──夜の村外れ、誰も寄りつかぬ禁忌の地「
“夜に入ると帰ってこられない”
そんな噂が、子どもたちの肝試しにも選ばれないほどのヤバさを物語っている。
……が。
「…………だから違うって、これはマジで村長のせいだからな?」
そこにいたのは、
肩まで湯に浸かりながら、どこにも届かない言い訳を繰り返していた。
──数時間前。
「そろそろ封印祠の秘密に近づく時じゃ。神喰温泉に入れば、過去が“視える”らしいぞ」
そう言い放った村長は、なぜか温泉脇でぬくぬくと足湯中。
「なんで俺だけ全身浸かって、村長はぬるいとこだけ使ってんの!? バランス悪すぎない!?」
そんな感じで始まった、裸一貫・精神修行(仮)。
月陵は霊の気配を感じながら、霊の気配が濃すぎるこの湯に浮かんでいた。
「……やばい、なんか視線感じる。絶対幽霊に覗かれてるこれ。誰にも信じてもらえないやつだ……」
その瞬間。
バシャァ!
湯けむりの奥から、ぬるりと現れるシルエット。
全裸の男だった。
「……よく来たな。霊野月陵」
「誰だよ!? タオルくらい巻けや! あっ、俺もか!? ……いやそこじゃない!」
現れたのは、100年前にこの地で消息を絶った若き学者――地縛霊・神倉ヨイチ。
曰く、この温泉には封印された“感情の呪い”が眠っているという。
「封印祠は、神を閉じ込めるためじゃない。“村人の罪”を封じるためのものだったんだ」
「罪……って?」
ヨイチは静かに語る。かつてこの村には、人の**“感情”を喰らう病**が存在した。
共感喰い《シンクグイ》。
他人の喜怒哀楽を吸い取って満たされる者たち。
人の想いが、飢えを満たす“餌”に変わっていった。
「その化け物と化した村人から、“人でいよう”とした者たちが最後に封印を作った。……だが、その封印を壊したのは──お前だ」
「……え、やっぱ俺!? この前、うっかり祠を蹴っ飛ばした件の!?」
「それな。すごくそれな」
だが、ヨイチは続ける。
「でも、それでよかったのかもしれない。あの封印が揺らいで、村は少しずつ“感情”を取り戻してきた。笑ったり、泣いたり……バカみたいに恋したりな」
「いや、“バカみたいに”は余計でしょ!?」
湯けむりが晴れる。
そこに立っていたのは──巫女たちの霊。祠を守り続けた者たちの、残滓。
「我らは祠に縛られし者……だが、お前の“バカみたいな行動”で、封印は緩んだ」
「うん? いや、だから褒めてるの!? 怒ってるの!? どっち!?」
──そして、湯けむりの奥から現れる、巨大な影。
それは、黒く歪んだ“神のようなもの”。
「……感情など、制御できぬ。ならば、すべて喰らい尽くせばよい」
「来たーーー! 絶対ラスボス! もう顔面が“終盤”だもん!」
ヨイチが言う。
「奴こそ“共感喰い”の原型。次元の狭間に封じていたが、祠の破壊によって目覚めたのだ」
「だからって、なんで毎回俺が発端!? 今までのイベント、8割俺きっかけじゃん!?」
──だがもう、戦いは避けられない。
封印は破られ、“感情”は暴走を始めている。
果たして月陵は、己の全裸と、そして輝くえくぼだけで、この災厄に立ち向かえるのか!?