「いらっしゃいませ、冒険者様。どのようなクエストをお探しですか?」
「えっと……初心者向けのをひとつ」
「かしこまりました」
話の合間の15度。
「種類はどのようなものをご希望でしょう?」
「種類……」
「討伐、探索、調査、護衛、随行、運搬、作業、外交……何をなさりたいか、ということです」
「そうですね、うーん。種類は何でもいいんですが、怪我をしたり、死んだりする危険がないものがいいです」
「承知いたしました。ただひとつ、注意点がございます。初心者向けのクエストで命を落とす危険はまずありませんが、怪我については冒険者様のご判断や行動に左右される部分がありますので、どうぞお気をつけくださいませ」
なんだこの腑抜けた冒険者は。
きみは、こんなのにまでクエストを振ってやるのか。
「ええっと……じゃあ、弱めのモンスターの討伐とか、やってみたいです」
「討伐ですね。こちらのクエスト『屋根裏のミニミニマウス退治』などはいかがでしょう」
「屋根裏かぁ……服汚れますかね?」
「汚れてもいいお召し物で行かれてください」
「でもこれ、買ったばかりの冒険者服なので着たくて。マントも。あ、剣は中古なんですけど」
よせよせ、どうせ碌な冒険者になれやしない。
屋根裏のネズミ退治なんか、クエストじゃなくても、そのへんの子どもがやってる。
クエストとして依頼するのは大抵、歳食って屋根裏に上がれなくなった爺さん婆さんだ。報酬だって子どもの小遣い程度。下手すると、クエスト後に爺さん婆さんと茶を飲んでる時間の方が長い。
「それではこちらのクエスト『新種粘菌の滅却』はいかがでしょうか。手元のごく狭い範囲での滅却作業ですので服はほとんど汚れません。地味ですが一応、討伐クエストです。報酬も、悪くはない金額かと。ただ――」
「わ、それいいですね。滅却とかかっこいい。それにします」
「お決まりですか? では、出発前にこちらの注意事項を必ずお読みください。少し長いですが、こちらのクエストにおいて厳守すべき事項が書かれています。この事項の多さがややネックかと思ったのですが……」
「平気です、平気です。ちゃんと読みます」
「はい。ですが『厳禁』の項目については念のため私の方で読み上げを――」
「いらない、いらない、大丈夫です。ちゃんとぜんぶ読みますから。それより受注書の準備を早くお願いします。クエストって、今日達成したら今日、お金貰えますよね?」
「はい、即日即金です」
なんだ、金のためか。
若者がバイト感覚で冒険者だなんて、変な世の中になったなぁ。
「それでは、受注書の署名欄にサインをお願いいたします」
「はいはい」
「注意事項はすべて読まれましたか?」
「はいはい、もちろん」
若者はペンを置き、軽やかな足取りで受付カウンターを去っていく。
「いってらっしゃいませ、パーカー様」
最敬礼の45度。
ふん。あんなアホっぽい若者にはもったいない。