草薙たちは一度クランクの街に戻ることにした。ガンモという男の情報を見つけ出す必要があると判断したからだ。
「でも、街に戻っても情報がなかったらどうするんですか?」
草薙はミゲルに尋ねる。
「その時はギルド本部に通達するほかないだろう。一番問題なのは、冒険者であるタケルが襲われたことだからな」
そんな話をしつつ、クランクの街に戻る。すると、街の入口でマシューとアニスが待ち構えていた。
「マシュー、アニス、どうしたの?」
ナターシャが二人に聞く。
「どうしたもこうしたもないですよ! 道中で変な男に遭遇しませんでしたか?」
「変な男……。いたわ」
「あぁ、やっぱり……! その男、反王家派の連中が仕向けた暗殺者ですよ!」
「あー、そんなこと言ってましたねぇ……」
草薙はガンモの言っていた発言を思い出す。
「しかし反王家派の連中か。噂には聞いていたが、実際に手を出してくるとはな……」
ミゲルは深刻そうに言う。特にこのような時代において、王家に反対し実行に移す連中はそれだけで脅威になり得るだろう。
「今回は一人だったので何とかなったようなものですけどね」
「しかし、次どのように来るかは分からないのも事実です。我々はナターシャお嬢様をお守りすることが使命ですので、次回から護衛として同行します」
「分かったわ」
反王家派のことはここまでにしておき、今は怪物化したライジンバッタのことが先だ。焼却処分したライジンバッタの中でも、形を保っていた個体をサンプルとして回収したため、これを研究所に持っていく。
「サンプルの回収、ありがとうございます。駆除の効果は後ほど現地調査で確認しますが、あと数回ほどは様子見で駆除に行ってもらいます」
「完全な駆除ってできるものなんですか?」
草薙は研究員に聞く。
「全ての怪物化のバッタを駆除するのは困難ですが、おおよそ百匹以下になれば自然と消滅するはずです」
(そんなものなのかなぁ……)
そんなことを思いつつ、草薙は理解するしかなかった。
その間に草薙は、ミゲルとマシューと共に近くの憲兵の詰所へと向かう。今回の反王家派の襲撃に関して話をするためである。
「はいはい、反王家派の暗殺未遂ね。それで、肝心の暗殺者はどうしたの?」
「あれは……殺害でいいんですかね?」
「そうだね。タケルがぶん殴って破裂してたし」
「破裂……?」
草薙とミゲルの話に、マシューと憲兵は首をかしげる。
「まぁいいや。とにかく、暗殺者は正当防衛によって殺害したのね?」
「はい」
「それで、その暗殺者とか反王家派の情報はどこから?」
「それは自分からで……」
ここからはマシューが応対する。話を聞く限りでは、最初反王家派だった商人の一人が他の商人からの報復を恐れて寝返ったそうだ。そこから情報が漏れ、こうして今に至るらしい。
「商人も商人で大変そうですね……」
「商人は金と信用が大事な職業だからね」
草薙の愚痴にミゲルが答える。
(そういう意味では、冒険者も実力と信用で成り立っているよな……)
そんなことをふと思う草薙であった。
さて、憲兵の聴取が終わり、草薙たちはこの街の拠点としている宿へと戻る。しばらくはライジンバッタの駆除に注力するだろう。
「あー。しばらくこの街にいるのか……。おいしい屋台とかないかなぁ」
そんなことを言いつつ、街中を歩くのだった。
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王都中心部から少し離れた場所にある商人ギルド。そこにいるのは、今回草薙の暗殺を企てた商人数人とノーフォード公爵である。
「どうやら例の冒険者の暗殺が失敗したようだな」
「しかも下っ端Dクラス商人が夜逃げしたせいで情報が向こうに流出したらしい。こりゃマズったな」
「どうする? また別の暗殺者を用意するか?」
「しかしガンモも高い金を払って依頼したんだ。これ以上の出費は避けたいが……」
商人たちがそのような話をしていると、ノーフォード公爵が口を開く。
「問題ない。私が出資すればいいだけだ」
「しかし閣下……。閣下のお手を煩わせるのは……」
「私は私の願いを叶えるために金を使っている。諸兄らの心配など無用だ」
「ですが……」
「私は目的が達成されるならば、私財を全て投げ打つつもりでいる。諸兄らはその覚悟がないというのか?」
「そんなことは……!」
「最初から覚悟を決めなさい。我々のやっていることは道理に反することなのだから」
ノーフォード公爵は商人たちに喝を入れる。
しかし商人はノーフォード公爵のことが気に入らないようだ。お互いの利益のために手を組んでいるとは言え、このままでは空中分解も近いだろう。
だが、両者ともに使えるところまで使う気はあるようだ。果たして、草薙の運命はいかに。