シーラン総長は席から立ち上がり、草薙たちに握手して回る。
「遠い所、よく来てくれた。エルケスのギルド長から事情は聞いている。立ち話も悪いから、ソファに座ってくれ」
シーラン総長の対面にミゲルと草薙とナターシャが座り、他三人はソファの後ろに立つ。
「さて、ヤツからはカルナス子爵御令嬢のナターシャ嬢が怪物化の情報をまとめていると聞いている」
「はい、その通りですわ」
「先週辺りに国外の怪物化の情報をまとめて送ったのを見ているだろうか?」
「もちろんです。個人的な指摘をさせてもらうと、我が国で発生している件数より遥かに少ないと感じますわ」
「そうだ。現在武力省と協力して国内の情報を精査しているが、国外の全ての件数より数倍も多い。明らかに異常だ。おそらく怪物化の原因が国内に存在し、それが偶然にも国境を超えたと考えるのが筋だろう」
(何? そんなことになってたの?)
草薙は怪物化について何も教えられていない上、自分自身興味はそんなに無かった。そのため、ここで初耳の情報を聞くことも多い。
「まだ正確なことは言えないが、怪物化現象は主に北部の高山地帯周辺で起こっていることが分かった。現象の原因がそこにあるかもしれない。そんなわけで、ギルド本部から調査チームとして冒険者を何人か派遣した。もし危険であれば、すぐに引き返すようにも指示してある」
「そうですか。本当なら僕たちを派遣してくれれば良かったのですが……」
「そういうわけにも行くまい。なにより君たちは、デュークワイバーンを討伐したそうじゃないか。我ら冒険者ギルドにおいては切り札に近い。そんな存在を普通の冒険者感覚で使い捨てるわけないだろう」
(確かに一理あるな……)
そんな風に草薙は納得する。特にミゲルの実力なら、切り札扱いされても仕方ないだろう。
「そんなミゲルでも戦力不足を感じるのか」
「はい。普通の攻撃と、一撃必殺の超巨大攻撃しか出来ませんから。僕がAAA級冒険者になれたのも、超巨大攻撃スキルであるディフェンディアーのおかげなんです。だから今は、普通の攻撃よりちょっと強い攻撃手段が欲しいんです」
「それは難儀だな。しかし、もっと上を目指すために努力をするのは評価できる点だ。その調子で頑張りたまえ」
そういってシーラン総長は出されていた紅茶を飲み干す。
「さて、ヤツの手紙にあった通り、ナターシャ嬢はすぐ下の階で情報の精査を手伝ってもらおう」
「はい」
「それでは、僕たちはここで失礼します。ナターシャさんには後で宿の場所を伝えますね」
「分かりましたわ」
こうしてナターシャをギルド本部に残し、残りの五人でギルド本部を出る。
「それじゃあ俺たちは予定通り、街中で怪物化に関する聞き込みをしてくるよ。まぁ大した情報は出てこないだろうけど」
ジークとアリシア、ミーナは人通りの多い方へ歩いていく。
「よろしく頼むよ。それじゃあタケル、神殿に行こう」
「はい」
ミゲルと草薙は王都の西の方にある神殿へと向かう。
「今から行く神殿はクラザ神殿と言って、主にスキルを司る女神クラウザを祀っている場所なんだ。そして同時に、スキルの覚醒や授与を行っている儀式の場でもある」
「へぇ……」
と言われても、草薙にはさっぱりである。スキルの覚醒や授与の儀式には参加したことがないからだ。
「僕も冒険者を始める前に来てね。その時に覚醒させてもらったのが、ディフェンディアーなんだ。最初はとんでもなく強い攻撃力を持つスキルで嬉しかったんだけど、扱いづらくて使うタイミングがなかなか分からなかったんだ」
「そうなんですね」
「だから今日は、もうちょっと身の丈にあったスキルを授与させてもらって、新しい自分になろうと思っている」
(意識高い系かぁ)
心の中でそんなことを思う草薙であった。
そして二人はクラザ神殿に到着する。神殿には巡礼に来ていると思われる人や、スキルを習得しようとしている冒険者たちで、そこそこにぎわっていた。
ミゲルは早速、専用受付に行き、スキル授与の順番取りをする。本日最後の予約となった。
「あと二時間くらいは暇だな。礼拝堂に行って祈りを捧げようか」
こうして二人は信者たちに交じり、礼拝堂に入った。ミサを受け、教職者からの説法を聞く。そんなことをしているとあっという間に一時間半が経過した。
「それじゃあ、そろそろ行こうか」
ミゲルと草薙は、神殿の中にあるスキルの間という部屋に向かう。この小さい部屋の中で個別にスキルを習得するという。
ミゲルはその部屋の扉をノックする。
「どうぞ」
中からしわがれた男性の声が聞こえる。ミゲルは決心したように扉を開けた。