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第28話 食べ歩きした

 二週間ほどかけて、研究員たちによってライジンバッタの駆除状況が確認される。その結果、怪物化ライジンバッタの存在はほとんど確認されなくなったため、駆除は成功したと判断された。


「駆除できて良かったですわ。それでは、私は情報整理のために少し研究所にこもりますわ」


 そういってナターシャは自身の仕事のため、草薙たちと別行動する。


「僕たちはしばらく待機になるから、自由行動にでもしようか」


 ミゲルの判断により、草薙たちは休暇のような時間を得ることが出来た。


「とは言われても、することがないんだよなぁ……」


 草薙は宿の前にある軽食店で、大麦焙煎飲料もとい代用コーヒーを飲みながらパンを食べる。草薙の楽しみの一つに爆食をするというものがあるが、この世界の食べ物は元の世界に比べて淡泊かつ味が薄い特徴がある。時代背景を考えれば当然のことであるが、草薙にはかなり物足りなく感じるだろう。


「……街ブラでもしてみるか。散歩がてらに」


 そういって草薙は代金を払って店を出る。そのまま大通り沿いを歩く。


 大通りには大小様々な露店が並び、雑貨やら日用品やら食品が売られている。雑貨や日用品に興味はないが、食品には大いに興味ある草薙。早速干し肉を二切れほど購入し、その場で食してみる。


(うん、スパイスなどは使用されていないが塩味が効いているし、肉の脂を強く感じられる。これは飴のように、いつまでも口の中で転がしていたい一品だ)


 そんなレビューをしながら、二切れをあっという間に食す草薙。そのまま次の店に行ってみる。


「おっ、ミニクッキーみたいなのあるじゃん」


 ミニクッキーのような菓子は、ブレルラという名前で売っていた。これも購入してみる。


(バターの風味とクルミの触感がベストマッチして、甘さと香ばしさを感じる。これはこれで飽きないな)


 さらに店を進むと、フィナンシェやマドレーヌのような菓子も見受けられる。それらも問答無用で購入した。


(フィナンシェは元の世界よりカリカリに焼いているような触感。それもあってか、香ばしさは非常に感じる。一方でマドレーヌはバターをたっぷり使用していることもあって、しっとり感が非常に強い。これも風味が強く感じられて良い)


 そんな感じで食べ歩きをしていると、いつの間にか日が傾いていた。懐も少々軽くなってしまい、草薙はしぶしぶ宿に戻ることに。


 宿の入口まで戻ると、目の前の軽食店にてミゲルたちが夕食を取っていた。


「お、タケル。今戻ったのなら、一緒の夕食はどうだい?」


 ミゲルがそのように誘ってくれる。


「ごめんなさい、さっきまで食べ歩きしてたので、お腹いっぱいです」


 草薙はそれをやんわりと断る。するとミゲルの眉間に少しだけシワが寄る。


「食べ歩きって、それは行儀が悪いぞ……。故郷ではそれが普通だったのか?」

「え? あ、あぁ、そうだね……」

「人によっては暴行されることもあるから、今後は気を付けるんだ」


 ミゲルから注意されてしまう。


(こういう異文化のマナーで注意されるのは初めてだなぁ……。貴重な体験した)


 草薙はそう思うようにして、宿へと入った。


 状況が変化したのは翌朝になってからだった。


「タケル、急な仕事を依頼された。すぐに準備してくれ」

「急な仕事ですか……?」

「あぁ。ただライジンバッタの件じゃない。別案件だ」


 そういって宿を飛び出し、草薙たちは駐屯地へと向かう。


「来たか。『金剛石の剣』と『ヘイムダルの守り人』」

「緊急の依頼と言われて、急いで参上しました。一体何があったんです?」

「うむ。クランクの西のほうでワイバーンのような影を見たという報告を受けてな。しかもその影はまるでドラゴンにも匹敵するほど巨大だったという。報告に来た伝令は道中ではワイバーンを見ていないとらしいが、とにかく警戒が必要だと思ってな。やってくれるか」


 そういって憲兵は金属音のする袋を取り出す。


「前金として二百セイルを払う。ワイバーンの目撃が誤報か、ワイバーンを討伐すれば報酬として三百セイル支払う。どうだ?」

「分かりました。それで受けましょう」


 ミゲルは仲間や草薙たちに相談せずに即決する。もちろん草薙に異論はなかった。


 早速草薙たちは、クランクの街にある城壁へと昇る。高さは約二十メートルほどあり、比較的遠くまで見渡すことができる。


 そこで草薙たちはワイバーンを見たという西の方角を警戒する。


「本当にワイバーンを見たのかねぇ」


 ジークが胸壁に肘をつき、遠くの方を見る。


「わざわざ嘘を言う必要なんてないだろう。それが誰かをおびき出す口実で無ければ、ね」


 その言葉を聞いた草薙は、思わず背筋が寒くなる。つい先日暗殺されそうになったばかりの草薙は、周囲の警戒に力を入れた。


「そういえば、この辺りにワイバーンの巣とかってありましたっけ?」


 ミーナが当然の疑問を提示する。


「確かに聞いたことはないのです……」


 アリシアは同意する。


「そうなると、誰がどこから呼び寄せた、もしくは運んできたことになる。そんな面倒な方法を使うほどの脅威が存在するのか……?」


 ミゲルが首をかしげる。


 その時、遠くにある森から甲高い鳴き声が聞こえる。それに反応した鳥が何十羽と飛び立つ。


「なんだ今の鳴き声……」

「あ、あれ!」


 アリシアが指を指した先には、巨大な翼のような物があった。


「あの翼、ワイバーンだ!」

「しかもただのワイバーンじゃない……、デュークワイバーンだ……!」


 草薙たちに緊張が走る。

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