神の試験が、ついに始まる。
伝説の戦士・シュンが連れてきたという「弟子」が、本当に実力を持っているのか。
数百人の目が、一人の少年に注がれる。
期待、嫉妬、憧れ、敵意。
この場に集った者たち全員が、それぞれの「目的」を胸に抱えていた。
そして、試されるのはただ一つ。
その意志は――折れるか、貫くか。
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(エデンが通路から姿を現す。足元のブーツがしっかりと砂地を踏みしめる。太陽が厳しく照りつけ、巨大なコロシアム全体を照らしている。)
(観客の轟音が、彼の全身を直撃する。)
エデン(小声で)
「……な、なんだこれ……?」
(周囲を見渡す。観客席は満員だ。何千人もの人々が叫び、拍手し、身を乗り出している。中には、彼の名前が書かれたプラカードを掲げている者もいる。)
エデン(心の声)
「ふざけんなよ……まるでサッカースタジアムじゃねえか……」
シュウ(観客席から手を振る)
「エデン! こっちだ!」
(エデンは驚きつつも、急いで近づいていく。)
エデン
「こんなに人がいるなんて思わなかった……」
シュウ
「観客のこと? 当たり前さ。シュンが弟子を連れて来たって噂が広まってるから、みんな興味津々なんだ。」
(周囲の参加者たちがエデンを見つめ、ささやき合っている。)
エデン
「マジかよ……」
シュウ(微笑んで)
「安心しろ。あの“弟子”が君だって知ってるのは、まだ一部だけさ。」
(観客席のどこかから声が飛ぶ。「エデン、信じてるぞー!」)
シュウ
「……あー、どうやら噂は思った以上に広がってるみたいだな。」
(エデンの目が見開かれ、膝が震え、その場に崩れ落ちる。)
シュン(駆け寄ってくる)
「大丈夫か、エデン?」
エデン(息を整えながら)
「うん……平気……ちょっと、休めば……」
ユキ(腕を組んで、冷ややかに)
「どう見ても“平気”には見えないけど。倒れる寸前じゃない?」
エデン
「いつからいたんだよ、ブス……」
ユキ
「最初からずっといるけど? バカ。」
(シュンが心配そうに彼を見つめる。)
シュン
「本当に大丈夫か?」
ユキ
「プレッシャーに潰されそうなんだよ。みんな彼を倒そうとしてるってのに、メンタルがそれじゃあ話にならない。」
シュウ
「ユキ、そんな言い方……!」
ユキ(エデンを真っ直ぐに見て)
「だからこそ、今聞くべきなの。……あなたにとって、これは何?」
エデン(ゆっくりと顔を上げる)
「……何の話だよ?」
ユキ
「プレッシャーに潰されて終わるか。それともそれを背負って、前に進むのか。」
(沈黙が落ちる。)
エデン(心の声)
「そうだ……単純な話だ。オレは別に、こいつらに認められたいわけじゃない。オレは、じいちゃんを取り戻すためにここにいる。あの野郎どもを倒すために、ここにいるんだ。」
(彼はゆっくりと立ち上がり、目に迷いはない。)
エデン
「ありがとうな、ブス。」
ユキ
「その感謝の仕方、どうなのよ……」
(シュウが苦笑する。)
シュウ(心の声)
「……この決意の源は、いったい何なんだ……?」
エデン
「なあ、シュウ。正直、オレがGODSに入れる可能性って、どれくらいあるんだ?」
シュウ
「……ぶっちゃけていい? 今年は、普通の人間じゃほぼ無理だね。」
エデン
「そっか。」
(突然、空から巨大なスピーカーのような音が鳴り響く。観客席全体が静まり返る。)
エデン
「今度は何だ……?」
シュウ
「始まるぞ。」
(観客席の上に、二人の威厳ある人物が姿を現す。)
???(重々しい声)
「もしもーし、これ、聞こえてるかー?」
エデン
「誰だよあのジジイ……」
ユキ(ため息交じりに)
「はぁ……思った以上にバカだったわ……」
シュウ(苦笑しながら)
「あれはゼウスだよ。ギリシャ神話最強の神にして、GODS学院の学長。」
(闘技場は静まり返る。ただゼウスの声だけが上空のバルコニーから響いていた。)
