けど、ここでは常識など意味をなさない。
神々が住まう世界で、生き残るための戦いが始まる。
仲間、敵、試練、伝説——
そのすべてが、少年の一歩から動き出す。
ようこそ、神々の試練へ。
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(一週間が経ち、エデンは訓練と儀式の疲労から完全に回復していた。小屋の前に立つ彼の前で、テンザクが静かに微笑んでいた。)
テンザク「……幸運を祈るよ、エデン。」
エデン「本当にありがとう。」(軽く頭を下げる)
(シュンが腕を組んで隣に現れる。)
シュン「……行く時間だ。」
エデン「うん。……じゃあね、テンザク!」
テンザク「また会えるさ。」
シュン「空間術式:ケルベロスの門」
(巨大な黒い門が彼らの前に現れ、不気味なエネルギーを放ちながら轟音と共に開く。それはまるで次元を繋ぐ道のようだった。)
シュン「準備はいいか? この門をくぐったら……もう元の世界には戻れない。お前の世界観はすべて変わる。」
エデン「うん。六ヶ月前のあの夜に、もう決めてたんだ。」
(シュンは口元を緩めて微笑む。)
シュン「……成長したな。」
エデン「今さら気づいたのか?」
シュン「いや、そういう意味じゃない。前はただの生意気なガキだったが……今は多少、分別がついたようだ。」
エデン「ピンク頭のバカめ。」
(ふたりは門をくぐり抜ける。向こう側には、まばゆい光に包まれた壮麗な都市が広がっていた。)
エデン「……すごい……」
シュン「ここがグレク。ギリシャ神族の故郷にして、GODS学院の所在地だ。」
エデン「神話の授業で聞いた通りだ……」
シュン「お前の世界では、こんな場所はもう“存在しない”。だがここでは、神々が大切にするものは今も生き続けている。」
エデン「まるで、時間と歴史が閉じ込められてるみたいだ……」
シュン「ああ。永遠にあるものほど、人は価値を見失うものだ。」
(シュンがエデンを見て言う。)
シュン「もし探索したければ少し時間を――」
(気づけばエデンの姿はもうない。彼は街へと走り出していた。)
シュン「……ここの言葉、誰もお前と同じじゃないって言い忘れてたな。まぁ、自分で気づくだろう。」
(場面転換:エデンは賑やかな街を歩いていた。目を輝かせ、夢の中にいるかのように。)
エデン(心の声)「まるで夢みたいだ……でも……なんで誰の言葉も理解できないんだ?」
(市場の売り声はすべて古代語。突然、エデンは一人の少女とぶつかる。)
エデン「ご、ごめん!」
???「何よ、バカ!どこ見て歩いてんのよ!」
エデン「え? な、何言ってるんだ!?」
(互いに言葉が通じず、怒鳴り合いに。少女はエデンの首を掴んで地面に叩きつけ、殴ろうとするが――)
???「やめろってば!彼、言葉わからなかっただけだ!」
???「何よそれでもぶつかってきたのは事実でしょ!」
エデン「事故だったんだよ!しかも、あんたみたいなブスにナンパするわけないだろ!」
???「……なんですってぇぇぇ!?!?」
(ふたりは罵り合い始める。少年がため息をつき、2人の頭を同時に叩く。)
???「いい加減にしろ、子供か!」
エデン&少女「……はい……」
(そのとき、ようやくシュンが現れる。)
シュン「……いたか、エデン。って、そのたんこぶは何だ?」
エデン「……長い話だよ。てか、なんでここの人たち、俺の言葉話さないんだよ!」
シュン「言う暇なかったんだよ。」
エデン「でも今は理解できてるぞ?どういうことだ?」
(まわりの人々がざわつき出す。)
???「あれ……あの人って、伝説の戦士シュンじゃないか?」
(シュンが眉をひそめる。)
シュン「……しまった。これも言い忘れてた。」
(人々が集まり始める。)
シュン「エデン……」
エデン「な、なに?」
シュン「……逃げるぞ。」
エデン「……はっ!?」
(シュンがエデンの手を掴み、ふたりは群衆の中を走り出す。)
(しばらくして、ふたりは屋上に倒れ込み、息を切らしていた。)
エデン「……なあ、一体なんだったんだよ、さっきのは……」
シュン「……あとで説明する。ちょっとだけ……休ませてくれ……」
(夕暮れの空の下、ふたりはしばし無言で座り込んだ。)
エデン「……ところで、どうして今は話が通じてるんだ?」
シュン「それはな、ゼンカエネルギーのおかげだ。脳の特定の部位にエネルギーを流すことで、言語が変換されるんだ。実際には、彼らも俺もお前の言葉を話してるわけじゃない。」
エデン「ってことは……最初からお前の口の動きと声がズレてたのも、それが原因か。」
シュン「唇読んでたのか?お前……変わってるな。」
エデン「てか、改めて聞くけどさ。お前って、ここで一体どんな存在なんだ?」
シュン「昔、王様と一緒に戦争に参加してな。その功績でいろんな“伝説”が広まっただけだよ。」
エデン「それであんなファンがいるわけか……って、つまり戦争前はイケメンで、今は呪いでブサイクになったってことか?」
シュン「どうやったらそうなる!?」
(シュンがツッコミを入れようとした瞬間――)
(街に大音量のホーンが響き渡る。)
アナウンス「GODS学院試験の受験者は、闘技場へ集合してください。」
エデン「……今、なんて?」
シュン「試験の時間だな。さ、まずは登録だ。」
(ドゴッ)
シュンがエデンの頭を軽く叩く。エネルギーが脳に流れる。)
エデン「いってぇな!何すんだよ!」
シュン「感謝することになるさ。……さて、行け!」
(ドン!)
