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第29話 街を守った

 デュークワイバーンと呼ばれたそれは、ドラゴンと見間違えるような風貌をしていた。


「デュークワイバーンって何……!?」


 草薙が疑問を口にする。


「デュークワイバーンは三十年ほど前に初めて観測されたワイバーンの上位存在だ。最新の研究では、その実体は怪物化したワイバーンではないかと言われている」


 ミゲルがそのように解説する。


「そ、そんなの勝てるわけないじゃないですか!?」

「普通なら、な」


 草薙の絶叫に、ジークが答える。その横でアリシアも頷いている。


「何か策があるんですか?」


 ミーナが聞く。


「『金剛石の剣』はAAA級パーティだぜ? 当然そのリーダーは最高最大の戦力であることを忘れてないか?」


 その言葉を聞いて、草薙はミゲルの方を見る。


「そうだね。僕の攻撃力があれば何とかなるかもしれない。ただ、それには皆の力が必要になる」


 そういってミゲルは、ジーク、アリシア、草薙、ミーナを順番に見る。


「タケルとミーナさんは初めてだから説明しておこう。僕のスキルは使用時に長い溜めが必要なんだ。精神を集中させ、魔力を高め、詠唱を唱える。溜めの分隙は生まれるが、威力はかなり強い。だから詠唱の間は僕のことを守ってほしいんだ」


 理由が分かれば、やることは単純である。


「つまり、デュークワイバーンの攻撃からミゲルを守ればいいってことですね?」

「その通り。……そろそろデュークワイバーンが来る。皆、どうかよろしく頼む」

「おうよ! リーダーの頼みだからな!」

「頑張るのです!」

「当然、やれることはやります」

「私も一発だけなら……」


 草薙たちはやる気に満ちている。


(ミゲルさんのこともあるが、ここでデュークワイバーンを抑え込まないとクランクの街にも被害が及ぶ……。民間人に被害が出るのだけは避けなければ……!)


 草薙は城壁の下にある街並みをチラリと見る。デュークワイバーンの出現に伴い民間人は避難を開始しており、サイレン代わりの鐘の音やら人々の悲鳴が聞こえてくる。


 それに、少し遠い所にあるクランク科学研究所も避難を始めている頃だろう。ミゲルを守る、ナターシャも守る、この街の住民も守る。


 そういった使命感に駆られ、草薙は精神を統一する。


「それじゃあ始めるぞ」


 そういってミゲルは呪文を唱え始める。


「俺たちも全力で行くぞ!」


 ジークが声をかける。それに合わせて、草薙はルーティーンのようにある言葉を呟く。


「俺を、殺してみろ」


 デュークワイバーンは、すでに城壁まで数百メートルといった所まで来ていた。


『アガスト・ミギー!』


 幾千のダガーナイフがデュークワイバーンに降り注ぐ。体表の鱗は簡単に貫くことはできるが、致命傷には至っていない。


『デトネーション!』


 ミーナはライジンバッタの駆除で使用したデトネーションの三割程度の威力をデュークワイバーンにぶつける。体表に焦げ跡はついていないが、爆轟による衝撃で酷く痛がっているようだ。


 そして草薙だが、右半身を引いて精神を集中させている。右の拳には魔力が螺旋状に纏わりついており、薄く赤紫色に光っている。


 そして一つ息をつき、目を見開く。


「せぇいっ!」


 右の拳を勢いよく前に突き出す。その様子は、まるで空手の型の一つに見えるだろう。その右の拳から螺旋状の魔力が放出され、かなりの速度でデュークワイバーンへと飛翔する。


 そして命中した。螺旋の力によって体表の鱗を打ち破り、その肉すらも抉っていく。これによりデュークワイバーンは悲痛な鳴き声を上げるが、残念ながらそれでも致命傷を与えられるほどではない。


『……その偉大なる力を解放し、我と共に歩め。それが貴殿の果たす役目であり、あらゆる人々に安寧をもたらすことになる』

「ミゲルの詠唱が終わるぞ! もう少しだ!」


 ジークが自身を鼓舞するように声を上げる。


『我は貴殿と契約する者。それは人々の願いのため。やがては朽ちていく世界を見つめよ。あらん限りの力を我に授け、今解放せん!』

「来るぞ!」


 ミゲルは剣を天に突き上げ、禍々しいまでのエネルギーを剣に纏わせる。


『ディフェンディアー!』


 エネルギー体が巨大な剣身となり、それをミゲルは振り下ろす。巨大な剣身がデュークワイバーンの体に激突すると、相手の体はレーザーに焼かれたような激しい音を鳴らしながら斬られていく。


 そしてエネルギー体の巨大な剣身が地面にぶつかると、それは自然と消滅していった。デュークワイバーンの体は真っ二つに分断され、血の一滴すら流れていなかった。それらは地面へと崩れ落ち、やがて周囲は静寂に包まれるだろう。


「勝った……」


 草薙は思わず口に出た。


「そりゃそうさ。ミゲルのスキルは、発動すれば必ず勝てるような必殺奥義みたいなもんだからな」


 ジークが自慢げに言う。


「これは必勝のスキルではないよ。相手の力量を見極めて、適切な力をぶつける非常に難易度の高いスキルなんだ」

「とかいっつも言ってるんだけど、本当かねぇって思うんだよ」

「それは酷くないか?」


 そういってミゲルとジークは笑う。


 とにもかくにも草薙たちはデュークワイバーンを撃破し、クランクの街を守ったのだった。

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