ゼウス「GODS学院の試験へようこそ。今年は…ちょっとしたサプライズをご用意しています。準備はいいかな?」
(観客席からざわめきが広がる。受験者たちの間にも困惑の表情が見える。)
シュウ「サプライズ試験…?」(眉をひそめる)
エデン(心の声)
あのピンク頭のバカ、こんな時こそ興奮してそうだな…
(場面転換。上層の特別席、シュンが突然くしゃみをする。)
ヘラクレス「お前の仕業か?」
シュン「ん? 試験のこと? そうだよ。こっちの方がワクワクするだろ?」
ヘラクレス「弟子には教えてないのか?」
シュン「言われてみれば…いや、教えてないな。でも、それも面白くなる要素じゃん?」
ヘラクレス「…お前、正気か?」
(アフロディーテがくすりと笑う。)
アフロディーテ「まさにあんたらしいわね、シュン。」
ヘラクレス「お前は時々、常識の代わりに筋力で生きてるとしか思えん。」
シュン「ありがとう」
ヘラクレス「褒めてねぇ!」
(ゼウスがアリーナを見下ろし、ほんの僅かに口元を緩める。)
シュン(低くつぶやく)
やべぇ…あの顔はマズい…
ヘルメス「どうした?」
シュン「ジジイが笑ってる…」
(ヘルメスが凍りつく。)
ヘルメス「まさか…」
(ゼウスの目がエデンにロックオンされる。)
ゼウス「見つけたぞ…」
(その瞬間、神のオーラが闘技場を包み込む。空気が裂けるような重圧が降りかかる。)
バァァァン!!
(ほとんどの受験者たちが膝をつき、観客の中にも倒れる者が現れる。)
シュウ「ぐっ…! な、なんだこのエネルギーは…っ!」
(ユキもわずかに震えながら耐える。)
(だが、エデンは立ち続けていた。)
エデン(心の声)
…化け物だ。この力は桁違い。でも、負けるわけにはいかない。
「大丈夫か?」(シュウとユキを見ながら)
シュウ「こっちが聞きてぇよ。…頭、割れそうじゃないのか?」
エデン「何の話だよ?」
(上からゼウスが半眼で見つめる。)
ゼウス(心の声)
流石だな…それにしても驚異的だ。
シュン「おい、ジジイ、そろそろやめろ。殺す気か。」
ゼウス「そうだな…」
(圧力が一瞬で消え、会場全体が安堵の息を吐く。)
ゼウス「ヘルメス、気絶した者たちを医務室に運べ。彼らは失格とする。」
ヘルメス「了解しました」
(アフロディーテが眉をひそめる。)
アフロディーテ「これ、あんたの計画?」
シュン「違う。ジジイが調子に乗っただけ。俺のせいじゃない。」
(アフロディーテが遠くからエデンを見つめる。彼は静かに立っている。)
アフロディーテ「…どうしてあの子、あそこまで平然としていられるの?」
シュン「君の想像より…ずっと深い理由さ。」
(ゼウスが再び口を開く。)
ゼウス「さっきの“ご挨拶”は失礼した。では本試験の第一段階を始めよう。」
「まず紹介しよう。今年の一年生担当講師——愛と美の女神、アフロディーテだ。」
(アフロディーテが優雅に中央へ降り立ち、その姿に静寂と敬意が満ちる。)
アフロディーテ「皆さん、ようこそ。第一試験は肉体能力とゼンカエネルギーの応用力を測るものです。力だけでなく、制御、本能、適応力も試されます。」
ゼウス「さあ、始めよう!」
(場面が変わり、次々と過酷な試練の様子が映る。重りの持ち上げ、険しい地形での疾走、魔法弾の回避、火や闇の中での耐久テスト…)
エデン(心の声)
くそっ…ギリギリじゃねぇか…もっと簡単かと思ってたのに…
(上からヘラクレスが腕を組んで見ている。)
ヘラクレス「お前の弟子、限界っぽいぞ。」
シュン「心配するな。これはただの通過点だ。…本番はまだこれからさ。」
アフロディーテ「信じられないわ…この無茶をゼウスと一緒に企んだのね?」
シュン「俺たちのイメージってどんな感じ?」
アフロディーテ「戦闘狂で自己中心的なナルシスト。」
シュン「ありがとう」
アフロディーテ「褒めてねぇって!」
(ゼウスが手を挙げる。場が静まる。)
ゼウス「結果を発表する。第一試験を突破した者は——」
(緊張が走る。)
ゼウス「合格者、26名。シュウ・サジェス、ユキ・ツカ…ナズ、そしてエデン・ヨミ。」
