──霊野月陵、全力疾走。
全裸の地縛霊・神倉ヨイチと別れ、びしょ濡れのまま村に戻ってきた月陵を迎えたのは、想像を超えた“異常”だった。
「……なにこれ。情緒、バグってる……!」
笑いながら怒鳴り合う村人たち。
号泣しながらアイスを手渡す子ども。
そして「結婚してくれええぇ!! ……やっぱムリィィ!!」と絶叫し続ける中年男性。
封印祠が壊れた影響で、“共感喰い”の封印は完全に解除されていた。
人々の感情は混線し、喜怒哀楽がめちゃくちゃに。まさに、感情のカオス。
「くそ……やっぱ俺のせいだよなコレ……!」
頭を抱える月陵の前に、ふたたび現れる村長。手には謎の看板。
「間に合ったわ! “緊急感情封印フェス2025”!」
「名前もうちょい考えよう!?」
──しかし、祭りは本気だった。
・巫女霊たちとの心霊合同ライブ
・“感情供養”盆踊り
・「えくぼで笑顔を取り戻せ」月陵握手会
・笑顔で送る“特大お焚き上げ封印式”
「この村……まさか、祭りで感情を封印しようとしてる……!?」
村長は静かにうなずく。
「怒りも悲しみも、ちゃんと“人の手”で送らなきゃならんのよ。それが、“元・人間”への礼儀じゃからの」
「(いやほんと、色んな意味でヤバい村だな……)」
──やがて夜。
村の夜空に、巨大な“それ”が現れる。
“神のようなもの”。
歪んだ感情の残滓。
共感喰いの本体。
「この村はまた、他人の感情を餌にする……人間とは、そういう生き物だ」
その冷たい声に、月陵は拳を握りしめ、叫んだ。
「俺は! 他人の感情を“知る”ために霊と話してるんだよ! 喰うんじゃねぇ、“寄り添う”んだよ!!」
──その瞬間。
月陵のえくぼが、光った。マジで。
「……なんと。えくぼが、感情の調和点に……!」
「いや無理あるでしょ!? 俺のえくぼで世界救うの!?」
でも、光るえくぼが放ったあたたかい波動は、神のようなものに“記憶”を呼び戻させる。
「……わたしも、かつては“人”だった。感情が怖くて……壊れた人間だった……」
一筋の涙を流しながら、神は静かに空へと還っていった。
──感情の祭りは、静かに幕を下ろす。
「……なんか、感動でオチつけるのズルくない!?」
「たまにはホラーにも救いがなきゃのう」
「……まあ、そっか」
しかし。
そのとき、月陵の背後から──声が聞こえた。
「あなたが……月陵くん? ごめん、ちょっと聞きたいことがあって……わたし、今……死んでるのかな?」
「え!? えっ!? 新霊!? ていうか次回!?」
背中に走る、冷たい悪寒。
──次回、最終話
月陵の旅路が、いま終わりを迎える――!