シュンがエデンを空へ投げ飛ばす。エデンは叫びながら闘技場へと向かっていった――。
(エデンは地面に大きなクレーターを作って着地した。周囲の地面にはひびが入り、煙が立ち上っている。クレーターの縁から、一人の人物が顔を覗かせる。)
「大丈夫か?」
(馴染みのある声が聞こえる。)
(エデンは埃を払いながら顔を上げる。そこにはシュウが立っていた。)
「君か…さっきの子。名前なんだっけ?」
「シュウ。シュウ・サジェス。ちゃんと名乗らなくてごめんね。」
「俺はエデン・ヨミだ」
(エデンは立ち上がりながら自己紹介を返した。)
「私の名前はユキ・ツカよ」
(長い髪の少女が腕を組みながら口を挟む。片方の眉を上げて挑発的に。)
「え?」
「名乗っておいた方がいいかと思って」
(その口調はやや挑戦的だった。)
「あ、そう…」
(その空気の重さに、シュウは苦笑しながら場を和ませようとする。)
「それよりエデン…シュンとの関係って、どういう感じ?」
「んー…まあ、技術的には…俺の師匠?」
(一瞬の沈黙が流れ、ユキは眉をひそめる。)
「ありえないわ」
(その言葉は鋭く、断定的だった。)
「は?嘘だって言いたいのか?」
「さあ?そう思いたいならそう思えば?」
「なんだよその言い方!?ちゃんと説明しろよ!」
(シュウが一歩前に出て場を収めようとする。)
「まあ、彼女がそう思うのも仕方ないかも。シュンってのはさ…伝説なんだ。どんなに大きな家の子でも、彼を家庭教師に雇おうとして全部断られてるって話だよ。」
「はぁ…だけど、俺は嘘なんかついてない。」
(その時、厳しい表情の男が近づいてくる。)
「すまないが、試験の登録をするつもりはあるのか?」
「はい、今行きます」
(シュウがすぐに答える。)
(シュウとユキは受付へ向かい、名前を書き込む。男は次にエデンを見た。)
「君、名前と師匠の名前を言え。」
「エデン・ヨミ。師匠はシュンだ」
(その場が凍りついたかのように静まり返る。近くにいた者たちも、動きを止めて注目する。)
「これは…冗談か?」
「違います」
「訂正する最後のチャンスだ」
「必要ない。俺は本当のことを言ってる」
(男は眉をひそめ、不機嫌そうに手を伸ばし、エデンの首を掴む。)
「こういう冗談は嫌いなんだ。ここを汚す嘘つきは許さない」
(もがくエデン。だが、力は通じない。その時…)
「オリヴィオ。そのバカな弟子を放してやれ」
(冷たい声が場に響く。男は驚いた表情で、すぐにエデンを離す。エデンは地面に落ちて咳き込んだ。)
「シュン…すまない…俺…」
(エデンは首を押さえながら、周囲の人々がシュンに恐れと敬意を示しているのを見て驚く。)
「なんだよこの人たち…シュンの名前を聞いただけでこんなに変わるなんて…あいつ、一体何者なんだ?」
「オリヴィオ、名前を記入して番号を渡せ」
「…はい。エデン・ヨミ、君は十二番だ」
(シュンはエデンを見て呼びかける。)
「エデン、こっちに来い」
(首をさすりながらエデンが近づく。)
「ここでは一体お前、何なんだよ?」
「さっきのことは悪かったな。オリヴィオは俺の弟で、俺の評判を守るためには少々手荒になることがある」
「ちょっと!?殺されかけたんだけど!?」
「まあ…お前も大概バカだしな」
「ここに来てからずっと変なことばっかりだ。お前の名前出したら殺されかけて、女にぶつかったら殴られそうになって、お前には空飛ばされるし…ほんとイカれてる」
「でも、普通ってつまらないだろ?」
(エデンは深くため息をつきながら、思わず笑う。)
「まあ…そうかもな」
(シュンも口元を緩める。)
「これで正式に登録完了だ。あとは頑張れよ」
「ありがとう、シュン」
「…あれ?今のって素直な感謝?珍しいな」
「うるせえ」
「じゃあな、GODSに入ったらまた会おう」
(シュンに軽く背中を叩かれ、エデンは奥の通路へ進む。)
「十二番、エデン・ヨミですね。左の部屋へどうぞ。順番が来たら呼びます」
「了解です」
(エデンは部屋へ入る。中央に荷物を置き、祖父の剣を取り出して見つめる。)
「俺に…使いこなせるかな…?」
(その時、小さな箱と一枚のメモに気づく。)
『あのアホのシュンが装備のことを言い忘れてたと思ってな。中に必要なもの入れといた。ゼンカ使って開けな。—テンザク』
(エデンは微笑む。)
「ありがとな、テンザク」
(エネルギーを流すと箱が開き、中には軽い革の鎧と黒い剣が収められていた。)
(エデンは鎧を着込み、剣を腰に装備する。祖父の剣と二本差しだ。)
「十二番、出番です」
「はい!」
(エデンは深呼吸しながら心の中でつぶやく。)
(——ここからが始まりだ。もう、後戻りはできない)
(階段を登っていくエデン。その先には、運命を決する戦いの舞台——闘技場が待っていた。)