(観客が歓声を上げる。喜ぶ者、悔しがる者、さまざまな反応が交差する。)
ゼウス「そして……今年はもう一つ。追加の試験がある。」
(会場全体が再び静まり返る。)
ゼウス「内容は…一対一のバトル。参加者は半数。対戦相手は…抽選で決める。」
(金色の紋章が刻まれた巨大な箱が、闘技場の中央に運び込まれる。ヘラが優雅に前へ進み、手を軽く挙げて観客を静める。)
「参加者の皆さん、一人ずつ前に出て、この箱から紙を一枚引いてください。同じ番号を引いた者同士が対戦します。試合の順番も、引いた番号で決まります」
(ユキが迷うことなく一歩前に出る。)
「私が最初に行くわ」
(彼女は紙を引き、開いて見せる。)
「番号は、一番」
(静かにその場を離れる。箱はかすかに光を放ち、次の者を待つ。)
「次は俺の番だな」シュウが前へ進む。
(紙を引き、覗き込む。)
「二番、か…」
(その時、ショートヘアの少女が自信満々な笑みを浮かべながら中央に現れる。)
「道をあけてちょうだい。これからGODSの新たなナンバーワンが通るわよ」
(彼女は紙を引く… そして、それも一番だった。)
「完璧ね。これで対戦相手は決まり」
(ユキは無表情のまま、彼女をじっと見つめている。)
「彼女が?」とエデンがつぶやく。
「ナズっていう。強いし、厄介だよ」シュウが小声で答える。
「昔の友達か?」エデンが尋ねる。
「そんなところ」ユキがナズから目を離さずに言う。「かつては仲間だった。でも今回は——手加減しない」
「ふぅん、じゃあ自信がついたのね?」ナズが挑発的に笑う。
「心配しないで」ユキは金と青に輝く剣を少し抜き、「今日、どれだけ変わったかを見せてあげるわよ…お姉ちゃん」
(エデンが眉をひそめる。)
「姉妹なのか?」
(ユキは答えず、背を向ける。)
「おい、俺はどうなるんだよ?」エデンが叫ぶ。「その話、説明してくれよ!」
「自分の紙を引いてきなさい」シュウが箱を指差す。
(エデンはため息をつき、前へ出て紙を引く。)
「……二番か」
(静寂。)
「マジかよ…」シュウが気まずそうに笑う。
「つまり俺たちが対戦するってことか?」エデンがにやりと笑う。
(ふたりは数秒見つめ合い、空気が緊張する。二人のオーラが微かに揺れ始める。)
「遠慮はしないからな、シュウ」
「俺もだよ」
(観客席では、アフロディーテ、ヘラクレス、ヘルメスが真剣に見つめている。エデンのオーラがすでに場を揺らし始めていた。)
「見た? あの子…」アフロディーテが驚き混じりに言う。
「うむ…間違いなく何かあるな」ヘラクレスが眉をひそめる。
「シュン…あれは一体…?」ヘルメスがつぶやく。
(シュンはリラックスした様子で微笑む。)
「言ったろ? 面白くなるってさ」
(ヘラが再び前へ出る。)
「以上で抽選を終了します。番号一番の参加者は、準備時間として十分を与えます。他の方々は待機室で待つか、観戦していても構いません」
(ユキがシュウとエデンに向き直る。真剣なまなざしを向ける。)
「幸運を祈って」
「頑張れ」シュウが言う。
「運なんていらないだろ、ブス」エデンが茶化すように笑う。
(ユキは鋭い視線を返すが、何も言わずに去る。)
「本気だな」シュウがつぶやく。
「彼女を心配してるのか? それともナズ?」
「ナズの方だ。でも、今のユキなら誰が相手でも手を抜かないよ」
(シュウとエデンは並んで待機室へ向かって歩く。)
「手加減はするなよ」シュウが目を向けずに言う。
「する気はない」エデンが答える。
(場面転換:闘技場。アフロディーテが高台から見守る中、ヘラが手を挙げる。)
「第一試合の参加者、準備してください」
(ユキとナズがそれぞれ反対側に立つ。)
「準備はいい?」ナズが武器を構えながら尋ねる。
「今日こそ、私の力を見せてあげる」ユキが静かに答える。その言葉には底知れぬ威圧感があった。
(ユキの剣が輝き出す。金と青の光。そのオーラが解き放たれる。)
「手加減しないわよ、お姉ちゃん」