「いってらっしゃいませ、●●さん」
「いってきまぁす!」
少年と一緒に手を振って、僕は彼女に背を向ける。数歩歩いたところでちらりと振り向く。
親しみの敬礼30度。
顔を上げた彼女は僕の視線に気づき、僕から見て左に15度首をかたげた。
柔らかい眼差し。
僕はもう一度、少年にはバレないように――だって恥ずかしいから――小さく手を振った。
僕の人生初のクエスト『ハルマタまでの往復随行』。報酬は、途中の宿代と交通費込みで、50,000イェン。
行きに三日、滞在四日、帰りに三日で計十日間。滞在中の宿代と食事は少年の祖母宅で用意してもらえるのでタダだが、行き帰りの分を考えると、あまり割のいいクエストではない。
でも別にいいのだ。お金が欲しいわけじゃない。彼女が斡旋するクエストというものに興味があっただけだし、ハルマタには旅行に行くと思えばいい。
お土産は何を買って帰ろうか。
まだ出発したばかりだというのに、僕はもう帰ってきたときのことを考えていた。
彼女はどんなものが好きだろう。食べ物は甘いもの? しょっぱいもの?
服は? ほとんど受付嬢の制服姿しか見たことがない。いや、服なんてプレゼントしたら気持ち悪いな……。
じゃあ、スカーフ? ハンカチのほうがいいかな? ハルマタは絹織物の町だから、綺麗なのがいっぱい揃ってるはずだ。
「●●お兄ちゃん、なに笑ってるの?」
少年が僕を不思議そうに見上げる。
「あ、いや、えっと……楽しみだなって」
僕はニヤけてしまう頬を引き締めた。