「ありがとうございます……ありがとう、ございますっ……」
左腕の肘から先がない女が、ぺらぺらの巾着袋を胸に抱いて泣き崩れた。その巾着袋を、カウンター越しでなく、わざわざ外へ出てきて手渡した彼女は、うずくまった女の正面に膝をつき、女の両肩を優しく支えた。
僕は、その場所の床がきれいかどうかが気になった。
「リィサ様、クエストの受注者は、報酬はいらないとおっしゃいました。ですから、お預かりした300,000イェンはお返しいたします」
「えっ……?」
女は頭を上げた。涙と鼻水でぐちゃぐちゃに濡れたその顔には、信じられないといった驚愕の表情が張り付いていた。
「いらない? 1イェンも?」
「はい」
「……そんな」
「大変な思いをして集められたお金だと思います。ですがこれは、今後、あなた様ご自身のためにお使いください」
僕は、女がクエストを依頼しに来たときのことを思い出していた。
『た、足りないですよね。体売ります。何でもします。売れる臓器ぜんぶ売ります。犬とだってスライムとだって寝ます』
『リィサ様……』
『報酬額を300,000イェンに設定してください……! 受注者が帰ってくるまでに、必ず稼ぎます。お願いします、お願いします……』
彼女が、コインの入った重い巾着袋を女の手に握らせる。その金を集めるために、女はどの臓器を手放したのだろう。何度スライムと寝たのだろう。
その金がまったく不要だったと知った今、どんな気持ちでいるのだろう。
この可能性を彼女は、少しくらい考えただろうか。