村人の罪”を封じるためのものだったんだ」


「罪……って?」


ヨイチは静かに語る。かつてこの村には、人の**“感情”を喰らう病**が存在した。


共感喰い《シンクグイ》。


他人の喜怒哀楽を吸い取って満たされる者たち。

人の想いが、飢えを満たす“餌”に変わっていった。


「その化け物と化した村人から、“人でいよう”とした者たちが最後に封印を作った。……だが、その封印を壊したのは──お前だ」


「……え、やっぱ俺!? この前、うっかり祠を蹴っ飛ばした件の!?」


「それな。すごくそれな」


だが、ヨイチは続ける。


「でも、それでよかったのかもしれない。あの封印が揺らいで、村は少しずつ“感情”を取り戻してきた。笑ったり、泣いたり……バカみたいに恋したりな」


「いや、“バカみたいに”は余計でしょ!?」


湯けむりが晴れる。


そこに立っていたのは──巫女たちの霊。祠を守り続けた者たちの、残滓。


「我らは祠に縛られし者……だが、お前の“バカみたいな行動”で、封印は緩んだ」


「うん? いや、だから褒めてるの!? 怒ってるの!? どっち!?」


──そして、湯けむりの奥から現れる、巨大な影。


それは、黒く歪んだ“神のようなもの”。


「……感情など、制御できぬ。ならば、すべて喰らい尽くせばよい」


「来たーーー! 絶対ラスボス! もう顔面が“終盤”だもん!」


ヨイチが言う。


「奴こそ“共感喰い”の原型。次元の狭間に封じていたが、祠の破壊によって目覚めたのだ」


「だからって、なんで毎回俺が発端!? 今までのイベント、8割俺きっかけじゃん!?」


──だがもう、戦いは避けられない。


封印は破られ、“感情”は暴走を始めている。


果たして月陵は、己の全裸と、そして輝くえくぼだけで、この災厄に立ち向かえるのか!?

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