一週間後。草薙たちは再び王都へ向かう準備を整える。
「それでは行ってきます」
「うむ。道中は魔物などに注意してくれ」
ギルド長が見送りに来てくれて、ミゲルに注意を促す。
そのまま馬車は草薙たちを乗せて、王都へと向かう。王都は西に馬車で一日半ほど移動した場所にあり、道中には宿場町のナゴーラ村がある。今日はそこで一泊する予定だ。
「それで、草薙のスキルはどんなものがあるんだ?」
「えぇと。身体強化以外には短地、自己防御、放出魔法ってのがあります」
「短地……。聞いたことないスキルだな。自己防御ってのもあんまり聞いたことがない」
ジークが顎に手をやり、少し考える。草薙はそれぞれのスキルを簡単に説明する。
「短地は移動距離を短くするようなスキルです。これは身体強化を最大まで高めて地面を蹴っているだけなんですけどね」
「身体強化の進化スキルというわけか」
「自己防御も文字通り、防御力が上がるスキルです。生身で攻撃を受けた時にスキルのレベルが上がりやすい感じです」
「本当にそのままなのです」
「最後の放出魔法は、魔力を属性に変換させずに相手にぶつけるようなスキルです。先日の暗殺者襲撃の時に、ミーナの水魔法を纏ったのですが、それを制御していたらレベルが上がってました」
「正直これが一番よく分からねぇな」
理解が得られているかどうか微妙な状態だ。
「まぁ、仕方ないよ。スキルについてはまだまだ分からない事も多い。もしかしたら王都に行けば、何か分かることがあるかもしれないし」
「そうだといいんですが……」
ミゲルの励ましに、草薙は訝しむ思うのだった。
日が沈み夜になったころ、一行は無事にナゴーラ村に到着した。村と称しているが、その規模は街に匹敵するくらいだった。意外と明かりは多く、活気に溢れていた。
「王都に近い村なだけあって、すごく大きいのです」
「宿場町だから、国から補助金といった支援が手厚いからな。こういう場所が廃れた時に困るのは、俺たちのような冒険者や旅商人だ。国はそれが分かっているからありがたいものだ」
ジークがそのように答える。それを聞いた草薙は、また変な考えが浮かぶ。
(この国、現代日本人が運営しているのか? でなきゃこんなに近代的な国家体制してないぞ……)
勝手に謎を増やしていく草薙であった。
一行は手頃な宿に泊まり、一夜を過ごす。翌日になり、再び王都に向けて出発する。
「さて。王都に着いたら、まずは冒険者ギルド本部に寄る。ギルド長が速達郵便でギルド総長に手紙を送っているはずだ。今、武力省とギルド本部で怪物化に関する情報が集まっているだろう。そこでナターシャさんが情報の整理に加わる」
「はい、もちろんですわ」
「情報の整理には数日ほどかかるだろうから、その間に僕はスキルを習得しに神殿に向かう。その時はタケルのスキルを見てもらうため、一緒に来てもらうよ」
「了解です」
「じゃ、その間俺たちは冒険者たちに怪物化の情報でも聞き込みするか」
「はいなのです」
こうして王都での行動は決まった。
日が傾きだした頃に、王都の東門へと到着した。身分証である冒険者カードを提示し、草薙たちは王都の中へと入っていく。
「城壁も立派で大きいなぁ……」
「ここは王都だからね。もし他国の領土侵入を許したとしても、王都単独で籠城戦ができるようになっているんだ」
草薙の感想に、ミゲルがそのように答える。
馬車は王都の大通りを通り、冒険者ギルド本部へと向かう。ギルド本部の建物はかなり立派であり、一瞬木造のビルを思わせるほどである。
近くに馬と馬車を預け、草薙たちはギルド本部の扉を開ける。
「ようこそいらっしゃいました。本日はどのようなご用件でしょうか?」
高層ビルの入口にありがちな受付と、本来の意味での受付嬢がいた。ミゲルは受付嬢に話をする。
「エルケスの街の冒険者ギルドから来た『ヘイムダルの剣』です。ギルド総長とお会いできるように話が通っていると思うのですが」
「『ヘイムダルの剣』様ご一行ですね。ギルド総長のご予定に入っております。ただいま秘書の職員をお呼びします」
そういって後ろの壁にある複数の紐の一つを引いた。しばらくすると一人の男性職員がやってくる。
「『ヘイムダルの剣』様ですね? お待ちしていました。こちらへどうぞ」
そういって職員の後ろをついていく。階段を登り、建物の五階へと上がる。
その階の奥にある一室に案内された。扉の横には、総長室というプレートが掲げられている。職員は扉を三回ノックした。
「総長、お客様をお連れしました」
「入ってくれ」
中から許可する声が聞こえ、職員は扉を開ける。そこには立派な白い口ひげを蓄えた老齢の男性がいた。
「よく来たな。私が冒険者ギルドをまとめるギルド本部の総長、シーランである」
独特の気迫を発する人であると、草薙は感じ取った。