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梓、野球辞めたってよ。

入学式を終えると梓は直ぐ様に綾瀬に呼び出され、扉を蹴り倒した件で職員室に連れられてこっ酷く叱られてる間、私は職員室前の廊下にて1人、梓が出て来るのを待っていた。


涼子「………長いなあ。」


梓の態度が悪くて説教が長引いてるのだろうかと私はそう思ってると、職員室の引き戸が開き、綾瀬が出て来る。


綾瀬「……もう二度と蹴りで扉を壊すなよ。」


梓「………はい、失礼しました。」


ペコリと綾瀬に挨拶してから職員室を出る梓は、私に気付いたのか声を掛ける。


梓「私を待ってたのか?」


涼子「まあね、入学初日であんな派手な事をしてから、職員室に連行されては放っておけないからな。」


梓「………そ、そうか、そういやぁ、まだ改めて言ってなかったよな。………久し振り、涼子。後、日本代表選出おめでとさん。」


涼子「おう、ありがとさん、にしても驚いたな、まさか梓が名門を蹴って地元の頼館に入学して来る何て。」


梓「………。」


涼子「………帰りながら、話そうか。」


私と梓と一緒に其々の家路へ向かって歩き帰りながら、私は、梓がどうして自分が頼館に通ってる理由を聞き出した。


涼子「確か、東京の名門校にスカウトされてそのまま野球留学生として東京に経って筈だよな?」


すると梓は複雑そうな顔をしながら私に少し躊躇してから話し始めた。


梓「実は…あの時は色々あってさ。東京に行くはずだったんだけど、事情が変わっちゃって。それで結局、ここで高校生活を送ることになったんだ。」


彼女の声には懐かしさと残念さが混ざっていた。


涼子「まさか、喧嘩沙汰起こして野球辞めたってのは、本当だったの!?」


そう、梓は高校入学間近に何処かの不良共と喧嘩沙汰起こして、名門からのスカウトが無くなったと言うのは事実だったみたいだな。


自分の眼を伏せて暫く沈黙した後、ようやく口を開いた。


梓「…ああ、そうだよ。ちょっとやらかしたんだ。」


昔の親友との再会に梓の心も揺れていた。此奴が平然と暴力沙汰を起こす奴とは私は思えないからだ。


涼子「でも、お前が普通に暴力起こす奴じゃない事を私は知ってる。事情があったんだろ。」


彼女の言葉に頷きながら静かに言った。


梓「まあな、ちょっと…色々あったんだ。」


その言葉を最後に少し間を置いてから続けた。


梓「でも、こうしてお前にまた会えて嬉しいよ。」


涼子「ああ、また梓に会えて嬉しいよ私も、これなら、目標に近付けられる!」


彼女の言葉に首を傾げながら尋ねた。


梓「目標?なんだよ、言ってみろよ。」


涼子「決まってるだろ、女子野球部の設立だよ!私と梓の2人でな。」


梓「私と、涼子でだと?」


涼子「そうだ。なぁ、梓、本当に野球辞めるのか?私からしたら流石に勿体無いと思う。」


梓は暫く考え込んでから答えた。


梓「いや、まだ完全に野球を諦めたわけじゃない。ただ…今は何も考えたくないだけさ。」


涼子「なら、どうしたいのさ?」


眼を逸らしながら、暫く考えてから答えた。


梓「…分からねぇよ。正直、今何をすればいいのか、どうしたいのかもよく分からないんだ。」


涼子「……かつて『鬼姫』と呼ばれた剛腕スラッガーの名前が泣かれてもか?私はな、数多くの投手共を一撃で葬ったお前のホームランをまた見たいんだ。」


彼女の言葉に一瞬躊躇してから、ゆっくりと言葉を継いだ。


梓「私も…あの頃の感覚をもう一度味わいたいよ。」


涼子「なら…。」


足を止め、私の言葉を遮って断固とした声で言った。


梓「でも、私はもう野球をするつもりはない。」


涼子「そうか…。」


別れ道、其々の家がある道路が見えて来て、別れようとした途端、私は梓に言った。


涼子「もし、もし、お前の気が変わったら、何時でも私の前で待ってるから。」


私が去っていく姿を見つめながら、胸の中で複雑な感情が絡み合うのを感じた。

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