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第47章: 10人の王子と王

時には真実は影に隠れているのではなく、金色の玉座に誇らしげに座り、隠れることなく皆に微笑みかけているのです。


また、危険は敵としてではなく、宿主として現れることもあります。


地上世界の物語の中で失われた伝説の都市アトランティスは、海の底で信じられないほどの宝石のように輝いています。しかし、その輝く壁と静かな水の背後には、歴史と美しさ以上のものが隠されています。ここでは、すべての言葉がチェスの駒であり、すべての身振りが古傷の反映であり、すべての出会いが…火花の可能性なのです。


新参者たちは、自分たちが知恵の宮殿に入ったのか、それとも史上最も豪華な檻に入ったのか分からないまま、前に進んでいきます。


ゲームが始まりました。


そして、彼らは皆、すでに中に入っていたことを知らないかのように微笑みます。


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海底都市アトランティス。その中央を走る水晶の水路を、一隻の小船が静かに滑っていた。船底をくすぐるように流れる水の流れが、船体を自然に前へと押し出していく。




船の上では、数人の学生とジャソンが、沈黙のまま展開していく都市の光景に目を奪われていた。




「どうやってこの街の死角を見つけるっていうんだ…」と、ヨウヘイは眉間にしわを寄せた。「王に直接会いたいなら、ほとんど不可能だぞ。都市の各区域に兵が何千といる…」




彼らを外壁から案内してきた案内人、護衛の一人が振り返る。「もうすぐ中央です。アトランティスの首都へようこそ」




まるでその言葉が魔法の合図だったかのように、眼前に都市の全貌が広がった。




まるで太古の樹木のような柱が天を突き、珊瑚と大理石で彫られたような浮遊する家々が、水の上に優雅に浮かんでいた。街路はすべて水路で、そこを市民を乗せたゴンドラがゆったりと進んでいく。




市民たちは一見人間に見えたが、よく見ると、光る鱗や首元に隠されたエラ、非現実的な瞳の色などが浮かび上がっていた。




ゼフは眉をひそめる。「人間…? どうして? アトランティス人って、もっと…違うはずじゃ…。何かがおかしい…」




市民の視線は、敵意ではなく、しかし確かな警戒を孕んだ沈黙の注視だった。




「なあ…」とヨウヘイが低くつぶやく。「歓迎されてる感じじゃねぇな」




護衛は小声で答えた。「彼らが気にしているのは、あなた方ではありません…」




「は?」ゼフが顔を上げる。「どういう意味だ?」




だが、返答の前に、群衆にざわめきが広がった。人々が一斉に水路の脇でひざまずく。




優雅な衣を纏い、ターコイズ色の光をまとった高貴な男が、静かな足取りで現れた。




「久しぶりのお客様ですね」男が穏やかに言った。




「アトラス王子…」と、護衛が頭を垂れる。「お久しぶりです」




男――アトラスは、腕を広げてみせた。「さあ、地上の者たちよ。我らと共に来たまえ。兄弟たちと王が、お前たちを待っている」




「ありがとうございます」ジャソンが丁寧に頭を下げた。「皆、行こう」




ゼフは護衛に一礼しながら、ささやく。「案内してくれてありがとう」




その返事は声ではなかった。だが彼の頭の中に、明瞭な思念が届いた。




「どういたしまして、王子」




ゼフは一瞬、まばたきをした。「……今、なんて?」




護衛は振り返らず、群衆の中へと消えていった。




「おい、水男」ヨウヘイが茶化しながら肩を叩く。「行くぞ」




「は? 今なんて呼んだ?」




答えはなく、一行はアトラスの後に続いた。水中の神々を描いた壁画に囲まれた通路を進む。




「歓迎に感謝します」とジャソンが礼を述べる。




「王の命ですから」とアトラスが答えた。「王――トリトンの許しがなければ、君たちはここに入れなかった」




「なるほど…」




「ところで」アトラスは興味深そうに尋ねた。「どうして我が国を訪れたのですか?」




「次のトーナメントに向けて修行を積みたいのです。水属性を極めるなら、アトランティス以上の地はないと考えました」




「それは光栄です。では、君たちの勝利を楽しみにしていますよ」




通路の果てに、巨大な建造物が姿を現した。




「着きました」




「これは…」ジャソンは言葉を失う。




ゼフもまた、目を見張った。「あの像は…」




宮殿の前には、巨大なポセイドン像が立ち、天を突くトライデントを構えていた。石の目が神秘的な光をたたえていた。




「…でかいな」ユキがぽつりと呟いた。




「ここで待っていてください」アトラスは言った。「兄たちに話してきます」




「分かりました」ジャソンが頷く。




「王座を奪われても、まだここに像があるってことは、やっぱり…」ヨウヘイが腕を組む。




「忘れられてはいないようですね」ジャソンが同意する。




「市民は現王に不満はなさそうだけど」ユキが分析した。




ゼフは静かに首を振る。「あいつはただ、自分の誇りのために王国を取り戻したいだけなんだ。独裁者だったとしても驚かない」




「なるほどね」とヨウヘイ。「でも、見た目だけで判断しちゃだめだぜ」




「……父としては最低だな」ジャソンはゼフを横目で見た。




その時、ゆっくりと扉が開いた。




黄金と深海の気配が同時に流れ込んできた。




そこにいたのは、アトランティスの十王子たち――圧倒的な威圧と気品を湛えた、選ばれし存在たちだった。




アトラスが前に出る。




「お待たせしました。皆さん…アトランティスの十王子です」




アトランティスの王宮から、十人の王子たちが一人ずつ荘厳に現れた。姿も、纏う気配も、表情も――どれ一つとして同じではなかった。水晶のような鎧を纏う者もいれば、水中で舞うような薄布の衣を揺らす者もいた。その場の空気が、まるで息を止めたかのように静まり返った。




