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第10話 「封印祠の真実と、えくぼの在り処」

──静かな夜だった。

霊野月陵の前に、ふわりと現れたのは、白いワンピースの少女。


「あの……私……死んでるのかな?」


霊センサー、通称“月陵の耳毛”がびしびし反応する。ビンゴだ。こいつ、完全に幽霊。


「とりあえず落ち着こっか。名前、聞いてもいい?」


「小夜(さよ)……神倉小夜って言います」


その名前に、月陵は思わず息をのんだ。


神倉──あの祠に祀られていた、“共感喰い”の一族。


「おじいちゃんが言ってた。“私を二度と出すな”って。“封印しろ、祠の奥にある感情ごと”って──」


そう、小夜は“共感喰い”の核だった。


生前、彼女は「共感しすぎる力」を持っていた。

他人の怒りも、悲しみも、ぜんぶ“自分の感情”のように流れ込んでくる。

そして、耐えきれずに──感情ごと封印された。


「……そんなの、ただの“心を殺す”ってことじゃん」


月陵の声が、夜に刺さる。


「でも、私はそれで良かったと思ってた。だって、あのときは──生きてるのが辛かったから」


──けれど。


村人たちが、笑って泣いて踊っていた“フェス”の光景を見て、小夜は戸惑っていた。


「……感情って、全部迷惑だと思ってた。でも……あれ、楽しそうだった。私も、笑いたかったな……」


その瞬間だった。


月陵のえくぼが勝手に光りだした。

突っ込みたいけど、もう慣れた。諦めた。


「じゃあさ、祠、壊しに行こう。封印なんて、もういらない。“神倉小夜”を、ちゃんとここに戻すんだ」


月陵は、小夜の手を取り、祠の奥へと進んでいく。


そこにあったのは、黒く変色した鏡。

そして、古びた文字が刻まれていた。


感情は災い。

笑うな、泣くな、共感するな。

村に争いを呼ぶな。

神倉小夜を、二度と解き放つな。

「……ははっ。じゃあ、書き換えるか」


月陵は、フェスの屋台で手に入れた景品──マジックペンを取り出し、鏡の下にこう書き足した。


“えくぼは世界を救う”

光が弾ける。

封印が砕け、小夜の身体がだんだんと透けていく。


「ありがとう、月陵くん。私、やっと“感情”って、愛おしいものだって思えた……」


「なあ小夜、もしまた生まれ変わったら、俺と──」


「じゃあね!」


「え!? ちょ、最後にサイズだけ──」


「そういうとこが、ダメなんだよっ!」


\ズコー/


──翌朝。


村はいつも通りの、のどかな風景を取り戻していた。

村人の感情も正常に戻り、もう誰もアイスを泣きながら配っていない。


月陵は今日も、道端の霊に話しかけながら歩いていた。


「お前ほんと、懲りないな……」


「いやいや、俺、モテてる気がすんのよ。心の中で!」


「えくぼは光っても、脳内妄想は止まらんのだな」


「はっはっはっ」


──こうして、霊野月陵の“モテたいだけの霊能ライフ”は、今日も続いていく。


たぶん、ホラーもある。

でもきっと、笑える。




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