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第30話 移した

 デュークワイバーンを撃破した後は、肉体の解体作業に追われた。草薙たちは肉体の破片をクランク科学研究所に運び込む作業を手伝う。特に草薙の身体強化のスキルは、肉体を乗せた台車を運ぶのに持ってこいであり、大変重宝された。


「だからって、こんな量は運べないですよ……」


 草薙の前にあるのは、デュークワイバーンの頭部そのものであった。大きすぎるため乗せられる台車もなく、素手で運んでほしいとのことだ。


「仕方ないさ。これだけの貴重なサンプルを入手できる貴重な機会だ。それをバラバラにするのは気が引けるだろう?」

「確かにそうかもしれないですが……」

「それに、これができるのはタケルだけだ。どうか頼まれてくれないか?」


 ミゲルに説得されてしまい、草薙はしぶしぶ了承した。しかし頭部だけでも高さは三メートルくらいはある。重量も一トンはあるだろう。


 草薙は一つ溜息を入れ、デュークワイバーンの下顎部分の下に入る。


「ふんぬぅぅぅ!」


 全身に力を入れ、顎関節に当たる部分を持ち上げる。ちょうど頭部の重心の真下に入り、なんとか持ち上げることに成功した。

 草薙は持ち上げた状態で、科学研究所の最寄りにある門の外まで運んでいく。ここまでの大きさだと、どの門でも通過できないからだ。


(おっっっ……も!)


 歯を食いしばらないと、重さで押しつぶされそうになる。これで身体強化を使用しているのだから、後は草薙の気力次第である。


 約一キロメートルの距離を三十分かけて移動する。最寄りの門の外まで来ると、研究員がそこに待機していた。草薙は指定された場所まで頭部を運び、そこへ静かに頭部を置いた。


「いやぁ、助かります」

「いえ……、大丈夫です……」


 もはや呼吸するのも困難なくらい、体が悲鳴を上げている。それでも何とかやり遂げたという高揚感が草薙の中にあった。


 その時、スキルのレベルが上がったような音がした。早速ステータスを開いてみる。


『身体強化レベル十

 短地レベル五

 自己防御レベル八

 放出魔法レベル二』


(なんかまたスキルが追加されてる……)


 しかし、身体強化がレベル十になったことは喜ばしい。心なしか体が軽くなった気がする。


 そんな調子で、デュークワイバーンの肉体をどんどん運んでいく。夕方までに全ての解体が終わった。


「お疲れ様。日が落ちる前に終わって良かった」


 ミゲルが草薙の元にやってくる。


「えぇ、本当ですよ。今日は戦闘よりこっちのほうが疲れましたからね……」

「確かに。今日はゆっくり休むといいよ。怪物化の調査は明日から行われるようだし」

「分かりました」


 そこにナターシャがやってくる。


「タケルー! お疲れ様ー!」

「ナターシャ、お疲れ」

「急な話になるんだけど、明日からデュークワイバーンの調査に同席してほしいの。疲れているならまた後で話を聞くことになるんだけど、大丈夫そう?」

「明日なら大丈夫だよ」

「良かった。……ミゲルさんたちも一緒に来てほしいのですが、大丈夫かしら?」

「僕たちも大丈夫だよ」

「ではそのようにお願いします。じゃ、また明日ね」


 ナターシャはそのまま外にいる研究員の元に駆けていく。草薙はその様子をジッと見つめていた。


「それじゃあ、僕たちは宿に戻ることにしよう。一緒に夕食食べるかい?」

「お供します」


 ミゲルと草薙は、そのまま宿泊している宿へと戻っていった。


 翌日。草薙たちはクランク科学研究所に来ていた。


「お待ちしてました。どうぞこちらへ」


 研究所の中に入り、今回のデュークワイバーンの解剖や検査を担当している研究員の部屋に案内される。中は紙の資料やら検査試料やらで色々と埋めつくされていた。研究員は簡易的な椅子を出し、そこに座るように促す。


「さて、今回のデュークワイバーンの件ですが、実際に現場で戦っていた皆さんから意見をいただきたいと思います。襲撃前後で何かおかしな点はありませんでしたか?」


 研究員が草薙たちに尋ねる。最初に草薙が口を開く。


「それなら、デュークワイバーンが出現する前に、この辺にはワイバーンの巣はないことを話してましたね」

「そういやそうだったな」

「ワイバーンはもっと北にある高山地帯にいると聞いたことがあるのです」


 ジークとアリシアが補足する。


「ふむ。確かにこの辺りにワイバーンの巣が確認されたことはないし、ワイバーンの目撃情報自体存在しない。何か原因があるかもしれないな……」


 研究員がメモを取りながら、原因を探ろうとする。


「その時に話したあり得る原因の一つとして、誰かをおびき出すために意図的にデュークワイバーンを連れてきたという話をしました」


 ミゲルが研究員に話す。


「なるほど。ミゲルさんのような、戦闘能力が高い人物をおびき出すためにワイバーンを誰かが差し向けた、と?」

「しかし、そのようなことが可能なのか? という疑問が残りますな」


 研究員の助手がそのように指摘する。


「もしかしたら、高山地帯のさらに奥にいるドラゴンから逃げてきた個体という可能性もあると思います」


 ミーナが推測を述べる。


「ふーむ。動物の本能のようなものであれば、可能かもしれないが……」

「しかし、デュークワイバーンは通常のワイバーンより体が大きくなっていたと思います。その分知性を備えたと見るのが妥当ではないでしょうか?」


 ミゲルが意見を出す。


「しかし、本当にそうなっていたのかは、現在の時点では分かりようもないが……」


 そういって、研究員は筆を止める。


「そもそもデュークワイバーンの発生状況も分かっていない。まずはそこから検証する必要があるな……」


 そういって研究員は立ち上がる。


「貴重な意見をありがとう。今日の話は以上だ。他に何か無ければ、デュークワイバーンの検査をしている所を見ていくかい?」

「僕は見ようかな」

「俺はパス」

「わ、私も遠慮しておくのです……」

「自分は行きます」

「じゃあ私も」


 ミゲルと草薙とミーナは、研究員の後ろからシャーレやら試験管に肉片を入れて検査している様子を見学するのだった。

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