アトラスが一歩前に出た。




「現在、国王はお会いできません。その代わり、今夜の宴に皆さまをご招待するとのことです」




ジェイソンは軽く頭を下げた。




「そうですか。残念ですが、承知しました」




「それまでの間、私が滞在先へご案内し、明日からの訓練計画もお渡しします。厳しい日々になるでしょうが、今のうちに休息を楽しんでください」




一行は再び歩みを進め、今度は深海へと沈むように階段状のプラットフォームを降りていく。身体を包むような泡のベールが、彼らに呼吸と動作の自由を与えていた。




ユキは透明な手すりにしがみつきながら、外の光景に目を奪われた。




「…なんて綺麗なの…」




泡の外では、発光する魚、色を変えるクラゲ、小さなサメまでが舞い踊っていた。けれどそのどれもが、まるでゼフだけを見つめているようだった。




「…ちょっと怖いかも」ゼフが一歩退いた。




「俺にとっては良いトレーニングになりそうだな」ヨウヘイが肩を鳴らして笑った。




アトラスは軽く笑みを浮かべながら呟く。




「皆さん、それぞれに楽しみ方があるようですね」




隣で歩くジェイソンは少し険しい表情をしていた。




「そうだな…」




アトラスが声を潜めて尋ねる。




「一つ、聞いても?」




「どうぞ」




「…あの青髪の少年、彼は何者ですか?」




ジェイソンは一瞬言葉に詰まった後、答えた。




「ゼフだ。ポセイドンの息子らしい」




アトラスの表情がわずかに揺れた。怒りではなかった。ただ、静かな驚き。




「そうですか…」




「すまない。話すべきじゃなかったかもしれない」




「気にしないでください。私は…父を恨んでいるわけではありません」




ジェイソンは目を見開いた。




「君は…」




「はい。私もまた、ポセイドンの息子――アトラスです」




その場に、一瞬にして重たい沈黙が降りた。ユキもヨウヘイも目を見開いたまま動けず、ゼフさえも呼吸を忘れていた。




アトラスがゼフに向き直った。




「魚たちが“王子”と囁くたび、君が彼の血を引いているのは疑いようがないと思えてしまうんだ」




ゼフは目を逸らさずに言い放った。




「…あんな奴は、俺の父じゃない」




アトラスが言葉を継ごうとしたとき、ジェイソンがそっと肩に手を置き、首を横に振った。




「…わかりました」アトラスは静かに頷いた。




ついに、彼らは海底にある半透明のドームへとたどり着いた。中には宿泊用の部屋や、水流の通る廊下、珊瑚で装飾された共用エリアが広がっていた。




「宮殿でお待ちしています。それまで自由時間をお楽しみください」アトラスは礼をして去った。




海の蒼に包まれた夕暮れは、やがて無数の光が踊る夜へと姿を変えた。祝宴の場は円形の大広間。ガラスの壁越しに、光を反射する魚たちが優雅に泳ぐ。




そしてその上層部に、漆黒と真珠でできた三叉の矛を携えた王、トリトンが姿を現した。




「本日は遠方よりの来訪、誠に感謝いたします」彼の声は澄み渡り、力強かった。「皆さんの鍛錬の一助となれることを誇りに思います」




市民たちが大歓声を上げた。




「さらに言えば、こうしてまた外界から客人を迎え入れられたことも喜ばしい」




三人の学生が目を見合わせた。




「“また”…?」




その言葉は、どこか含みのある響きだった。だが民は疑いもなく王を称えた。




「王に栄光あれ! 王に栄光あれ!」




その視線がグループに注がれる。




「ようこそ、海の王国へ」トリトンが言った。




ジェイソンは頭を下げた。




「ご招待、ありがとうございます。生徒たちにとって貴重な機会となるはずです」




王はわずかに微笑んだが、その視線がゼフに向けられた時だけ、ほんの一瞬、空気が張り詰めた。




ジェイソンが立ち上がる。




「今宵の祝宴、誠にご馳走様でした。それでは、失礼いたします。明朝より訓練に励みます」




「楽しみにしておりますよ」トリトンの微笑みは冷ややかだった。




彼らが退場するのを、王はじっと見届けていた。




ジェイソンは胸に手を当て、震える指先を抑えた。




「…あの男、ただ者じゃない」




その後ろ、影から一人の王子――エヴェモが現れた。




「何か感じたか?」




トリトンは答えず、視線を奥へと向けた。




「…気になる者がいる」




「それだけか?」




「…もう一つある」




「何だ?」




その問いに、トリトンはゆっくりと口角を上げた。




「この中に…裏切り者がいる」




空気が凍った。王子たちは無言のまま互いを見やった。




エヴェモがくつくつと笑った。




「…面白くなりそうだな」




「そうだ」トリトンは冷ややかに言い放つ。「この“遊戯”…とことん楽しませてもらおうか」

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